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ユイリー魔道学校

 ユイリー魔道学校は、アナンタ寺院に隣接する教育機関である。資金のほとんどを寺院に依存しているため、事実上、寺院によって管理運営が行われていた。


 リンはユイリー魔道学校の学生だった。今年で12歳になる。成績は正直あまり良い方ではない。

 その日はうっかり寝坊して、遅刻ギリギリに正門へと駆け込んだ。――すると、校舎の入り口付近に何やら人だかりができている。


「何かあったの……?」

 人だかりの中に友人の姿を見つけて、リンは声をかける。

「なんかね、見たことない神子(みこ)様が来てるんだって……!!」

「神子様……?」

 群がる生徒達の間から、ちらりとその姿が見えた。

 長い銀髪を無造作に一括りにした青年。その背中には、三枚の歪な翼が生えていた。



 *****


 ――た、大変なことになった。


 寺院の隣に学校があると聞いて、翠は軽い気持ちで見学に訪れた。その結果、登校してきた生徒達にあっという間に囲まれてしまった。

 皆、好奇心に満ちた瞳で翠のことを見ている。年齢はまちまちだったが、十代前半くらいの子供が多い。


 翠が困り果てていると、始業の鐘が鳴り響いた。教師と思われる男性が生徒達に向かって怒鳴る。

「お前ら、いい加減校舎に入れ……!!」

 その声に、翠を囲んでいた生徒達は蜘蛛の子を散らすように校舎の中に駆け込んで行った。

 ――助かった……


「すみません、神子様。ご迷惑をおかけしまして……」

 教師の男性が翠に頭を下げる。

「い、いえ、僕の方こそ……。あの、校舎の中を見学させてもらっても……?」

「ええ、もちろんです。これから授業が始まりますので、よかったらどうぞ」

 男性教師は快く了承してくれた。


 ――やっぱり、『神子』はどこに行っても優遇してもらえる。


 異形の特徴を持った者を「神の子」として崇める独特な価値観は、この国には深く根付いているようだった。ただ歩いているだけで通行人に拝まれるし、店に入れば店主が食事を奢ってくれたりした。



 ご厚意に甘えて、翠は学校の授業を見学させてもらった。

 ――ノトスでは魔法の知識が細々と継承されている。フェルナンがそう言っていた通り、授業では魔法の基礎知識を教えていた。どうやら実践の授業もあるらしい。


 興味深いことに、彼らは短冊状の紙に術式を書くことで魔法を使っているようだった。

 ――なるほど、あらかじめ紙に術式を書いておくのは効率的ではあるな。このまま実践の授業も見学させてもらおうかな……?



 *****


 魔道学院の生徒達は浮き足立っていた。何やら異国から来た神子が授業を見学しているという話は、あっという間に学校中に広がっていた。

 三枚の翼を持った神子は、魔術実践の授業にも顔を出していた。


 リンは小さくため息をついた。彼女は、実践の授業が苦手だった。

 実践の授業は、校庭で行われる。座学の時間に自分で書いた呪符を使って、それが実際に発動するか試すのだ。


 生徒達は発動のための呪文を唱え、呪符から炎を出す。

 炎の大きさには個人差があった。ロウソク程度の火しか出せない生徒もいれば、焚き火くらいの大きさの炎を出す生徒もいる。


 リンも、発動の呪文を唱えた。

「ジーフオ……」

 しかし、彼女の呪符からは炎どころか煙しか出てこない。

 周りの生徒がそれを見てクスクス笑っているのが聞こえる。――だから嫌いなんだ、実践の授業は。教本通りに呪符を書いているはずなのに、何でだろう……?


「……それ、貸してみて」

 突然背後から声をかけられて、リンは驚いて振り返る。

 いつの間にか、そこには例の神子が立っていた。彼は背中だけでなく右目にも羽根が生えていた。


「えっ、あっ……、はい……」

 自分の不出来な呪符を見せるのは正直恥ずかしかったが、リンは彼に呪符を手渡した。

 彼は、呪符にサラサラと何かを書き加えた。


「使ってみて。……あ、危ないからもうちょっと皆から離れて」

「はい……」

 神子に手渡された呪符を持って、リンはもう一度呪文を唱える。


「ジーフオ……」

 その瞬間、呪符から大きな火柱が発生した。

「うひゃああぁぁ!?」

 リンは思わず悲鳴を上げる。


「えっ……、ええぇっ……!? 何で……!?」

「さっきまでの術式だと効率が……」

 神子は説明しようとしてくれたが、あっという間に他の生徒達に取り囲まれてしまった。


「すごい……!! 今のどうやったの!?」

「私達にも教えて下さい……!!」


「ま、待って……、ちゃんと皆にも教えるから……」

 苦笑しながら、彼はそう言った。



 *****


 魔法の源は空気中のエーテルという不可視の元素である。

 ――この国ではどうやらそれを『気』と呼んでいるらしく、『気』を練って術を使うという認識のようだ。


 翠の観察によると、どうもこのエーテルの集めやすさには個人差があるようで、体質的にエーテルを引き寄せやすい子もいれば、引き寄せにくい子もいる。

 先ほどのリンという子は、エーテルを引き寄せにくいタイプの子だ。皆と同じように術式を書いてもまともに発動しなかったのは、エーテル不足のせいだろう。――なので、効率よくエーテルを収集できるように術式を少し書き換えてあげた。


「ええと、魔法を使う時は、エーテル……『気』の収集、変換、発動と大まかに3ステップあるんですけど、一番重要なのは『気』の収集ステップです。魔法の威力は集めた『気』の量にだいたい比例するので、効率的に『気』を集めることが大切です……」

 いつの間にか翠は教師に代わって授業を行っていた。何なら教師まで翠の話を興味深そうに聞いている。


 ――あ、あれ……、何でこんなことになってるんだろう……。むしろこっちが勉強するつもりで来たんだけどな。……まあいいか。

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