20話 重要な話
ユーディアは俺の問いかけに驚く。
「お兄さん、ハイエルフがいる場所を知っているの!?」
「知っているというか。友人である魔王の領地で暮らしていると言っていた」
「魔王さんと知り合いなの!?」
「いろいろと驚かせて悪い。ただ、今から伝えないといけないことだ。ユーディアがハイエルフだと認識したからには、魔王――トワに相談しないといけない。もしかするとユーディアが怯えることなく暮らせる場所かもしれない」
「お兄さん……一緒に旅をするって言っていたのに……」
「ベオルク――ほかの者に教えてはいけない情報だからな。最初に言えなかったのは悪かった。だから選択してほしい。魔族領で暮らすか、俺と一緒に旅をするかを」
「私は……」
戸惑うのも無理はない。ただ、ユーディアには自分が良い方を選んでほしい。
自分が幸せになる道を。
「すぐ答えを出さなくていい。魔族領に行って確かめてからでも、俺たちと一緒に長旅をしてからでもいいからさ。もちろん、自分で考えた道でもいい。全力でサポートする」
「わかった……。考えるよ……」
強引に言ってしまったが、これでいい。
あとはじっくり考えさせて彼女の意思を尊重したい。
「フローラ、悪いがユーディアのそばにいてくれ。俺はやることがある」
「わかったわ。ユーディア、もう大丈夫よ、この私がいるからゆっくり休んでちょうだい」
フローラは宥めながら家の中に入っていく。
さて、俺はトワに手紙を書いて送るとするか――。
手紙を書き終わり、あとは送るだけだ――地面に木の枝で使って転移の魔法陣を描く。
ふう……毎回描くのは大変だ……。
転移魔法は難しい高度な魔法である。
複雑すぎて詠唱で発動することができない。当然、無詠唱なんて論外だ。
フローラさえ無詠唱は「絶対無理」と頭を抱えて言う。
送るのにも限度がある。手紙くらいの小物しか送れない。
俺の力不足でもあるが、それでも十分おかしい古の魔法だ。
フローラさまさまだ。
手紙を魔法陣をの上に置いて、魔力を注ぎ、光り輝いて手紙が消える。
無事送ることができた。
やれるだけのことはやった。あとは子どもたちだ――様子を見に行くと、ベオルクたちがしっかり面倒を見ていた。
子どもたちは大丈夫そうだ。あとはベオルクに任せる。
俺はユーディアの家に入り、2人は1階のリビングにいた。ユーディアはテーブルについて下を向いて落ち込んでいた。
フローラは何も言わずにそばにいる。
「終わったの?」
「ああ、おかげさまでな」
「そう、ならよかった。アタシたち夕食はまだだったわね。アタシが作るから待ってちょうだい。ユーディアも食べるわね?」
「私は……いらないよ……」
「ダメよ、明日から一緒に旅する仲じゃない。明日のために体力つけなくちゃ」
「それでもいらない……」
「まあ、いいわ。台所借りるわね」
フローラは台所に行って料理を始めた。
優しく声をかけたりしてフローラなりの心遣いをしている。
自ら料理するってことはあれを作るみたいだ。
テーブルについて料理を待つ。
1時間くらい経つと、オーブンからチーズが焼けた香ばしいにおいがする。
もうそろそろ出来上がる頃だ。
「できたわよ、アタシ特製のラザニアよ。さぁ、熱いうちに食べましょう」
飛びながらミトンを装着して熱々の大きな器――チーズたっぷり入ったラザニアを運んでランチョンマットの上に置いた。
フローラの得意料理でありおもてなしの一品でもある。
切り分け皿に盛りつける。パスタ生地とミートソース、ホワイトソースの層がきれいに重なって見栄えもよい。
妥協なんて一切ない。はっきり言ってフローラが作った中で一番好きな料理だ。
口に運ぶと、ミートソースに入っている荒い挽き肉とスパイスが主張してその後にホワイトソースとチーズ――パスタが包み込んで味をまとめてくれる。
いつ食べてもおいしい。ほか――宮廷料理でも真似ができない品だ。
「さすがだな」
「当然よ。ほら、ユーディアも食べて、あなたの好きな山菜は入ってないけどおいしいわよ。一口でもいいから」
「うん……」
少し強引ではあるが、ゆっくりと口に運んだ。
すると、涙を流して次々と口に運ぶ。
「おいしい……。こんなおいしい料理……はじめて……。フローラちゃん、魔法を使ったの……?」
「えぇ、使ったわよ。「愛情」という名の魔法を――ユーディア、頑張ったわね。もう1人で抱えないで少しはワガママ言ってね」
「うん……」
フローラは近寄り頭をなでる。少しは楽になっただろ。
ここまで1人で背負って我慢していたのは本当に偉い。
この子が決断するまでしっかり面倒を見る。
食べ終わり、食器を片づけて、すでに深夜になった。
「ユーディア、寝室を壊してしまって申し訳ない」
「お兄さんが私を助けるためにやったことだから謝らないで」
寝室はロリコン野郎ぶん殴って壊してしまって使えない状態だ。
本当に申し訳ないが、リビングにあるソファで寝てもらうしかない。
「それなら寝室ならアタシが魔法で元通りにしたわよ。確認して」
復元魔法を使ったのかよ……。フローラしか使えないオリジナルの魔法を……。
2階に上って寝室を確認すると、窓ガラスは元通りになっていた。
本当になんでもありな精霊だ。
「フローラちゃん、そんなことできるの!?」
「今回は特別よ。魔力の消費が激しいからあまり使えないわよ。それよりもほら、みんなで一緒に寝ましょう」
フローラは隣通しのベッドをくっつけてる。なるほど、フローラを心配させないようするためか。
なるほど、良い考えだ。
「じゃあ、真ん中で寝る!」
「ズルいわよ! これじゃあ、レイに抱きつけないじゃない!」
俺に抱くつくためにくっつけたのか……。
「これは私のワガママなのお願い!」
「しょうがないわね……。今回だけよ……」
なぜそこまで悔しがる?
隙あれば抱きついてくるのに我慢しろ。
「えへへ、お兄さんとフローラちゃんと一緒……」
ベッドに入るとユーディアは俺たちの腕を組んで笑顔だった。
「いまさらだが、男の俺と一緒に寝て平気か?」
「お兄さんだから平気だよ」
ロリコン野郎のトラウマで男が嫌になると思ったが、大丈夫みたいだ。
まあ、一緒に寝るのは今回だけにしよう。
これからの旅――野営のときは別々にテントを張ってフローラと一緒に寝させたほうがいいな。
フローラには申し訳ないがそういう方針で決まりだ。




