かつてツンデレだった俺の奥さん~ツンツンしてるけどデレも分かりやすくなった作家で巨乳の妻とのイチャラブ夫婦生活~
ウチの奥さんはかつて、ツンデレだった。
今は違うのか? と聞かれると、ひょっとしたら今でもそうなのかもしれないとも思う。
けど、学生時代のように、いかにもな感じでは無くなったんじゃないだろうか。
あれは俺と彼女が高校2年生の頃だっただろうか。
『別に、あんたのために作ったワケじゃないんだからね。余っちゃっただけなんだから』
そういいながら手作り弁当を持ってきた時には、自分が一昔前のラノベの世界に迷い込んだんじゃ無いかと思ってしまった。
その上、彼女の名前であるカレンと、高校を卒業するまでツインテールだった事実が、余計にツンデレ感を増大していた。
『菓子パンとコンビニ弁当ばっかりの生活してたら栄養が偏るわよ。料理が面倒にせよ、せめてお惣菜や冷凍食品には頼りなさいよ』
そんな説教をしながら家に押し掛けて料理まで作ってくれる辺り、十中八九俺のためだし俺のこと好きだろと思っていたが、言わなかった。
両親が家におらずほぼ一人暮らし状態の俺にとってはありがたかったし、なにより手伝っているうちに自分も料理ができるようになっていくのがなんだか楽しかった。
気持ち悪いことを言うようだが、俺は彼女に母性を見いだしていたのかもしれない。まあ、結婚してからは、こんなに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれることもなくなったけどな。
料理も当番制だし、相手も仕事はしてるし、洗い物がちゃんとできないと怒られるし……。
「ただいまー」
「お帰りなさい。ご飯できてるわよ」
「おっ、いい匂いじゃん。ハンバーグかな? それはそうとさ、お帰りのチューとか……」
「却下。キモい」
出迎えてくれた奥さんにお帰りのチューを要求するが、こんな感じですげなく却下された。新婚の頃ですらしてくれなかったので、恐らく高校時代のようなツンデレというよりは、あんまりベタベタしたくないんだろう。
それこそ、『今から夜の営みに突入しますよ』という雰囲気の時にしか、甘えてきたりしないからな。
まあそこが可愛いんだけど、付き合って日が経つごとに『守ってあげたくなる彼女』というよりは、『オカンみたいな姉御肌』にキャラが変わってった印象がある。
付き合ったばかりの頃は会話の度にキスをしてたんだけどな。でもカレンは本来、少しナイーブなところはあれど、竹を割ったようなさっぱりした女性だから、こんなもんだろう。
「アンタさぁ。もうすぐ三十路になろうってオッサンがお帰りのチューとか言い出すんじゃないわよ。
顔が良いからまだ見れるけど、もう5年もしたらダメになるでしょ? うちには小学生の娘もいるのにさ……」
「ははは。おまけに俺の実家はハゲの家系だからな。ハゲ親父にキスをねだられるやっぱりイヤか?」
「場所を弁えてくれるなら別に良いけどさ……。まあ、その頃にはアタシもおばさんなんだから、あんまり年甲斐にもないことはさせないで欲しいけどね」
「そうかな。まだまだツインテールとセーラー服も似合うと思うぞ。こんどの夜、久々にやってみない?」
……ガチの汚物を見るような目を向けられたので、深々と頭を下げ謝罪してから食卓に向かう。
いや、だって小柄で童顔なのに年相応の色気までちゃんと装備してて、しかもJカップだぞ我が妻は。
セーラー服をむりやり着せられて恥じらうために生まれてきたようなモンだろ、こんな28歳は。
「お帰りパパ! 今日ね、学校で先生に褒められたんだよ」
「へぇ、そいつはすごいな。さすがはママの子だ」
「アンタの血だと思うわよ。褒められたの勉強っぽいし。それよりレナ、口にものを入れて喋らないの。焦らなくてもパパは逃げないから」
食卓を家族三人で囲めば、和やかな会話が始まる。
しかし、レナの賢さって俺の血なのだろうか?
