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イオタ遺跡攻略 ~アベルとミーシャの冒険~

「だからさ~、もっとマシな依頼はないのかよ!?」


 ギルドの窓口で、アベルは受付嬢に食ってかかった。

「そう言われましても~、アベルさんの冒険者ランクでご紹介できる依頼となりますと……。どうしてもこの辺しか……」


 ルーセット共和国中央都市シェナス。この町には、冒険者ギルドの本部がある。


 アベルは、ギルドに登録したての新米冒険者だった。

 まだ17歳の若者だが、故郷の村でずっと畑仕事をしていたため体格が良く、精悍な顔つきをしている。赤毛を逆立てているのは、本人はおしゃれのつもりだ。大枚をはたいて買った剣を腰に下げているが、なかなか使う機会がないのが不満だった。


「もういいじゃんアベル。地道に薬草採取でもさぁ」


 幼馴染のミーシャが、アベルをなだめる。

 彼女はアベルが故郷の村を出る時に何故か一緒について来て、一緒に冒険者ギルドに登録した。栗色のおさげ髪にそばかす顔という素朴な外見でありながら、猟師の父に育てられたためアベルより腕が立つ。武器は弓矢と短刀だ。


「薬草採取って実質ただの草むしりじゃねーか……!! 村でやってた野良仕事と何も変わんねーんだよ!! 俺は、冒険がしたいんだ!!」


 立冒険者としての成功を夢見て、彼のように辺境の田舎からシェナスにやって来る若者は多い。だが現実は厳しく、冒険者稼業だけで生計を立てられる者は一握りだった。


「あ、じゃあこれなんてどうです~?」

 そう言って、受付嬢は一枚の依頼書を差し出した。


「イオタ遺跡……?」


 依頼内容は、依頼人をイオタ遺跡の最奥部まで護衛することだった。

「……イオタ遺跡って、もう探索され尽くしてお宝なんて全然残ってないだろ? なんで今更あんな所に?」

「さあ、依頼人の目的まではちょっと……。もし引き受けるなら、依頼人に直接聞いてください~」


「いいんじゃない? あそこなら厄介な害獣もいないだろうし、報酬も悪くないし」

 ミーシャが言う。依頼を引き受けることにした二人は、依頼人が滞在しているという宿屋へと向かった。






「ちーっす、ギルドで依頼を受けて来たんですけど~」

 依頼人が滞在している部屋のドアを、アベルはドンドンとノックする。依頼書には連絡先である宿屋の名前と部屋番号しか書かれていなかったため、依頼人がどんな人物かは全く分からない。


「はい……」


 少し間があった後、扉を開けて出てきたのは小柄な少年だった。白い髪、緑色の瞳。大きな眼帯で顔の右半分が覆われている。寒い時期でもないのに何故かブカブカのコートを着て、先端に青い宝玉の付いた杖を持っている。


