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魔導兵器攻防戦・上

 いつの間にか、空は夕暮れから薄闇に包まれつつあった。明朝から続く戦いに、兵士達の疲労もピークだった。


  ――自分がここまで生き残っているのが嘘みたいだ。

  市街地の民家の影に隠れて銃弾をやりすごしながら、ディオンは思う。


 マイヤール公爵軍は一進一退を繰り返しながら少しずつ市街地を攻略し、徐々に環状通りへと辿り着きつつあった。


 そこから、元帥軍の抵抗は更に苛烈になった。

 環状通りの道は掘り返されて塹壕が築かれ、元帥軍の銃兵たちが潜んでいた。市街地から先へ進もうとする公爵軍の行手を阻むように発砲してくる。これでは、おいそれと環状通りの先に進めない。



 そんな時、フラムフェル城の付近で激しい閃光が瞬いた。

 魔導兵器の粒子ビームと、それを防ぐシールドが干渉する際に発生する光だ。薄闇の中で閃光は空を()くように輝き、その瞬間だけ地上は真昼のように明るくなる。


 その眩しさに思わず目を細め、ディオンは空を見上げた。

 フラムフェル城の上空に魔導兵器の巨大な砲門が浮かんでいるのが見えて、未知のものに対する本能的な恐怖に体がすくんだ。

 ――あの光がかすりでもしたら、自分たちなんて一瞬で焼け死ぬんだろう。



 一方、クロは主人をさらわれた怒りにまかせて暴れ回っていた。銃弾をものともせずに突っ込んで行き、塹壕の中を血の海に変える。――正直、少しだけ元帥軍に同情してしまう。

 主人の居場所が本能的に分かるのか、クロはフラムフェル城の方へと向かっていた。


 城へと続く大通りには大砲が置かれ、砲兵たちが待ち構えていた。

 もはや元帥軍もなりふり構っている余裕はない。市街地が破壊されるのも構わずに、大砲が轟音を鳴らす。砲弾が民家を破壊し、瓦礫の雨を降らせた。


 砲弾が直撃して肉が抉れても全く気にせずに突進してくるオルトロスの姿は、元帥軍の兵士に恐怖を与えるのに十分だった。持ち場を投げ出して逃亡する兵士も多くいた。


「……後方から来る本体と合流したら、我々も先に進むぞ」

 いつまでもこうして物陰に隠れているわけにもいかない。ディオンたちの部隊の副隊長がそう言った。



 *****


 どこかで、爆発音のような音が聞こえた。

 それはアーカーシャの魔法が城のバルコニーを破壊した音だったが、翠は知るよしもない。


 ――戦いは、今どうなっているんだろう。地下牢に囚われている翠は思った。

 ローズクォーツの死の記憶に蝕まれ、(くら)い闇に落ちていきそうになる精神を何とか引き留める。


 自分ばかりいつまでもこんな所でのんびりしてはいられない。

 仮にアーカーシャを殺したところで、ローズクォーツの憎しみは止まらない。彼女はこの世界そのものを憎んでいる。


 ――ローズクォーツを止めないと。

 彼女はきっと、この世界の全てを焼き尽くそうとするだろう。もう、エルシア帝国だけの問題ではない。


 翠は、何とかこの拘束から逃れる方法を考えた。下手に爆発で鎖を破壊しようとすれば、自分の体まで吹き飛ばしかねない。


 ――金属を錆びさせて、強度を弱めて壊せないだろうか……?

 拘束具の金属を、空気中の酸素と反応させればいい。簡単な化学反応だ。


 翠は、術式の構築に意識を集中した。



 *****


「母さん、ところでスイは……?」

 戦いの合間を縫って、ガーネットはアーカーシャに尋ねた。


「スイは城の中に囚われている。助けに行ってやってくれないか?」

「分かった……!!」

 自分の後ろに乗っているイーリィの方を、ガーネットは振り返る。


「大丈夫、空中浮遊くらい何とかなるよ」

 イーリィは自分からドラゴンの背から降り、空気を操って自力で宙に浮いた。

「ありがとう、行ってくる……!!」


 フラムフェル城に向かうガーネットを撃ち落とそうとするように、魔導兵器の光が空を薙いだ。粒子ビームが城に当たろうが、ローズクォーツは全くお構いなしといった様子だ。

 だが、その光線はシールドに阻まれて弾けて消える。


 その隙に、ガーネットは壊れたバルコニーから城の中へと侵入して行った。

 ローズクォーツは小さく舌打ちする。

「鬱陶しいわね……」


 アーカーシャの構築した結界の作用で、魔導兵器の攻撃はある程度は自動的にシールドが防いでくれる。だが、砲門が複数となると話は別だ。

 自動防御から漏れた分のビーム攻撃は、手動で防ぐ必要がある。


「このままでは(らち)があかないな……」

 アーカーシャは呟いた。

 ――魔導兵器の本体が四次元空間の中にある以上、こちらからは手出しができない。


「イーリィ、しばらく防御を任せてもいいか?」

「……どうするつもりです?」


「あの兵器を四次元空間から引きずり出し、三次元座標に固定する。……その術式を編むための時間がほしい」

「なるほど……、分かりました」


 イーリィは、ローズクォーツの目の前に躍り出た。彼女の意識をアーカーシャから逸らすために。

「私が相手になろう、ローズクォーツ」

「無能研究者の弟子風情が、出しゃばってこないで。さっきから鬱陶しいのよ……!!」


 ローズクォーツが、魔導兵器の砲門をイーリィに向けた。一斉に放たれる粒子ビームの攻撃を、イーリィは自身の周囲をシールドで覆って防ぐ。

 ――見よう見まねで防御術式を構築してみたものの、これは思ったよりもキツイな……


 高温の熱線が空気を焼く。粒子ビームの攻撃は止まらない。

 魔導兵器のエネルギー源にはテジャスの心臓が使われている。そのため燃料切れを起こすこともなく、事実上無限に攻撃することが可能なのだ。


「ふふ、いつまで保つかしら……。そのまま蒸し焼きにしてあげる……!!」

「くっ……」

 ――このままでは本当に蒸し焼きにされるな。

 それ以前に、一瞬でも集中力を切らしてシールドが破られれば、その瞬間に体が蒸発して死ぬ。


 ――私の魔法が保っている間に何とかして下さいよ、アーカーシャ……

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