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1話 最後の依頼


 まったく、最後に厄介な依頼が入るとは……。


 王様(アレク)の依頼で王都――ディンベル近くの街道で現れたエレメントドラゴンの討伐に向かっている。

 周囲に火や水――雷のブレスを吐いて暴れているらしく、通行人の足止めをしているとのこと。


 あの温厚で知性のあるドラゴンが人の区域に現れるのはおかしい。

 基本的に人里離れた山奥でのんびり暮らしているはずだが。

 

 長年生きてきたが、今回のケースは初めてだ。

 突然のことで冒険者と王国騎士はガクブル状態ですぐにはいけないと俺に頼ってきた。


 ……この先、俺がいなくなるけど、不安だ。

 まあ、強い魔物が来ても嫌でも対処しないといけないし大丈夫か。


 しかし王族との契約はあっという間だった。

 もう30年が過ぎてあの頃が懐かしい。

 あのとき、先王が「この国を救ってください」と、どけ座までされて困ったものだった。

 渋々了承したがまさか平和になるまで――30年の契約は呆れた。

 まあ、その分金はもらって文句はない。


「はぁ~あの王様(こぞう)、最後にトカゲ討伐を押し付けるなんていい度胸してるわね」


 ため息しながら俺の背中に乗っている精霊――フローラが言う。

 エレメントドラゴンをトカゲ呼ばわりか。

 確かに俺たちなら余裕で倒せる相手である。

 自分で言うのもあれだが強くなり過ぎた。

 なんだかんだ厄介だが早く終わる。


「タイミングが悪かっただけだ。というかそろそろ自分で動いてくれないか?」


「筋肉痛だからもう少し休ませてちょうだい。かよわい美女精霊のお願い」


 またいつもの冗談がきた。


「飛ぶのに筋肉痛とかあるわけないだろう。遅れて被害が出たらどうする?」


「わかったわよ。動くわよ。はぁ~最後くらい楽にしたい」


 そう言ってフローラは長い青緑色の髪をなびかせてながら飛んでくれた。

 

 まったく、子どもの体型だからといっていつも俺の背中に乗って楽をするのではない。

 契約者だが、保護者ではないのだぞ。年月を重ねて少しは精神年齢が上がってほしいが全然変わらない。

 まあ、言っても聞かないから諦めた。

 

「アタシを見つめてどうしたの? なにかついているの?」


「いや、いつもながら変わらないなーと思って」


「そうでしょう~。アタシはいつも変わらない美女精霊よ!」


 ツッコミたいところがあるが、機嫌が良いし何も言わない。

 

「ところでレオ、この依頼が終わったらどうするの? お金もいっぱいあるし、土地をもらって家を建てて隠居生活するつもり?」


「それもいいが、行ったことのない場所に旅をする。まだ()()を果たしてないからな」


「ふぅ~ん、()()ね~。もう十分旅をしたじゃない。納得しないなら止めはしないけど」


「嫌なら王都にいてもいいぞ。そうなると王様(アレク)のお守りすることになるが」


「い、いやよ! あの小僧と一緒にいるなんてロクなことないわ! 絶対行くに決まっているわよ!」


 フローラは慌てながら言う。

 と言ってもフローラが逆にお守りをされる側になる。

 アレクはフローラが大好きだし、いろいろと貢いでくれると思う。


 別行動しても契約が切れるわけではないし、フローラにのんびり過ごしてほしいと思ったが嫌みたいだ。

 30年前は「早く隠居生活したい! 王族の契約なんてやりたくない!」と駄々こねて言っていたが、最後まで手伝ってくれる。

 ちょっとワガママでもあるが頼りになる相棒だ。

 

「じゃあ、終わったらすぐに準備するの?」


「そうだな、早く王都に出ないとな。ギルド連中に会って面倒な依頼を頼まれたらたまったもんじゃない。食料買う余裕があればいいが」


「それならアタシに任せなさい! 肉ならアタシが飛んで探すわよ! 買うのは穀物と野菜だけで短縮するわよ!」


 やけに張り切って言うな、よほどアレクと一緒にいるのは嫌みたいだ。

 仮に一緒にいてもやましいことはされないと思うが。 


「頼んだぞ相棒」

 

 そう会話しながら見えてきた――。

 隣街と中間辺り街道に全長20m以上ある漆黒のドラゴン――エレメントドラゴンがうずくまっている。

 まだ遠いが、風景に見合わないほど目立つ。 


 暴れていると聞いていたが、今は落ち着いている様子だ。

 おとなしくしているならチャンスだ、恨みはないが安らかに寝てくれ。


 俺は魔法で炎の大剣(フランベルジュ)を創り――近づくと、ドラゴンは大きな身体小刻みに震えて涙と鼻水を垂らしていた。


『うぅ……は……は、はくしょん! と、とまらない……』


 くしゃみをし――口から氷を吐いて俺の横を通過し、近くの木に当たり破壊される。

 

「危ないじゃない!? このトカゲ……跡形もなく消してやるわ……」


「ちょっと待て、こいつはただの風邪かもしれない」


 俺は怒っている魔法を発動寸前のフローラを止める。

 危なく終焉魔法(ワールドエンド)を使うところだった。

 街道に大きな穴をあけたら後処理が大変だ。


 なんだ、ブレスを吐いて暴れているではなく、ただくしゃみをして制御できなくなっているだけじゃないか。

 とんだ拍子抜けだ。討伐する気力もない。

 

 なぜ、人がいる区域で寝込んでしまう?

 移動している間、体調でも悪くなったのか?

 

 こいつは言葉も話せるみたいだし、説得してみるか。


「おい、ここはお前がいてはいい場所ではないぞ。体調が悪いと思うが人気のない場所に移動してくれないか?」


 ドラゴンは俺に気づくと余計に涙を流す。


『うぅ……移動したいけど、目が痒くて鼻水がとまらない……助けて……花粉症なんだ……』


 察してしまった……花粉の時期だった……。

 じゃあ、この場所に来たのは花粉が充満している山から移動したってことか。


「ぷぷぷ、気高く高貴なドラゴンが花粉症なんて笑っちゃうわね」


 フローラは笑いをこらえていたが、我慢できずにゲラゲラと笑い転げる。

 普通のドラゴンなら耐性あると思うがアレルギー持ちとは珍しい。

 放っておけば自然に治るが、ここでは別だ。

 しょうがない、解毒(デトックス)治癒(ヒール)魔法をかけておくか――。


『はぁ……癒される……目の晴れも引いて……鼻水も止まった……』


「――これでよし、具合はどうだ?」


『うん、良くなったよ。優しい人、本当にありがとう』


 エレメントドラゴンは身体をのびのびとして俺にお辞儀する。

 これで動ける状態はなった。違う形だが最後の依頼が終わった。

 

「どういたしまして、早く移動してくれよ」


『あ、あの~、そのことなんですが……』


 ここを去ろうとしたら、急にもじもじしながら声をかける。


「どうした? 言いたいなら早く言ってくれ」


『花粉が収まるまでここにいてもよろしいでしょうか……?』


 問題が解決してもまだ旅はできないみたいだ。 

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