18話 商人の正体
「きゃあぁぁぁ!?」
ユーディアの悲鳴が聞えた。間に合うか――。
急いで家の中に入り、ユーディアがいる2階の寝室に駆けつける。
ドアを開けると、上半身裸のアタナトとうつ伏せで抵抗できないユーディアの服を脱がして襲おうとしている。
このロリコン野郎が……。
「これはこれは……。レオ様ではございませんか……」
アタナトは俺に気づき振り向くと驚きはせずに不気味な笑みを浮かべている。
今からぶん殴るのに余裕だな。
「今助けてやるからな――」
「動くな!」
アタナトはズボンのポケットの中から魔石を取り出し床に投げると、俺の下――床に魔法陣が発動して周りに四角錐状の光沢がある結界が張られた。
そして振り向いたときに気づいた。
首に付けている十字架……旅で忘れたいほどバカな集団――このロリコン野郎、聖審教会の奴だ。
はなから異常とは思っていたがここまでクズとはな……。
「聖審教会が使う魔族封じの結界か」
「あなた様でもわからないようですね……。残念、すべての者を浄化する聖域です! たとえ強い冒険者でも浄化され、神の一部となるのです!」
なに勝ち誇った顔をしている?
ロリコン野郎の遊びに付き合って暇はない。
結界を殴ったが…………意外に硬いな……。龍の鱗を砕くほどの強さだぞ。
「無駄ですよ。あなた様のお得意な魔法でも聖域は破壊されません。そこでおとなしく儀式を見ていてください。あっ、浄化されて途中退場するのでした。大変失礼しました」
よくもまあ、変な物を作ったものだ。聖審教会は暇人しかいないのか?
「何が儀式だ? ただ未成年を犯そうとするロリコン野郎にしか見えないぞ。イカれた行動して上が許されないぞ」
「残念です。あなた様みたいな凡人にわからなくて結構です」
狂っている奴に言っても無駄か。
「ユーディア、逃げられるか?」
「お兄さん……身体が痺れて動かないの……た、助けて……」
「ユーディア、心配することはありません。あなたに聖薬を与えただけです。ユーディアは効き目が薄いのでほかの子より早めに与えました」
その前に盛っていたのか……。疲労が溜まっていたのは薬の蓄積か。
「アタナトさん……なんでこんなひどいことするの……?」
「酷いとはなんのことです? あなたは私の伴侶して選ばれたのですよ。そう、神の導きにより選ばれたのです! ご覧なさい――」
アタナトは十字架を外し、手に持ってユーディアに近づけると、付けている魔石が輝き始める。
「ああああ……この輝きこそ、私が求めている魔力! 美しい……。あなたと繋がれば私は若返り、神と同じ道を進むことができる! まだ幼くはありますが、ここを知られた以上、儀式を早めにすることに決めました!」
こいつ、昔のバカげた迷信を信じていたのか……。
魔力が多いエルフと人間が繋がれば若返り、不老を手にする話を、いや、聖審教会の奴らなら信じ切ってもおかしくない。
あの魔石はエルフの魔力に反応するように作られているようだ。
「えっ……? じゃあ、はじめから私がハイエルフのことを――」
「ユーディア、それ以上言ってはダメだ!」
「ハイエルフ……? ハイエルフだと!? ああああああ、そうか……そういうことなのか! なんという偶然! なんという運命でしょうか! ユーディアが神が創造した子だとは思いませんでした! これは神の導きしかありませんか!?」
突然発狂しながらクルクルと回り、不気味な笑みを浮かべていた。
マズいな……ハイエルフと知ってしまったか……。
面倒なことになった。聖審教会の奴らはハイエルフを神話に出てくる神の使徒と妄想を膨らませていたはず。
それを知らされると、ユーディアは一生目を付けられる。
このロリコン野郎を野放しにはできない。
「しかし、残念です……。最初に狙っていたエーニもハイエルフと気づきませんでした。もったいないことをしました。もう少し丁寧に扱えばよかったです」
「狙っていた……? お母さんに何かしたの……?」
「あなたと同じ聖薬を飲ませました。ただ、量を間違えたせいで神のもとへ旅立ってしまいました。実に残念です……」
「じゃあ、お母さんは病気じゃなく……薬の副作用で亡くなったの……。ひ、ひどい……信じていたのに……な、なんで……?」
ユーディアは涙を流して訴える。
自分の欲のためにエーニを……。そして娘を巻き込んで……とんだ最低のクズだ……。
だから聖審教会は嫌いだ……。
「泣かないでください。決してエーニの死は無駄ではありません。少々、舞い上がってしまいましたね。では――儀式を始めましょう!」
「や、やめて!? こ、来ないで!?」
これ以上純粋な子を汚すわけにはいかない――。
長話したおかげで結界を破ることができる。
俺は魔法陣に手を当て、解除魔法を発動させた。
結界は粉々になり消えてしまう。
砕け散る音でロリコン野郎は振り向いて真っ青になる。
「な、なななななんで破壊できる!? 神から与えられた聖域を!?」
ちょっと魔法陣の構造に時間がかかったが、わかればすぐ解除できる。
これが聖域とは笑わせる。
もう遅い――。
「――――ブエェ!?」
顔が潰れるほどの力で殴り、窓ガラスを突き破り外に吹き飛んでしまう。
地面に倒れると顔は原形をとどめていなく、痙攣して起き上がることができない状態だ。
「もう大丈夫だ。頑張ったな」
ユーディアに解毒魔法をかけて完治させる。
「お兄さん……こわかった……こわかったよ……」
急に俺に飛びついて涙を流した。
胸くそ悪い展開だ……クズ野郎のせいでこの子――村の子全員の人生が台無しにされた……。
ふざけるな……一生傷がつくだろ……。
聖審教会……俺を怒らせるとわかっているよな……?
後悔させてやる……。
まずは周りを処理しないと――。
『レオ、あいつがやっと来たわよ!』
フローラから念話が来た。
やっとか……。にしても、いいタイミングで来たな。
狙ってきたわけではないよな?
まあいい、後処理はあいつに任せられる。




