17話 監視は続く
――監視して3日が経つ。
今のところアタナトの動きがない。
まだ5日しか経っていない。そんなすぐに怪しい動きはないだろうな。
ただ、俺たちと別れたあとに子どもたちと一緒にいる時間が多いことが気になる。
いたって普通だが、どうも引っかかる。
気がかりなのはユーディアがヘトヘトで村に帰っている。全然約束を守ってくれない。
「これじゃあ、ユーディアを監視しているみたいじゃない……。もう無茶をしすぎなんだから……」
フローラはため息をついて戻ってきた。
「今日は早めに帰ってきたが、何かしたのか?」
「そうよ、アタシが山菜を採って目の前に落としてやったわ。それも子どもたち1週間分は賄えるくらいよ」
心配しすぎて手伝ったのか……。
「そんなことして不自然ではないか? いくら純粋のユーディアでも怪しいと思うぞ」
「その心配はいらないわ。アタシが魔法で山の神の声を創って――「ホ・ホ・ホ、頑張っている良い子には、この山菜をくれてやろう」と言ったら、感謝しながら拾ってくれたわよ」
胸を張りながら自慢げに言う。信じたのかよ!?
山の神の声ってなんだよ!?
いくらなんでも信用してはいけない……。
純粋なのはいいが、この先、ユーディアが心配でしかない。
「あの疲れは放っておけないな……」
「そうでしょう! それにしても……あんなに疲れているのに行くなんておかしいわよ……」
「日頃の疲れではないのか?」
「そうだといいけど……。急に息切れして驚いたわ……」
そんなに無理していたのか?
限度っていうのを覚えてくれ。
さすがに疲れてユーディアは家の中に入っていく。
これで休まなかったら俺も魔法で隠れて手伝うところだったぞ。
しかし、アイツが動いていないってことは俺の思い違いなのか?
ユーディアの心配もあるし、あと1週間くらいは様子を見る。
夕日が沈み、子どもたちはアタナトと一緒に夕食を食べていた。
すると、舗装された道に十数の馬車が村に向かっているのが見えた。
魔力感知で確認すると……いない。
エルフの魔力は感じない。これは――。
「フローラ、急ぐぞ」
「言われなくとも」
俺たちは崖から降りて急いで村に向かう。
入り口前には、大人たちが帰ってきたと思っている子どもたちとアタナトに、馬車から賊っぽい奴ら――男ども数十人が次々と下りてくる。
「あとは任せました」
「お任せください! それで……少しは味見してもいいですか?」
「上物だけは残しなさい。ほかは壊れない程度でお願いします」
「「「よっしゃぁぁぁぁ!」」」
男らは歓喜のあまり大声で叫び、アタナトはその場を離れて村の奥に行く。
まさか俺の予想どおりになるとは……。
商人は商人と言っても奴隷商か……。
ヘールズ商会は真っ赤な噓で大人たちはまんまと騙されて奴隷にされて売り飛ばされた可能性がある。
どうやってエーニの情報とこの村の事を仕入れたかわからないが、この辺境だとクズがやりたい放題なわけだ。
このままでは子どもたちが危ない。早く逃げてくれ、俺が拘束魔法でまとめて捕まえてやる。
しかし、子どもは誰1人も動かなく、ゆっくりと地面に膝をついている。
魔法を使われている気配がなかったが、いったいどうして?
「グへへへ……やっと効いてきた……。どうだ、マヒマヒ草を使ったお手製の薬は? 全身痺れて動けないだろう? アタナトの旦那もえげつないことを考えやがる。そのおかげで抵抗なくじっくり味わえる……」
マヒマヒ草って……摂取したら半日は動けないぞ……。
まさか一緒に食事していたのは薬を盛るためなのか。
チィ、魔法でまとめて拘束しようと思ったが、子どもに近くにいると被害が出る。
仕方がない、1人1人相手してやる。
「フローラ――あれ? どこに行った?」
一緒に隠れていたフローラはいなかった。
「グへへ……それじゃあ、いただき――」
「待ちなさい!」
「誰だ!?」
男どもが子どもに触れようとした瞬間、フローラが大声で振り向いた。
腕を組みながら堂々と男どもの前に。姿を表して何を考えている……?
子どもが人質にされているのだぞ。
「あ~あ~、この光景なんて636回目よ。ゴブリンと同じでいやになっちゃうわ。この世界一の美女が相手してやるのだから光栄に思いなさい! さぁ、かかって来なさい、オスゴブリン!」
挑発してどうする?
その手に引っかかるバカどもではないぞ。
「グへへ……こんな上物がいたとは、運がいいぜ! しかも誘ってやがる! 誘っているならしょうがない、お望みどおりお前から相手してやる……」
男どもはよだれを垂らしてフローラの方に向かう。
マジかよ……。
とにかく、バカどもはロリコンで助かった。
そして襲いかかろうとしたすると、フローラは――。
「「「グアァァァァァ!?」」」
重力魔法を使って、バカどもを地面に押さえつけ、身動きを取れなくする。
単純な誘いに引っかかるとは情けない。
「オスゴブリンは地面と交尾するのがお似合いよ」
「高貴である精霊がはしたないこと言うのではない」
「本当のことだからいいじゃない。アタシに欲情した罰よ」
「まあ、こいつらがフローラのロリ――いや、フローラの容姿のおかげで子供たちが汚されずに済んだ」
フローラにロリ体型と言うと怒られるから訂正した。
後々拗ねるから困る。
「ふふん、美女に敵わないのは当然よ!」
聞えていないならよし。
「し、しねぇぇぇぇ!?」
はぁ、バレバレだ。馬車の中で怯えて待っていれば手荒な真似はしなかった。
「グエェ!?」
背後から俺を斧で切りかかろうとしたひょろがりの男を避けて、腹パンをして、吹き飛んでいく。
加減をしたが、軽すぎて意外に飛んでしまった。
とりあえずバカどもは黙らせることができた。
子どもたちを解毒させたいが、まだやることがある。
「フローラ、解毒と、見張り頼めるか?」
「もちろんよ! 早くあの子のとこへ行ってちょうだい!」
さすが、わかっている。
アタナトが向かっているのはユーディアの家だ。
俺は急いでユーディアのもとへ行く――。




