10話 精霊にお任せ
――翌日。
窓から日差しが入り、目を覚ます。横にはフローラが抱きついて寝ていた。
まったく、ユーディアの隣にいろよ……。
だが、ユーディアの姿はなかった。
さてはユーディアが部屋から出た隙に俺の方に移動したってわけか。
本当に甘えん坊な精霊だ。
すると、ドアが開いてユーディアが入ってきた。
頬が少し赤いが、すっきりした顔である。
俺が魔法で落ち着かせて夜泣きはなかった。
多少はゆっくり眠れたと思いたい。
「お兄さん、おはよう。朝食の用意ができたよ。フローラちゃんも起きて」
早起きして朝食の用意をしていたのか。
フローラを起して、みんなと囲んで食べた食卓に移動する。
子どもたちはイスに座って、テーブルに置いている――チーズをのせた焼きたてのパンと燻製肉とオムレツ、野菜スープを食べていた。
これ、朝から子どもが作るクオリティなのか?
下手すれば普通の宿屋より贅沢な朝食だ。
「私も作ったから食べて食べて!」
促されて俺たちも座って口に運んだ。
「おいしい……」
思わず口に出してしまった。
見ただけでわかっていたが、おいしいに決まっている。
昨日ではっきりわからないかったが、今ならわかる――将来、王都の料理人に余裕でなれるほどだ。
大袈裟かもしれないが、それくらいの腕はある。
「ありがとう! 作ったかいがあるよ!」
「夕食といい、こんないい食事、みんなで作るの毎日大変だろう?」
「もう慣れているから大丈夫。大人がいないと、みんなでなんとかしないといけないし、しょうがないよ」
弱音を吐かずに笑顔で言う。
作り笑いだ、本当は大人を頼りたいと思っている。
言いたいことは山ほどあるが、今言うことではない。
まだ白黒つけていない。
「そうか、今ここに大人がいるから手伝えることならなんでも言ってくれ」
「じゃあ、山菜採りお願いしてもいい? 食べ終わったら採りに行きたいの」
今日も行くのか……。アタナトを調べたいと思ったが、ちょっと厳しい……。
「明日ではダメか? ちょっと足りないものを確認したい」
「あっ、ごめんなさい。旅の身繕いもしないといけないだった――じゃあ、明日お願いね」
「そんなに急がなくてもいいんじゃないか? 山菜は逃げやしないし」
「それはダメなの! 今日採らないと夕食はお肉と魚中心の料理になってしまうの! 在庫にある野菜も少なくなっているし、栄養バランスが崩れるの! エルフは長命だけど、偏った食事を摂っていたら病気になって早死になるって、いつもお母さんに言われたから、みんなのために採りに行くよ!」
おいおい、子どもがそこまで考える必要があるのか?
この感じ、母親は病気で亡くしたみたいだな。
なら、病気にならないように気をつけているかもしれない。
「ふぉんなにいきたいなら、ファタシがふぁりないもの確認するふぁ――レオ、この子、危なっかしいから一緒に行ってちょうだい」
フローラはパンを頬張りながら言う。
まさか提案するとは……。念話で確認するか。
『アタナトのこと任せていいのか?』
『まかせなさい! もし、レオがいたら警戒して証拠が掴めないわ。このアタシ――美女なら警戒しないでゆるゆる状態で探ることができるわよ!』
美女はともかく、確かに俺がいたら警戒はすると思う。
フローラだけなら少しは警戒しないかもしれない。
「わかった。フローラ、頼んだぞ。じゃあ、山菜採り手伝うよ」
「ありがとう、お兄さん、フローラちゃん!」
「その前に、アタナトに言わないとな。滞在すること言ってないしな。朝食も食べに来ないのか?」
「そうだよ、小食だから朝はいらないみたい。しっかり摂るように言ってるけど流されるの……」
まあ、あの体型からして不摂生でロクなものは食べていないよな。
魔力も少なく、下手すれば10年は寿命が持たないだろう。
それはいいとして、俺らが村を出ていくタイミングで姿を現すだろう。
朝食を食べ終えて、みんなで片づけてをしているところにアタナトが向かってくる。
「レイ様、フローラ様、おはようございます。よく寝られましたか?」
「ああ、おかげさまでな。長い野営だったから助かった」
「それはよかったです。ところで、もう村から出るのですか?」
「ああ、そのことだが、いろいろ用意したくて少しの間お世話になろうと思っている」
「用意ですか? では私が足りないものを手配しましょうか?」
「そこまでしなくていいぞ。商会では用意できない品だからな。それにフローラはここを気に入ってたようだしな」
「そうね、空気もおいしいし、アタシにとって心安らぐ環境だわ。次に備えて2週間くらい滞在したいわ」
「に、2週間もですか……?」
少し動揺している。やっぱり何か隠していることがあるのか?
「精霊にお墨付きをもらえるのは大変名誉なことだぞ。ということでよろしくな。泊まりはユーディアの家でお世話になる」
「そうですか……。わかりました……。これから私は仕事があるので失礼します……。私にご用であれば仕事が終わってからでお願いします……」
そう言ってアタナトはふらつきながら、去っていく。
わかりやすい、ますます怪しい。
「アタナトさん疲れているのかな?」
ユーディアは心配そうに言うが、明らかに俺らに動揺しているだけだ。
気にしなくていい。
「大人にはいろいろあるってことだ。準備ができたら言ってくれ」
「ずっと見ているけど大人って大変だね。うん、わかった」
何か察したのか、片づけの手伝いをする。
空気を呼んでくれるのはいいことだ。
片づけが終わり、ユーディアは軽装の鎧を着て準備万全だ。
「今日もいっぱい採ってくるね!」
みんなに見送られて村を出た。
道路から外れて急斜面を登る。
ユーディアは慣れていてドンドン進んでいく。
「お兄さん、早く!」
「もう少しゆっくり行こうぜ。後々帰りにまた足をくじいてゴブリンに襲われるぞ」
「今日はお兄さんがいるから平気だよ! わぁ!?」
よそ見して足をつまづいて転んでしまう。言わんこっちゃない、俺がいるからと言って全部は対応できないぞ。
「大丈夫か?」
「うん、へへへ……」
フローラの言うとおり、この子は危なっかしい。
一緒について行って正解だ。
たまに鋭いところがあるから侮れない。
そい思いつつ、緩い斜面に移動すると、山菜を見つける。
ユーディアは駆け寄り、採取する。
ここに来るまで時間が経過した。
そろそろフローラも何か探ることができたかな?
念話で確かめる――。




