19話 今後の説明
ユーディアを介抱しながら外に出て待っていた。
すると、フローラと一緒に向かってくるのは――金髪ショートの正装をした男と頑丈な鎧を装備した黒髪ロングの女王国騎士である。
やっと来たか……。そう王様の息子であるベオルクだ。
隣にいる騎士は――副隊長のアオイ・ウルシェラか。
お偉いお二方が来るとはかなり大事だな。
「遅いぞ、ベオルク。もう片付けてしまったぞ」
「レオさん……山間部に呼んで無茶を言わないでください……。いろいろ調べるのに大変だったんですよ……。それで、無残な姿になっている愚か者は?」
「ああ、アタナトだ。こいつがすべての元凶だ」
「そうですか。アタナト・モルテ、いや――聖審教会四階級所属のコリセリ・ガーバー、詐欺と横領で連行する!」
そこまで調べがついていたのか。
こいつ、階級所属なのかよ……。
最近、聖審教会の方針が変わって階級に分けられた話は聞いている。
確か八階級まであったはずだ。四階級はかなり上のはずだ。
「な、ぜ……王族がここに……?」
気絶していると思ったが、意識があるとはなかなかしぶとい。
「俺が呼んだだけの話だ」
「あ、ありえん……。お、王都まで一週間以上はかかる……」
「お前、俺を甘く見過ぎだ。ベオルク、送った物を見せてくれ」
「これですね――」
ベオルクは偽装された同意書を見せる。
「な、なぜそれを持っている……?」
「お前がワインを飲んでいる隙にアイテムボックスに入れておいたのさ。それで本当なのか確かめるために転送魔法でベオルクに送ってお願いしたというわけだ」
「コリセリ・ガーバー、白状しろ。すべて調べさせてもらった。ヘールズ商会に確認したところ、村のエルフが出稼ぎに来ている話はなかった。この同意書は偽物ということ。アタナト・モルテはヘールズ商会にいたが、もう死去してこの世にはいない。そして、エーニ・ラピスラズリの口座を調べたところ、聖審教会に全部が回っているということが! ほかにも調べるとお前の名前が浮上した。言い訳は無用だ。おとなしく王都に来てもらうぞ」
エーニの口座まで手を出していたのか。
思っている以上にクズすぎる。
「まだ……まだ儀式が終わって……」
「ひぃ!?」
アタナト――コリセリはユーディアを見てボロボロの体を這いつくばって寄ってきようとする。
当然、俺の背後に隠れる。
「はいはい、儀式とか訳のわからないこと言わないでこっちに来なさい」
アオイは両足をつかんで引きずって、離れさせた。
クズ野郎どもは王国騎士に任せる。
「ところで、レオさん……なんで僕にお別れの挨拶はしなかったのですか……?」
「お前、遠方に行っていると聞いたから、挨拶するまで待つ余裕なんてなかったぞ」
「ですが……最後にフローラさんにあれをやってほしかった……。では報酬としてあれをお願いします」
ベオルクはフローラを見てにやつく。
あれかよ……。もう大人になったからやめろよ……。
まあ、無理に動いてもらったし、あれで済ませられるのは安い。
「はぁ~しょうがないわね~。心の準備があるから少し待って」
「ありがとうございます!」
フローラはベオルクにいろいろと恩があり、多少のワガママは聞いてくれる。
恩というのはアレク関係がほとんどだ。あまりにしつこいとベオルクを呼んで説教してもらうのが定番であった。
「まだ、この件は終わっていない。話がついてからにしてくれ」
「す、すみません。そうでしたね……。その前にこの子の前では話しづらいです」
「ああ、この子はエーニ・ラピスラズリの娘だ。聞いて問題はないだろ」
「この子が……わかりました、問題ありません」
察して助かる。ユーディアには辛いが聞いてもらわないと話が進まない。
「村の大人たちのだが、どこに行ったか調べてほしい。見つけ次第、保護してくれ。それと、この村にいるのは危険だ。子どもたちを聖審教会に見つからないように匿ってくれ」
