魔導兵器攻防戦・下
翠はガーネットと共に地上へと続く階段を登っていた。
その時、不意に人魂のような炎が翠の目の前に現れる。――テジャスの残火だ。
「テジャスさん……!? ずっといたんですか?」
「ああ、何もしてやれなくて悪かったな」
「い、いえ……」
「それより、俺の心臓が通常空間に戻ってきた」
「えっ……?」
――テジャスの心臓は確か、魔導兵器の動力源として使われていたはずだ。つまり、魔導兵器の本体が三次元空間に顕現した……?
「俺は先に行くぜ!! 心臓を取り返してくる……!!」
一方的にそう言って、テジャスの残り火はその場からふっと掻き消えた。
翠は急いで階段を駆け上った。
ほとんどの兵士が戦場に出払っているため、城内の警備は手薄だった。城の一階から、手近な窓を破って外に出る。
夜空に発光生物の明かりが見えないことに、一瞬違和感を覚える。――空に浮かぶ巨大な物体が、夜空の光を遮っていた。
「なっ……、何だこれ……」
――まさか、これが魔導兵器の本体……!?
翠のいる位置からは巨大戦艦の底面しか見えないが、それでも、船体から突き出した砲門には見覚えがあった。しかも、砲門は一つではなく、複数の砲門があらゆる方向に向けられている。
――ゾッとした。こんな厄介なものと、師匠は戦っているのか。
「……行こう、ガーネット」
「うん……!!」
ガーネットはリューイを呼んだ。ドラゴンは、すぐに彼らの側に舞い降りてきた。
リューイの背に乗って、翠はガーネットと共に上空の戦場へと向かった。
*****
魔導兵器の全ての砲門が、一斉に白い輝きを放った。
アーカーシャはイーリィと協力してシールドを張り、粒子ビームの攻撃を無効化する。
「そのシールドもいい加減もう見飽きたわね……」
うんざりしたように、ローズクォーツは言った。
突如として、シールドがじわじわと侵食されていく。
シールドそのものは不可視だが、術式が干渉する際の空間のゆらぎによって辛うじてそれが分かる。
「なっ……!?」
驚いて、イーリィは声を上げた。
「ローズの能力で空間ごとシールドを削り取っているんだ。……まずいな」
淡々と、アーカーシャは言う。
――力技で魔導兵器を破壊することもできるが、あの巨大戦艦が地面に落ちればフラムフェル城とその周囲への被害は甚大だ。どうする……?
アーカーシャが逡巡した、その時だった。
『俺が行くぜ……!!』
精神感応で、アーカーシャとイーリィの脳内にテジャスの声が流れ込んできた。
『俺が心臓ごとあの兵器を乗っ取ってやる。そのための隙を作ってくれ』
「……分かった」
アーカーシャは頷いた。そして、イーリィに向かって言う。
「イーリィ、防御は任せた」
「わ、分かりました……」
――あんまり簡単に言わないで下さいよ……!?
内心でそう思いつつ、イーリィも頷く。
アーカーシャは、エネルギーを槍の形に束ねた光の槍を無数に作り出した。一瞬で、視界一杯の空が光の槍で埋め尽くされる。
それを、ローズクォーツに向けて一斉に放った。
「無駄よ、そんな攻撃……!!」
流星のように降り注ぐ光の槍を、ローズクォーツはことごとく四次元に吸収する。
――無駄なのは分かっている。だが、攻撃を続けている間はローズクォーツはそちらに意識を向けざるを得ない。
その間に、テジャスの残火は魔導兵器へと接近し、その中に潜り込んだ。
「…………!?」
魔導兵器に何かが入り込んだことに、ローズクォーツは気が付いた。
だが、気づいたところで対処する余裕はなかった。アーカーシャは攻撃の手を休めない。
「くっ……」
表情を歪めて、ローズクォーツは叫んだ。
「邪魔よ、邪魔……!! みんな邪魔……!!」
魔導兵器の全ての砲門が、めちゃくちゃな方向に粒子ビームを放つ。
「しまっ……!!」
あまりにも変則的な動きに対応できずに、イーリィは全てのビームを防ぎきれなかった。シールドから漏れた粒子ビームは市街地の屋根をかすめ、近くの山の地形を変えた。
――まずい、これは無理だ……!!
アーカーシャと自分の身を守りつつ、市街地まで守り切るのは困難だ。
暴走したかのように、魔導兵器の攻撃は止まらない。
防御しきれなかった粒子ビームが、市街地の方へ向かう。あわや大惨事かと思われた、その時だった。
「……scutum……!!」
翠のシールドが、粒子ビームを受け止めた。
「スイ君……!!」
「イーリィさん、遅くなってすみません。僕も手伝います……!!」
「ああ、頼む。テジャスが魔導兵器の主導権を奪うまで、攻撃を防ぐのを手伝ってくれ!!」
「はい……!!」
*****
突如として城の上空に現れた空飛ぶ鉄の船。
その砲門から放たれる光線が空を薙ぎ、空中で見えない盾に当たって弾けて消える。
無数の光の槍が鉄の船に向かって降り注ぎ、周囲を真昼のように照らしていた。
その光景に、地上で戦っている兵士達も思わず足を止めて空を仰いだ。
――まるで、この世の終わりみたいな光景だな。
ディオンはそう思った。
マイヤール公爵とその同盟軍は、フラムフェル城の包囲網を徐々に狭めていた。
四方から包囲されて退路を断たれたジェルマン元帥には、投降か徹底抗戦かの二択しか残されていなかった。




