12話 再びお任せ
――翌日。
目を覚ますと、昨日と同じようにフローラは俺のベッドに移動して抱きついて笑顔で寝ていた。
今日もユーディアは早起きしたのか。
この感じだと毎日早起きして朝食を作っているみたいだ。
「おはよう、お兄さん。ご飯できたよ! フローラちゃん、起きて!」
「なによ……もっと寝かせてよ……。レオ、アタシを運んで……」
大きなあくびをしながら言う。
しょうがない、俺から頼んだことだ。今回はワガママを聞こう。
フローラを抱えて食卓に移動する。
香味野菜をペースト状に塗ったパン、鶏肉の香味揚げ、豆とトマトのチーズ入りスープが並んでいた。
朝からガッツリした食事だ。
冒険者をやってきた俺はこういう食事は活力になって大歓迎だ。一般では朝から揚げ物はちょっと濃いかもしれない。
育ち盛りの子どもなら普通に食べられる。
若さって罪だな。
「ガッツリな食事だが、何か体力を使うのか?」
「うん、ちょっと疲れているから精がつく食事にしたの。これ食べて頑張って山菜採りに行かなくちゃ!」
ちょっと待て、行く気なのかよ……。
疲れて外に出るのは論外だ。
もし、魔物に遭遇して逃げ遅れる可能性があり危険だ。
「昨日、大量に採ったのに行くのか? 疲れているならゆっくり休んだほうがいいぞ。冒険者の俺からの助言だ」
「お兄さんの言っていることはわかるけど、みんなのためにもっと採りにいかないとダメなの。大人が帰ってくるまでだから大丈夫」
「事情があっても、ユーディアが倒れたら元も子もないぞ。疲れているときは無理はしないことだ。外の世界で一番厄介なのは体調だ。それで命を落した奴は数多いぞ」
「で、でも……」
強めに言ったが、ここまでユーディアが頑固なのは驚いた。
休んでも誰も責めはしない。子どもがここまで追い込むくらい大人が村を出ていく必要があるのか疑う。
「はぁ~、レオが休めって言っているのだから素直に聞きなさいよ。休むのも仕事よ。健康でいたいなら休みなさい。天国で見ている母親があなたの疲れてる姿なんて見たくないわよ」
「お、お母さんが……。わかったよ……今日は休むよ……」
見ていられなかったフローラが口に出すと、渋々受け入れてくれた。
言いたいことを言ってくれるから正直助かっている。
俺だと説得できないからフローラに任せよう。
「美女精霊が言うことは絶対よ!」
ただ、「美女精霊」という発言は残念ではある。
「というわけだ、フローラも心配しているから休めよ」
「うん、しっかり休むよ。疲れた分寝て昼食を作るよ」
「あなた、私の話を聞いてないのかしら? 今日――1日中休むって意味よ! というか疲れているなら1日じゃ足りないわよ! 明日も休みなさい!」
「さすがに明日は休めない! 山菜が足りなくなる!」
「はぁ~、どれだけ山菜に命をかけているのよ……。そこまで言うならアタシが採りに行くわよ……」
「フローラちゃんが? お兄さんと一緒に?」
「俺は身繕いするから今日は出かけない」
身繕いというアタナト調べだ。今日は無理だ。
「えっ? 1人で行くの!? 山菜の見分け方は――」
「できるに決まっているでしょ!? あなたより長く生きているのよ! 山菜くらい見分けつくわよ!」
フローラをなめているな。こんな性格だが、知識は俺よりある。
だてに長く生きているわけではない。
「そうなの!? ありがとう! 私たちのために山菜を採ってきてくれるなんて」
「い、言っておくけど、散歩のついでよ! つ・い・で! か、勘違いしないでよね!」
顔を真っ赤にして言う。
ここでツンデレを出すのは急に感謝されて動揺している。
お前も素直じゃないな。
まあ、反応が面白くて悪くないけど。
「悪いな、頼んだぞ美女精霊」
「ふふん、まかせなさい!」
本当に調子がいいな。
フローラは食べ終わると、何も言わずに姿を消した。
もう散歩に行ったことがわかった。
いつものことだが、一言声をかけて行ってほしいのはある。
一応、契約者としての心配だ。
念話を送れば問題ないが、気分を損ねてしまうから使わない。
悠々自適にさせないと、後々面倒だから。
さてと、アタナトを調べる前に――。
「ユーディア、片づけは俺たちに任せて家でゆっくり寝てくれ」
「片づけはするよ! 片づけをするまでが料理って言うから最後までするよ!」
それも母親に言われたことなのか?
変に頑固なのはわかった。
すぐに休んでほしいがしょうがない、一緒に食器洗い片づけが終わった。
「終わったぞ。今度こそゆっくり――」
「まだやることがあるよ――鶏舎の掃除に畑仕事、みんなの洗濯物を干さないといけないよ!」
休む気あるのか?
みんなに任せればいいが、やることがあるなら終わらないと気が済まない性格なのか?
言い出したらキリがない、ちょっと姑息な手だが無理やり休ませる。
「失礼する――」
「えっ? お兄さん、な……に……を……」
俺はユーディアのおでこに手を当てて睡眠魔法をかけた。
力が抜けて倒れる前に体を支える。
急に倒れたところを目撃した子どもたちは驚いて駆け寄ってきた。
俺が訳を説明すると、ホッとひと安心した。
みんなもユーディアが働きすぎて倒れるか心配していたようだ。
止めようとしても頑なに断っていたらしい。
まさかみんなに心配するほど量をこなしていたとは、逆に迷惑をかけてどうする……。
ここから近くに家がある子のベッドを借してくれると言い、俺はユーディアを抱えてその子の家にベッドまで運んだ。
また悪夢にうなされないなうに回復魔法をかけて安静させる。
あとは子どもたちに任せて、アタナトが借りている家に行く。




