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15話 観察


 アイテムボックスからシルバーディアーの肉の塊を出すと、子どもたちは大喜びで切り分ける。

 どうやらこの村にとって年に数回しか取れないご馳走らしい。

 大人がいなくなって狩る人がいなく、今では食べられないようだ。


 普通に食べているのか……。

 

「お兄さん、レバーはないの? 甘ダレにつけて山菜と一緒にで炒めるとすごく美味しいよ! 銀鹿のレバーは豚のレバーより栄養価が高く滋養強壮にいいんだよ! 明後日のためにも力をつけなくちゃ!」


 ユーディアはどこまで詳しいんだ?

 母親(エーニ)が教えたのかもしれない。

 子どもに滋養強壮という言葉はまだ早い気がする。


 まだそんな歳でもないぞ。


 しょうがない、レバーも出すか。


 レバーを出すと、子どもたちも大喜びだ。

 クセのある部位なのに喜ぶとは好き嫌いがなくて偉い。


「このことはアタナトに言うなよ」


「わかっているよ! もしアタナトさんに言ったら毛皮を買い取ってほしいとうるさいからね! 村にある毛皮なんて商会に全部売ってほしいとしつこく言われてここにはもうないからお兄さんは正しいよ。お兄さんにとって毛皮は旅の毛布として使うから絶対に言わないよ」


 アイツ、村にある品まで手を出していたのか……。

 村の人が承諾しているならいいが、遠慮という言葉がないようだ。


「戻ったわよ~。って、銀鹿の肉渡したの!?」


 フローラが戻ってきた。もうそんな時間か。


「まあ、いろいろと訳があって1頭分、分けてな」


「1頭くらいならいいわよ。みんな、アタシたちが狩った鹿だからよく味わって食べなさい。ほら、山菜も採ってきたわよ。」


 フローラはアイテムボックスから山盛りの山菜を出す。

 珍しく文句を言わないな。

 よほど散歩して上機嫌なのかもしれない。


「わ~い、ありがとう! これで山菜とレバー炒めが作れる!」


「この子、なんでも山菜を入れて飽きないの?」


 俺も最初はそう思ったが山菜採りが趣味なら飽きずに食べられるのかもしれない。


 夕食の時間――シルバーディアを使ったシチューに、ハチミツと香辛料で漬けたレバーと山菜の炒めが食卓に並び、美味しくいただいた。


 就寝の時間――。


「銀鹿に……会える……」


 ユーディアは寝言を言ってぐっすり眠っていた。

 夜泣きが収まるとは思わなかった。

 それほど楽しみにしているようだ。


「今日はぐっすり寝て……世話の焼ける子ね……」


 もちろん、今日もフローラと一緒のベッドで寝ている。

 そう言いながら面倒見はいいから放っておけないのはわかっている。


 だが、朝起きると俺のところで寝ているクセはやめてほしい。



 ◇ ◇ ◇



 ――2日後。


「お兄さん、フローラちゃん、起きて! 今日はお出かけ日和だよ! さぁ、早く!」


 ユーディアが大声で起こしてくる……。今日はシルバーディアを観察する日だ。

 まだ薄暗いのに気合いが違う。


「早すぎよ……。もう1時間寝かせてよ……。鹿なんていつでも見れるじゃない……」


「俺もそう思う……もう少し寝かせてくれ……」


「銀鹿はいつでも見れないよ! とにかく、善は急げだよ! 二人とも昨日は身支度で疲れているとは思うけど、約束は約束だよ! さぁ、早く!」


 昨日はユーディアには()()()――旅の食料調達すると言って外に出ていった。

 まあ、それは噓で違うこと――準備をしていた。

 その準備で少し疲れはあるが、全然問題はない。だが、まだ起きるのには早い。

 

 それにフローラがいる。飛んでシルバーディアを簡単に見つけることができる。


 そのまま、無理やり起こされて、一階に下りると、リビングにはサンドイッチとハーブティーが置いてあった。

 

 俺たちより早く起きて軽食まで用意するとは……どれだけ楽しみにしているんだ……。


「ふわぁ……眠いわよ……。眠くて急に食べれない……」


 フローラ、そう言って寝ぼけながら食べるのではない。

 