 ――何だこいつ、弱そうだな。


 それが、アベルから見た彼の第一印象だった。背が低いし線も細い。態度もどこかオドオドしているように見えた。


「えーと、お前が依頼主?」

「あっ、はい。……スイと言います。よろしくお願いします」

 礼儀正しく、少年はそう名乗った。


「俺はアベル。こっちはミーシャだ」

 簡単に自己紹介をして、アベルはスイに尋ねた。

「……ところで、お前って何歳?」

「え? ……18だけど」

「マジで!? 見えねーな!! 絶対年下だと思ったぜ」

「はは……、よく言われるよ……」

 スイは引きつった笑顔でそう言った。


 こっそりと、アベルはミーシャに耳打ちする。

「……なんか貧弱そうな奴だな」

「え~、でもぉ、顔は可愛くない?」

「げっ……、ミーシャお前、あんなのが好みなのか?」

「ち、違っ……、そういう意味で言ったんじゃないわよ……!!」



「……てか、何でわざわざイオタ遺跡なんて行くんだ? 今更行っても何もないだろ、あそこ」

「ええと、古代文字の研究をしているんだけど、遺跡の碑文に興味があって……」

「ふぅん……」


 ――研究者か。

 引きこもって本ばかり読んでいるタイプなら、もやしなのも頷ける。

 ややこしい話が苦手なアベルは、すぐに興味を失った。理由はともかく、報酬さえもらえればそれで十分だ。



 *****



 イオタ遺跡は、シェナスから歩いて半日程度の距離だ。今から行っても昼過ぎには辿り着く……はずなのだが。


「おーい、そんなんじゃ日が暮れちまうぞ~」

「ご、ごめん……!!」

 スイは足が遅かった。おまけにすぐ息が上がる。


「……お前ってもしかして貴族育ち? 体弱すぎじゃね?」

「そ、そういうわけじゃ……ないんだけど……」


「ちょっとアベル、依頼人にはもっと優しくしなさいよ」

 ミーシャがスイを庇った。


 ――本当に大丈夫か? こいつ……



 そんなこんなで、日が暮れる前に何とかイオタ遺跡まで辿り着くことが出来た。

 森の中、木々に飲み込まれるような形で、崩れかけた遺跡の入り口が顔を覗かせている。こういった遺跡は、国内のあちこちに点在していた。


「じゃあサクッと攻略しちまうか~」

「ちょっと、さすがに緊張感なさすぎじゃない?」

「どうせ野生の獣が住み着いてる程度で、大した敵もいないだろ」

 ミーシャと軽口を叩きながら、アベルは遺跡の内部に足を踏み入れる。スイは、そんな二人の後を大人しくついて来た。



 すでに攻略され尽くしている遺跡とはいえ、全く危険がないわけではない。念のため周囲を警戒しながら、三人は石造りの通路を進んでいった。

 発光生物が入り込んでいるおかげで、意外にも遺跡の内部は明るい。


「……何にも出てこねーな」

 アベルが呟いたその時だった。


「アベル、危ない!!」

 ミーシャが叫んだ。暗がりから飛び出してきた何かが、アベルに襲い掛かる。


「うおぉ!?」

 角狼(ホーンドウルフ)だった。ミーシャの放った矢が、狼の脇腹に命中する。アベルは剣を抜き、狼にとどめを刺した。

「……助かったぜ、ミーシャ」

「もう、油断しすぎ!! ……大丈夫だった? スイ」

 後ろをついてくるスイに、ミーシャは声をかける。依頼人に怪我をさせるわけにはいかない。

「う、うん……」

 スイは頷いた。どうやら無事のようだ。


「というか、まだいるな……」

 野生の角狼(ホーンドウルフ)が入り込んで住処にしているようだった。数が多いと厄介だ。

 ミーシャと二人だったら走り抜けてやり過ごすという手もあるが、スイというお荷物がいる以上それはできない。


「……やるしかねぇか」

 アベルは腹を括った。ここは戦って切り抜けるしかない。

 言っている側から、狼が襲い掛かって来た。アベルは、力任せに剣を薙いでそれを撃退する。


「オラァ!! かかって来いよ狼ども!! こちとら村にいた頃から害獣退治には慣れてんだよ!!」


「アベル、あんまり前に出すぎないで……!!」

 ミーシャも弓矢をつがえ、的確に狼を仕留めていく。アベルは力は強いが技術と敏捷性に欠けている。それを、ミーシャが上手く補ってくれていた。


 しかし、今回はさすがに数が多かった。そして、アベルの冒険者としての経験の浅さも災いした。

 剣を振り回し、3匹目の狼の頭をカチ割ったアベルだったが、周囲への警戒が甘かった。そのせいで、背後から襲ってきた狼への反応が遅れる。


 ――しまった……!!


 狼の鋭い牙がアベルの目の前に迫った、――その時。


「……ex(エクス)……fogo(フォーグ)……!!」


 何か聞きなれない言葉を、スイが叫んだ。

 瞬間、角狼が炎に包まれる。鳴き声を上げながら、狼は炎の中で絶命した。


「お前……、そんな便利な魔道具持ってるなら早く使えよ!!」

 スイが持っている杖、それが炎を出せる魔道具なのだろう。……と、アベルは判断した。


「ご、ごめん……。戦闘の経験があんまりなくて……」


「アベル!! 助けてもらったんだからありがとうでしょ!!」

 ミーシャに怒られたので、アベルはぶっきらぼうにスイに礼を言う。

「……あ、ありがとよ」

「ううん、少しは役に立てて良かった」


 角狼(ホーンドウルフ)はあらかた倒した。残った連中も、今ので逃げて行ったようだ。

 三人は、更に遺跡の奥へと歩を進めた。





「……トラップの類は、ほとんど解除されてるみたいね」

 念のため壁や床を確認しながら、ミーシャが言った。


「まあ、もう探索済みの遺跡だからなぁ……」

 角狼(ホーンドウルフ)との遭遇以降は特に大きなトラブルもなく、三人は遺跡の奥へと進んで行った。

 この階段を下りれば、もう遺跡の最下層である。


「……待って」

 階段を降りたところで、スイが先行する二人を呼び止めた。


「どうした?」

「この階のトラップ、まだ動いてる……」

「……何でそんなの分かるんだよ」

「そ……、それは……」

 熟練の冒険者はトラップの有無を嗅ぎ分けるというが、とてもではないがスイはそんな風には見えない。むしろ素人もいいところだ。


 その通路は、床石が格子状に配置されていた。

 念のため、アベルはその辺に落ちていた適当な大きさの瓦礫を通路に投げてみた。瓦礫が通路に落ちた瞬間、その場所の床がぱっくり開いて瓦礫は奈落の底へと消える。……しばらくして、瓦礫がボチャンと水に落ちる音が聞こえた。