レナは確かに学校の成績もいいが、なんというかそれが良かっただけの俺とは賢さの『質』が違う感じがするだよな。
むしろカレンに近いんだよ、レナの賢さの質は。
小説家としてミリオンヒット飛ばしたりエッセイも売れてるあたり、カレンは学校の勉強が苦手だっただけで知性は俺より上だ。
それに、普段のクールな感じからは想像できないくらい、ユーモアがあるんだよ、カレンの文章は。
学校の勉強なんて、俺がサラリーマンになってからはほぼ役に立ってないが、どんな知識だって役立てようと思えばできるもの。
カレンの場合、創作のネタになるモノに偏っているだけで知識の量は俺より多いし、人生の全てが作品に活かされている。
だから地頭の良さというか、『自分の目標のために学ぶ力』と『学んだことを応用して活かす才能』は、カレンの方が上っぽいんだよな。
実際、俺は会社じゃそこそこの地位まで行けたが、社長になったり起業したりはたぶん無理。
ぶっちゃけ、収入の比率で考えると、カレンにとっての俺はフリーターの彼氏みたいなもんであろう。
「将来はママみたいに作家さんになるかもな!レナは!」
「なる! むっちゃ怖いホラー描く!」
「アタシはホラー作家じゃないけどね。っていうか、なんでそうなるのよ。アンタみたいに高給取りのサラリーマンになるんじゃないの? アタシを月1で取材旅行につれていけるようなさ」
カレンは不思議そうな顔で俺の方を見てきた。
あー、そういえばそんなことしてたな。今は編集さんに相談すれば出版社から旅費が出るらしいが、カレンが作家として芽を出す前は俺が取材旅行に連れてっていた。
カレンがフリーターの兼業作家として活動してた頃だしな、俺らが結婚したの。当時から才能は感じたし、そもそもバイトしてれば一人でもちゃんと食ってけるのがすげぇなと思ったが。
「だから言ってるだろ? レナはお前に似てるんだって。つまりお前も、学校の授業にちゃんと興味を持ってれば俺より良い成績取ってたの」
「そういうもんかしらね……。でも、アタシはアンタに出会うまで、勉強より体を動かす方が好きな、典型的なスポーツバカだったわよ?
レナはほら、運動が苦手で勉強が得意だから、アンタ似なんじゃない?」
言われてみればレナの現状のスペックそのものは俺に似てるんだよな……。
そもそも、カレンとの出会いのきっかけは、チンピラに襲われてるところを助けたからだ。
なぜこの話をするかというと、その時の俺は無様に敗北して、ボコボコにされてしまい、逆にカレンに助けられるハメになったんだよな。
カレンは怖くて動けなかっただけで、普通にデカめのチンピラ3人より強かったからなぁ。
まあ、人間の戦闘力なんてパッと見で測れるもんじゃ無いから、小柄なカレンが自分よりデカイ三人組を強いと思い込むのも仕方あるまい。
ちなみに、カレンが俺に惚れたのはこの時だそうな。そんなことある?
「けど、本を読みはじめてからのハマりっぷりは、お前に似てるよ。レナだってご飯も食べずに読書してることあるだろ? それにレナが好きな小説のジャンルもお前と一緒だ」
「うーん、言われてみればそうかもね……。もしかして、運動もそのうちできるようになるのかしら」
「できるさ!俺たちの娘ならなんでもできる!」
「そうね。そう信じましょう」
ちなみに、カレンが本を読み始めたきっかけは俺だ。
さっきも言ったように、カレンがチンピラに襲われてたときは、逆に俺が助けられてしまった。
それにも関わらず律儀にお礼をしたいと言って聞かないから、じゃあ俺の好きな本を読んでくれと言ったら読み始めた。
『ドラマ化もされてる作品なんだけど、純文学なせいか周りに読んでる仲間がいなくてさ。君みたいな美人と語り合えたら嬉しいから、それでお礼だと思ってくれ』
確か、そんなことを言った気がする。今にしてみれば口説き文句過ぎるというか、自分では気持ち悪いと思うが、カレンはこの台詞でさらに俺に惚れたらしい。
なんで逆に助けられたヤツがイキってるんだよと自分では思うが、仕方ないだろ。あのときの俺は若かったんだよ。女子の前で無様にボコボコにされたら、意地を張ってカッコつけずにはいられなかったんだ。
だから、カレンがこの台詞を自分の小説に使おうとしはじめた時には全力で止めたよ。ダメだろそれは。普通の女子はたぶん引くぞ。
『お前ってさ、付き合う前は〝アンタのためじゃない〟って必ず前置きしたよな。俺に何かしてくれるとき。アレ、なんでなん?』
『……さあね。けど、言わなくなった理由なら教えて上げて良いわよ。単に、必要が無くなったの』
『そっか。今だから言うけど、らしくないと思ってたんだよな。お前が恩人と認識してる相手に、ベタなツンデレみたいなことするの』
むかし、そんな会話をしたことをふと思い出した。本当に、家族と食事をしているだけなのに、なぜこんなことを思い出したのかわからない。
レナが俺たち夫婦のどっちに似ているかを考えているうちに、いつの間にか、カレンとの今までの思い出に思考が飛んだんだろうか?
でも、今ならなんとなく答えが分かるような気がする。うまく言葉にできないが、もし俺の考えていることが当たっているなら――
カレンもあの時は若かったんだなと、俺は思った。
この作品が面白かったら、下の方で評価ポイント付けて貰えると作者が喜びます。