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16話 監視


 フローラに急かされて森の奥に進むと、川のが流れている音が聞えた。

 草をかき分けてると、川で休んでいる無数のシルバーディアーがいた。


「わぁ~、久しぶりに見た! お水を飲んでかわいい!」


 ユーディアは目を輝かせて喜んでいた。あの大型の魔物を見て全然驚かないのは本当に好きみたいだ。

 

「久しぶりなのはわかるが、あまりはしゃがないようにな。かなり敏感だからこれ以上は危ないぞ」


「うん! わかっているよ!」


 本当にわかっているだろうか……。

 まあ、銀鹿が気づいていないし、喜んでもらえているならいいか。


「じゃあ、アタシは散歩に行くわよ。終わったら声かけてね」


「ありがとう、フローラちゃん!」


 フローラは用が済むとこの場から離れてる。

 獲物と見ている魔物に観察という概念がないしな。

 

 俺はこういうのも悪くはない。

 

 ユーディアの反応を楽しみつつ、時間が経過して昼過ぎになった頃に銀鹿は一斉に立ち上がり、川を渡って奥に進んで行った。


「もうちょっと、見たかったな……。残念……」


「またの機会ってことだ。大人になれば好きなだけ探せるぞ」


「そうだけど……。まだ先の話だよ……大人になってもすぐ遠くに行けるほどの強さになれるかわからない……」


「いや、山菜採りを毎回こなしていれば大丈夫だが……」


「それでも時間が……。じゃあお兄さん、また来てくれる? また一緒に見たいのお願い!」


 味をしめたか……。

 必死でお願いすることではない。


「言っておくが、まだ旅の途中だ。仮に約束しても数年は来られない。その前にユーディアが大人になって銀鹿を探せるくらいにはなっているぞ」


「いいよ、お兄さんとフローラちゃんと探しに行くの楽しいから待っているよ!」

 

 俺たちとまた会いたいのか。

 待つほど気に入られるのは嬉しいかぎりだ。


「わかった。必ず会いに行くよ」


「ありがとう! 絶対約束だよ!」


 頬を赤くして笑顔で返してきた。

 

 少々安易に約束してしまったが、これも縁ってやつだ。

 

 とはいえ魔王(トワ)に報告したあとにどうなるかわからない。

 もしかしたら監視してくれと言われる可能性はある。


 けど、この子のためにもトワに言わないほうがいいか。

 こんな辺境で暮らして誰もハイエルフと気づかれてないならこのままでもいい。


 とりあえず、すべて解決したら考える。


 そう、すべて解決するまでは。



 ◇ ◇ ◇



 ――村から出る日となった。


 見送りに門前にはみんな俺たちの見送りをしてくれる。

 

 あっという間にだったな。

 あれから俺たちは村の手伝いをしてのんびり満喫していた。


 と言っても山菜採りが大半だったが……。

 さすがにユーディアを1人では行かせられなかった。

 そして毎日山菜を食べる日々が続いた……。 


 別においしくて飽きはしなかったが、もう人生の一生分、食べたかもしれない。

 まだまだ人生長いのにそう思ってしまう。当分はいいかな。


「お兄さん、ありがとう! 絶対来てね!」


 ユーディアは笑顔いっぱいにして手を振ってくれる。

 初めて会ったときより、心に余裕がある。

 今後も無茶をしてくれないといいが。ただ、それが心配である。

 だが、心配いらないところもある――銀鹿を観察した以来、夜泣きがなくなったのは驚いた。


 治すきっかけができてよかったと思う。


「レイ様、フローラ様、ご安全にお過ごしください」


 アタナトはお辞儀をして見送ってくれた。


 結局、アイツは最後まで俺たちと会話しなかった。

 接待をしないくせによく村長代理とか言える。

 別にしなくていいが、最低限のことをしないで呆れるしかなった。


 そう思いつつ、みんなに見送られ整備された道を歩いて姿が見えなくなるまで手を振って別れる。


「あの。エセ商人……覚えておきなさい……」


 フローラは村長代理のくせして自分を接待しなくてご立腹のようです。

 こういうのは根に持つタイプだから、あとが恐ろしい。


「よく我慢したな。それじゃあ、次の段階に進むか――」


 俺たちは道を外れて急斜面を登り、村全体を見渡せ、人が住める洞穴に移動した。

 そう、俺たちはアタナトをまだ疑っていて、納得いくまでここで監視するためだ。


 前回、旅の食料調達と言って、監視できる場所を探していた。

 ちょうど、村を見渡せる場所を見つけて、環境を整えるため準備をした。

 ほとんどが魔法で洞穴掘って住みやすい準備をしていた。

 別に洞穴を掘らなくてもテントで十分だと思ったが、風が強く吹き飛ばされそうだから作った。


「ふわぁ……アタシの出番はなさそうね……。レオも真剣に監視しないで気長にいきましょう……」


 フローラはあくびしながら背中に抱きつく。

 もちろん、フローラから許可をもらっている。なんだかんだ村の子を心配して普通に承諾してくれた。


 神経がすり減るほどはしない。

 俺たちはよそ見しても魔力を感知して怪しい動きを察知できるけどな。


 フローラの言う通り長期の監視だし気長にいこう。


「あっ、ユーディアが外に出たわよ! まったく……しょうがない子ね……。アタシ見てくる」


 フローラは隠密の魔法をかけてユーディアの後を追う。

 あれほど、ほどほどにしろと言ったのに出かけたのかよ……。


 フローラが心配するほどとは……困った子である。


 監視が終わっても、心配になりそうだ。

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