 開いた床は自動的に閉じ、何事もなかったように元の状態へと戻る。


「げっ……、落とし穴かよ……」

 シンプルだが厄介なトラップだ。うっかり落ちれば恐らく命はない。


「どうしてトラップがまだ生きてるって分かったの?」

 不思議そうに、ミーシャはスイに尋ねた。


「…………」

 スイは言いにくそうに口ごもる。

「何だよ、言えない理由でもあんのか?」

「アベル!! 脅さないの!!」

「脅してねぇよ……」


「……あんまり見せたくなかったんだけど……」

 そう言って、スイは自ら右目の眼帯を外した。


 右目があるはずの場所から、歪な小さい羽根が生えていた。


 更に、スイは着ていたブカブカのコートも脱いだ。その背中にも、羽根が生えている。右側に一枚、左側に二枚。


「天使病……?」


 ミーシャが小さく呟いた。

 その名前は、知識としてはアベルも知っていた。アンゲルスという害獣に噛まれると、体の組織が変成して羽根が生えるとか。

 だが、そうなってしまうと普通は命は助からないと聞いた。


「うん……。それでこんな体になってしまったんだけど……」

 スイは言った。


「右目に生えたこの羽根のおかげで、空気中のエーテルの流れが視えるようになったんだ」


「エーテルってあれだろ、魔道具とかを動かす時に使うやつ」

 アベルは残念ながらそれほど詳しくない。ミーシャもそれは同じだった。魔道具を動かす原動力、という程度の知識しかない。


「うん、あの床もエーテルで動いてる……。だから、トラップのある場所とない場所が僕には視える」

「マジでか? めっちゃ便利じゃん」

 理屈は正直よく分からなかったが、アベルは率直にそう言った。


「……えっと、じゃあ僕が先行するから、他の床石を踏まないようについて来て」

「お、おう……」


 エーテルの流れが視えるという話は本当らしく、スイは迷うことなく安全な床だけを選んで進んで行く。


「……お前、本当に見えてるんだな」

「うん、……あ、そこ危ないから踏まないで」





 トラップの通路をあっさりと通り抜けて、三人は遺跡の最奥部へと辿り着いた。


「もうここがゴールだな」


 遺跡の最奥、通称『棺の間』。

 この部屋の床も、先ほどの通路と同じく石が格子状に配置されていた。四方の壁には古代文字の碑文が刻まれ、部屋の中央には石棺が置かれている。しかし、その石棺は最初から空だったという。

 この部屋にあった宝飾品の類は過去の探索者達によって全て持ち去られており、今はもう何も残っていない。


 だが、その部屋の中を見たスイが妙なことを言った。

「……本当にここが最深部?」


「そのはずだけど……?」

 ミーシャが答える。

 遺跡の通路は、ここで行き止まりになっている。この部屋へ通じる出口も入り口も、一つだけだ。


「また何か見えるのか? エーテルの流れとやらが」

「うん……。ここよりも下の方に何かエーテルの発生源がある……」

 床の一部を差して、スイは言った。


 アベルはミーシャと顔を見合わせる。

「どうする? 床ぶっ壊してみるか?」

「さすがに無理でしょ、何の道具もないのに……」


 とりあえず、スイが碑文の記録をしている間、アベルとミーシャの二人は壁や床を調べて何か仕掛けがないか確認してみた。


「何も見つからねぇな……」

「まあ、簡単に見つかるような仕掛けだったら、これまでに来た誰かが見つけてるはずだもんねぇ」


「……で、スイ。碑文の方はどうだ? なんか役に立ちそうなこと書いてあったか?」

 黙々と碑文を書き写していたスイに、アベルは尋ねた。

「ああ、うん……。碑文のほとんどはこの遺跡の来歴とかそういう内容なんだけど……、その中に暗号が仕込まれてるみたい……」


 そう言うと、スイは部屋の隅から格子状に配置された床石の数を一つ一つ数え始める。

「北に13……東に15……」


 そして、とある床石の上で杖をつき、何か呪文のような言葉を呟く。


 その行動を三回ほど繰り返した時、何かの仕掛けが作動する音が部屋の中に響いた。

 小さな振動と共に、部屋の中央に置かれた石棺の台座がせり上がっていく。


 そこに現れたのは、下へと続く階段だった。


「おお……!? すげーじゃん……!!」

 アベルが感嘆の声を上げる。


「碑文の中に方角と数字が仕込まれてて……、その位置にある床石の下に起動装置があって、そこに順番にエーテルを流し込んで起動させると隠し通路が開くっていう仕組み……だったみたい」

 スイがそう説明をする。


「……すぐに分かったの? それ」

 驚いて、ミーシャが尋ねた。

「あ、うん……。暗号自体はそんなに難しくなかったよ」

「そう……」


 ――あれ? もしかしてこの子ただ者じゃないんじゃ……?