 軽食を食べ終わり、準備をしたが、フローラはまだ寝ぼけていた。


「レオ……抱っこ……」


 ダメだ、今日のフローラは寝不足のようだ。

 しょうがない、フローラをおぶって探すしかない。


「わかったよ、その前にシルバーディアーのどこにいる」


「ふわぁ……あっち……」


 大あくびをしながら西の方角を指す。

 寝ぼけているが、フローラの魔力感知は正確でバカにはできない。


「ありがとよ、十分睡眠をとれたらしっかり手伝ってくれよ」


「うん……」


 俺はフローラをおぶって、すぐ眠りつく。

 

「フローラちゃん、子どもみたいでかわいい」


 みたいではなく、容姿と精神年齢は子どもそのものなんだけどな。

 ユーディアは和んで見ているが、俺からしたらちょっと困っていることだ。


 まあ、その苦労は言ってもわからないようだけど。


 フローラが指した方角に行く――。



 ――2時間後。



「ふわぁ~よく寝たわ~。完全復活よ、後は任せなさい!」


 やっと起きたか。

 フローラは空高く飛んで探しにいった。


「お兄さん、フローラちゃんおぶって、疲れたでしょう? 戻ってくるまで休憩しよう」


 ユーディアは収納鞄からシートを出して地面に敷き、水筒を出してコップにハーブティーを注ぎ俺に渡してくれる。

 早く見たいのに気を遣わせてくれるとはできた子だ。


「ありがとう。ユーディアも疲れたすぐに言ってくれよ」


「私は平気だよ。2日もゆっくり休んだから1日中、動き回れるよ」


 それが1番危ない……。これは「休む」ってことも教えないとな……。


「だけど、あまり無茶はするなよ」


「もちろん、ところでお兄さん、フローラちゃんとどうやって契約したの? お母さんが言うには精霊は人前には絶対に現れない存在で、契約なんてあり得ないことだと聞いたよ」


 唐突に契約の話しか。

 まあ、誰でも気になるところだよな。

 いつものように返すか。


「たまたま見つけて、気に入られただけだぞ。ほら、フローラなんか俺とつねに離れなくのはわかるだろう? あれは俺の魔力と相性がいいからだ」


「へぇー、そうなんだ。確かにお兄さんの良い魔力をもっているのはわかる。納得するよ」


 わかってくれたようだ。

 普通の人が契約するなんて、あり得なくたまたまで納得してくれるよな。

 ()()()()()はこの子には言えない、悪いが、はぐらかせてもらった。


「俺も聞きたいことがある。なんで俺たちのことがわかった? フローラなんて普通の人と見分けがつかないし、それに契約しているところまで一般のエルフでも最初見たときでもわからないぞ。これも母親が知っていたことなのか?」


「うん、お母さんは昔、精霊と契約しているエルフと一緒に旅をしていたの。私、小さい頃によく聞かされて特徴とか教えられた。まさかお兄さんとフローラちゃんが教えてくれた特徴と一致して驚いたよ」


 おいおい……俺たち意外に契約者がいたのかよ……。そんな人物がいればとっくに会うはずだが……どこかで隠居しているのか?


「なるほど、ちなみにその契約者がいる場所とか知っているか?」


「もう亡くなっているみたい……。精霊と一緒に不慮の事故にあったことを聞いたよ……」


 知っているなら会いに行こうと思ったが、亡くなっているのか……。

 精霊と一緒に亡くなるのは相当なことだぞ。

 不慮で片づけるのはどうも引っかかる。

 最悪な結末だと察してしまった。


「シルバーディアー見つけたわよ! のんきに休憩してないで急ぐわよ!」


「ホント!? お兄さん、行こう!」


 少々重い空気にフローラが来て助かった。

 シートを片づけてフローラの後を追う。


 しかし、エーニ・ラピスラズリ、俺が思っているほど、とてつもない経験をしている。

 まさか商品開発だけではなく、旅もしていたとは……。

 まあ、エルフは長生きだからいろいろと転々はするよな。

 今はそう思っておく。

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