「わかりました。できるだけ尽力いたします」
「私たちどこに行くの……?」
「ああ、悪いがユーディアはみんなとはいけない」
「えっ、どうして?」
「これから話す。悪いがユーディアの素性も話さないといけないが、いいか? 大丈夫、こいつは口が堅いから誰にも言わない。俺を信じてくれないか?」
「わかった……。いいよ……」
少し考えて返答してくれた。
悪いことをしているのはわかる。これが最善の選択かわからないが、それしか残っていない。
「レオさん、この子に何かあったのですか?」
「実はこの子、ハイエルフだ」
「……は、ハイエルフ!? 絶滅したのではないのですか!? ではエーニ・ラピスラズリは――」
「普通のエルフだ。ユーディアから聞いた話だと両親ともエルフと聞いている。稀にエルフからハイエルフが生まれることは聞いている。もちろん、他言無用だ」
「わ、わかりました……。ということは……お城に匿うことでよろしいでしょうか……?」
「違う、城で匿うなんて、どこぞのバカ親父が民衆にさらけ出すぞ」
「た、確かにそうですね……。父上ならやりかねません……。ではこの子はどうするつもりで……?」
「俺が保護する。もし、ばれても聖審教会が俺を手出しできるはずがない。それにこれから極東に行く、聖審教会と無縁の地に行くから安全ではある」
「えっ、お兄さんと旅をするってこと!?」
「悪いな、俺が勝手に決めた話だ。わかってもらえなくていい。嫌なら断ってもいい」
「わ、私……行くよ……。私……狙われているならお兄さんとフローラちゃんと一緒に旅がしたい……」
もう少し考えるかと思ったが、返答が早い。
ハイエルフという立場と思うとこの選択しかないと察したか。
「ありがとう。わかってくれて。そういうことだフローラ、いいな?」
「しょうがないわね。そういう事情なら面倒見てあげるわよ」
さすがのフローラでもこの状況は承諾せざるを得ない。
というか、フローラが面倒を見られる側になりそうだが。
「レオさんが保護なら問題ありませんね」
「これからはユーディアは普通のエルフだ。普通のエルフだからな」
「念を押さなくても大丈夫です。エーニ・ラピスラズリの子どもはエルフと報告しますね」
「それでいい。それと、エーニの金を取り返してくれ。本当ならユーディアのものだ」
「もちろんです。ご心配しなくてもそのつもりですよ」
「お母さんの大事なお金が……よかった……」
ユーディアは少し安心しただろう。
だが、親を奪われた傷は消えない。
「頼むぞ。ただ、気がかりなのが、どうしてエーニの口座をおろすことができた? 銀行は厳重ではないのか?」
「それが……銀行員の中に聖審教会の者がいて……裏工作をして教会のほうに回していたと……」
だから簡単におろすことができたのか……。
もう呆れるしかない……。
「わかった……。そういうことならセインデ・ガラマサに言ってくれ――もし、俺たち手を出すなら終焉魔法でお前の教会を吹き飛ばしてやるとな……」
「それだけはやめてください!? 教会では収まらず王都まで消えますよ!? 聖審教会に適切な処分を下すので終焉魔法はやめてください!?」
脅しのつもりで伝えようお願いしたが、ベオルクにまで恐怖心を抱くとは、
まあ、王都だけでは済ませられないけどな。
「冗談だ。だが、それくらい怒っていると言ってくれよな?」
「は、はい! はぁ~、よかった……レオさんは本気でやるからこわいですよ……」
「冗談だから、この世の終わりのような顔をするなよ。疲れているなら少し休めよ」
「あ、あなたのせいですよ……。まだ確認しないといけないことがあるので失礼します……」
そう言ってベオルクはこの場を離れた。
だが、まだ話は終わっていない。これからもっと大事な話をユーディアにしないといけない。
ベオルクに聞かれては困ることだ。
「ユーディア、ちなみに同族――ハイエルフに会いたいと思うか?」