 ミーシャは、そのことに薄々気づき始めた。


「よっしゃ、ようやく冒険らしくなってきたな……!!」

 一方のアベルは、特に何も考えていなかった。意気揚々と隠し通路に足を踏み入れる。


「ちょっとアベル……!! 不用意に入ったら危ないでしょ!!」

 ミーシャとスイの二人も慌ててアベルの後を追った。





 階段の先は、狭い通路だった。


「……止まって。そこ三歩右……。そこ、センサーみたいなのがあるから屈んで通り抜けて……」 

 通路のトラップは、スイのおかげで危なげなく回避できた。


「お前って本当に便利だな」

 アベルが言った。

「そ、そうかな……?」

 当の本人は、そのことにあまり自覚がないようだった。



 あらゆるトラップを回避して、三人は順調に奥へと進んで行った。


「……意外に何もいねぇな」

 アベルが呟く。念のため周囲を警戒しながら進んでいるが、動くものの気配はない。


「待って……」


 だが、ある所で不意にスイが二人を引き止めた。

「……この先に何かある」


「何だ? またトラップか?」

「そういう感じじゃない……。もっと大きなエーテルの発生源がある」


 狭い通路を抜け、急に開けた空間に出た。

 そこにあったのは、一体の石像だった。重装備の鎧で身を固め、大剣を掲げた兵士の姿をしている。


「……あれだ」

 スイが呟く。


「何あれ……? ただの石像じゃないの?」

 ミーシャも冒険者としての経験は浅い。こんな状況は初めてだった。

「分からない……、気をつけて」


 慎重に、アベルが一歩足を踏み出した。その時、突如として石像の目が青く光る。軋むような音を立てながら、石像が動き出した。


「ゴーレムだ……!!」


 アベルが叫んだ。

 ゴーレムは大剣を構えたかと思うと、石像とは思えない速度でアベルに向かって突進してくる。


「くっそが……!!」

 咄嗟に剣を抜き、アベルはその一撃を受け止める。


 ――重い……!!


 受け止めた瞬間手が痺れ、危うく剣を取り落とすところだった。


「アベル!!」

 ミーシャが短刀を抜いてゴーレムに切りかかるが、全く歯が立たない。それどころか、短刀の脆弱な刃は硬い装甲に弾かれて簡単に折れてしまった。


 アベルは持ち前の腕力で何とかゴーレムの攻撃を凌いでいたが、このままでは力負けするのは時間の問題だ。


 その時、スイが叫んだ。

「そのゴーレム、背中側にコアがある……!! 背後に回って、アベル!!」

「んなこと言われても……!!」

 攻撃を凌ぐのに精一杯で、背後に回る余裕などない。


「僕が足止めしてみる……!!」

 スイは、杖を構えて何かを叫んだ。


「……Inhibition……!!」


 次の瞬間、急にゴーレムの関節が軋むような音を立て、目に見えて動きが鈍った。


「……!?」

 何が起こったかよく分からないが、アベルはその隙を見逃さなかった。ゴーレムの股下をスライディングで潜り抜け、背後に回り込む。


「背中の装甲の隙間を狙って!!」

 スイに言われた通り、アベルはゴーレムの背面の装甲の隙間に剣を突き立てた。


「おりゃああぁぁぁ!!!」


 その下にゴーレムのコアがあったようだ。バキンと何かが割れるような手応えがあった。

 同時に、ゴーレムの目から光が消え、そのまま動きが止まった。


「た……、倒したのか……?」

「す、すごいすごい……!!」

 ミーシャが飛び上がって喜ぶ。二人とも、こんな敵を倒したのは初めてだ。


「どうやってゴーレムを足止めしたの!?」

 ミーシャはスイに尋ねた。

「え、ええと……。あのゴーレムのコアから末端へのエーテルの流れを一時的に阻害しただけだよ……」

「お、おう。よく分かんねーけどお前すげーな。助かったぜ」

 アベルも言った。

「ううん、……役に立てて良かったよ」

 少し照れたように、スイは微笑んだ。


 アベルは何も考えていないようだが、ミーシャはスイの能力について不思議に思っていた。

 ――角狼と戦った時に炎を出したのは魔道具の力だと思っていたけど、今のは何なのかしら……? 


