13話 確認する
フローラの話によると、アタナトが借りている家は門の近くと聞いた。
あれか――2階建てでフローラの家と変わらない立派な家だ。
そして玄関前には顔は女性で胴体は4脚の翼が生えた馬、龍の尻尾をもった空想の混合獣
の銅像が設置してある。
なんだこの悪趣味な像は……アタナトのセンスを疑う……。
そんなことより、像の両眼には赤い宝石ように輝く、魔道具をつけている。
フローラが言ったとおり監視用の魔道具だ。
遠くでは反応しないタイプだが、隠密魔法を発動しても近くに寄れば反応する高性能な品物だ。
別に反応されても平気である。直接、話をするからだ。
玄関前に行くと、両目は小さく光り始めて反応する。
すると、ドアを開けてアタナトが出てきた。
「これはこれは、レオさん何か用ですか?」
「ちょっと、気分転換がしたくてな――」
俺はアイテムボックスからワインを出すと目の色が変わった。
コイツ、酒が好きなのはわかった。
「こ、このワインは!?」
「ああ、ミーテリク産の100年ものだ。わかるのか?」
「も、もちろんです! 滅多に手に入ることはできません!」
「大人がいなくて一緒に飲む相手がいなくて困っていたんだ。相手をしてくれないか? あっ、アタナトは仕事で忙しいから今夜――」
「いえ、徹夜して終わったところです! どうぞ中に入ってください!」
まさかここまで食いついてくるとは思わなかった。
よほど酒が好きだとわかった。
酒でつって夜に再び訪問しようと思ったが思わぬ展開だ。
その出したワインだが、製造は100年以上前だが、アイテムボックスで時間が止まっていて、日にちはあまり経過していない。
年代ものだけど、時間が経過してなければ価値は今と同じである。
まあ、時代――製造が変わって口当たりは違うけどな。
あくまでプライベートで飲んで絶対売りはしない。
完全に詐欺になるからだ。
ただ例外として、フローラはいたずらで、年代ものをコレクションするアレクの誕生日にプレゼントした。
当然、フローラが大好きで、価値がある品をもらって泣いて喜んでいた。
そのあとに俺がネタばらしをしたが――。
「時間が経過してなくともフローラからのプレゼントはそれだけで価値がある! 絶対に離さない!」
っと、言ってフローラの前でワインボトルを長々とキスしていた。
絶望した顔を見たかったフローラは計画が失敗して悔しそうだったなー。
もちろん、キスしていたのはドン引きしていた。
あの頃はよい思い出だなーっと、思いつつ中に入ると、木彫りした小動物をあちらこちらに設置している。
しかも全部、監視用の魔道具がついていた。
俺が移動するたびに光る。
もう不気味でしかない……ここまで用心深いと逆に怪しまれないか?
よく中に案内したものだ。
居間らしき部屋に案内されて、ソファに座るよう急かされる。
アトナタにワインを渡すと、上機嫌で棚からグラスを出して注ぎ込む。
「では、この出会いに祝福を――」
乾杯をして俺は飲んだ。
100年前に造られたやつはあっさりしているな。
俺としては50年前のワインが口当たりもよく濃くて好きだ、
アタナトはグラスを揺らして匂いをじっくり嗅いでゆっくり口に運ぶ。
「これが100年もの……素晴らしい……。今まで飲んだなかで1番です……」
本気で言っているのか?
明らかに年代ものだけで評価している。
知り合いのソムリエに飲ませたら「今のワインのほうが美味しい」っと言われたぞ。
気取っているしか見えなく滑稽でしかない。
思わず吹き出しそうだった。
しかし、監視用の魔道具を置いている以外はいたって普通の家だ。
秘密を見せられない部屋に案内されたからとは思うが、下手に行動を起こせない。
とりあえず、中を把握ができたのは収穫である。
コイツが酔ってボロが出るかわからないが、聞くだけ聞いてみる。
「こんな貴重なものを、ありがとうございます」
「気にするな、ただ飲みたかっただけだ。ところでアタナトはいつからここに?」
「5年前から担当になりました。ユーディアの母――エーニ・ラピスラズリ様に頼まれて来ました」
「頼まれたって、どういう経緯で?」
「村長様が村の発展を考えていまして、エーニ様が村人の方を私どもの商会で働かせてほしいと頼まれたのです」
「だから魔道具が設置ができて生活水準が上がったのか」
「おっしゃるとおりです。皆様の懸命に働きで、子どもは不自由なく暮らせています」
今のところ当たり障りのない会話だ。
というか俺に構わずワインを飲み続けるな。
コイツ、貴重と言いながら1杯だけ味わっただけで水の如く飲んでいる。
そこまで貴重でもないからいいけどさ、遠慮くらいしろ。
まあ、酔って術中にはまってくれるなら大助かりだ。
「不自由なく暮らせるのはいいが、大人全員いかせるのはどうかと思うぞ。同意の上なのか?」
「はい、皆様方は村と子どもの未来のためと、積極的でした。同意書もあります。確認なされますか?」
「あるなら確認したい」
アタナトは部屋を出ていき、数分待つと、丸めてある羊紙――書類を大量に持ってきた。
一つ一つ確認すると――しっかりとした同意書でサインもしてある。
これだけで本当にとは言えないが証拠としては十分か。
「確かに同意してある」
「それでも疑いますか?」
「ああ、悪かったよ――その詫びとして追加でやるよ」
俺は再びワインを出して、アタナトに渡した。
「おお! ありがとうございます!」
「だが、大人たちには定期的に帰ってこいと言えよ。子どもが寂しい思いをして待っているからな。業務命令だと絶対に言え」
「配慮いたします!」
「頼むぞ。少し疑っていたが、同意なら口を挟まない。ゆっくり休めよ」
「はい! ありがとうございます!」
アタナトはお辞儀をして見送り、家から出る。
とりあえず証拠もあってもう探ることもない。
まさか同意書を躊躇わず出すとは、よほど自信があったみたいだ。
おかげで時間が省けた。