「まるで『魔法』みたい……」

 ミーシャは呟いた。


 ――現代でも『魔法』が使えるのは『古の魔女』だけだから、そんなはずはないのだけど。





 ゴーレムが守っていた部屋の中には、石棺が安置されていた。棺の中には、朽ち果てた人骨が横たわっている。


「ここが本当の『棺の間』だったんだね……」

 そう言って、スイは棺に手を合わせた。


「……何だ? そのポーズ」

 怪訝そうに、アベルが尋ねる。

「えっ、あっ、……これはその、僕が住んでた国での死者に対する祈りの儀式だよ」

 慌てて、スイが説明する。


「スイってルーセットの出身じゃないの?」

「……うん、実はすごく遠くから来たんだ」

 ミーシャの問いに、スイは頷く。


「へぇ、どこから来たんだ? エルシア? イゼプタ?」

「もっとずっと遠く……」

 スイはどこか寂しそうに、そう言った。



 アベルとミーシャの二人からすれば、残念ながら棺の間にはそれほど価値のあるお宝は残されていなかった。あのゴーレムは本当にただの墓所の番人だったのだろう。

 とはいえ、多少の副葬品と、攻略済みと思われていた遺跡の隠し通路を発見したという実績があれば十分である。


「これで冒険者ランクも上がるかもしれねーな」

「まあ、隠し通路を見つけたのはほとんどスイのおかげだけどね……?」

「そんな……僕だけじゃあのゴーレムは倒せなかったし、ここまで来ることも出来なかったと思うから、二人のおかげだよ。……それに」


 スイは石箱の中に大切に保管されていた古文書を、慎重に手に取った。


「……僕は最初からこれが目的だから」

「何が書いてあるんだ? それ」

「内容はちゃんと解読してみないと分からないけど……。師匠へのお土産としては十分かな」


 スイは古文書を丁寧に梱包して、荷物の中にしまった。



 *****



 シェナスまで無事に戻ってきた三人は、冒険者ギルドにて依頼の完了と諸々の報告を済ませ、報酬の受け渡しを行なった。


「……ねえ、スイ。スイは冒険者になるつもりはないの?」

 ふと、ミーシャがスイに尋ねる。

「あなたの能力はダンジョン攻略に役立つと思うんだけど」


「えっ……」

 その言葉に、スイは驚いたような顔をした。

「あ、ありがとう……。でも僕は、他にやることがあるから……」

「そっか……」

 少し残念そうに、ミーシャは頷いた。


「まあでも、今回は楽しかったぜ。また何かあったらよろしくな」

 アベルはスイに握手を求める。

「うん、こちらこそ……。僕も楽しかった」

 その手を握り返して、スイは微笑んだ。



 その時、冒険者ギルドの入り口に一人の少女が現れた。

 緋色の髪をツインテールにした、メイド姿の美少女だ。その目立つ風貌に、ギルドにいた全ての人間の視線が彼女に集まる。

 人間離れした美貌もさることながら、彼女の存在はシェナスに住む者ならほとんどの者が知っていた。


「……アーカーシャの自動人形。初めて見た」

 ポツリと、アベルが呟いた。


 この国を庇護する古の魔女アーカーシャの使いとして、時おり人間たちの町に現れる少女だ。


 人懐っこい笑顔で、少女はスイに向かって手を振った。

「スイ!! 迎えに来たよ〜!!」

「ガーネット……!!」


「えっ……、知り合いなのか……?」

「うん」

「……ねえ、スイ。あなたは一体何者なの?」

 ミーシャが尋ねた。


「僕は、アーカーシャの元で修行をしているんだ」

「……『古き魔女』の弟子……?」

 アベルとミーシャは顔を見合わせた。



 *****



「遺跡探索だったら私が手伝ってもよかったのに」

 リューイの背に乗りながら、ガーネットが言った。

「……ごめんね。いつも君の世話になってばかりだから、僕の力でどこまでやれるか試してみたかったんだ」

「そっか……。まあ、無事で良かったよ。母さんは素っ気ないけどあれで結構心配してるんだよ?」

「そ、そうなのかなぁ……」

「それで、何か収穫はあった?」

「うん、未発見の古文書を入手できたから、師匠にも喜んでもらえるかなって……」


 今回は、(すい)にとって初めての冒険らしい冒険だった。自分の力が役に立つことが分かって、少しだけ自信がついた。

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