フラムフェル市街地の戦い
翠とアーカーシャの支援によって、公爵軍は帝都城壁の南門を制圧した。マイヤール公爵家の白十字の家紋の旗が南門にひるがえる。
「マイヤール公爵、ご無事でよかった」
上空から地上に降り、翠は一旦マイヤール公爵と合流した。
「ああ、賢者殿のおかげだ。……それと、あのもう一人の魔法使いのおかげだな。彼女は一体……?」
「あの人は僕の師匠、――古き魔女アーカーシャです」
その言葉に、マイヤール公爵は驚いた顔をする。周囲の兵士達からもざわめきが漏れた。
「何と……、古き魔女が力を貸してくれるのか……」
「はい。魔導兵器については、もし出現したときは師匠が対応してくれるのでご安心ください」
アーカーシャは今、帝都フラムフェルとその周辺全域を覆う結界を構築している最中だった。魔導兵器が三次元空間に出現した際、すぐに感知してシールドを発動できるようにするための防御結界だ。
――後学のために師匠の術式構築を見学したいところだけど、残念ながら今はそんな場合ではない。
マイヤール公爵は、軍隊を複数の小部隊に分けてそれぞれ別のルートから市街地を進み、環状通りで合流する作戦を立てた。
翠が先ほど上空から偵察したところ、市街地の大きな道路は木材や石でバリケードが作られて封鎖されていた。バリケードの材料とするために民家が取り壊され、町は無残な有様だった。
バリケードを取り除かない限り馬での行軍は難しい。
そのため、まずは銃を持った歩兵が安全なルートを確保することになる。白十字騎士団も馬を降りて銃を手に取った。
「ラズは引き続き空からの偵察をお願い。何かあったらすぐに伝えて」
翠は、ラズにそう言った。
「スイはどうするつもりなんです?」
「僕は、クロと一緒に地上から進むよ。……空からだと、味方を巻き込まずに魔法を使う自信がない」
「承知しました。……お気をつけて」
ラズは、黒竜ジードに乗って再び空に飛び立っていった。
*****
普段は多くの市民で賑わっているはずの街に、銃声が響き渡る。
市街地での攻防戦は、想像以上に難航していた。元帥軍の兵士達はバリケードや障害物で道を塞ぎ、公爵軍を待ち伏せしている。
ディオンの属する小部隊も、とある街路で元帥軍の銃兵部隊と会敵し、交戦していた。
道の向こうから飛んでくる銃弾を、建物の影に身を隠してしのぐ。――こんなの、どうやって先に進めばいいんだ……?
ディオンには市街地での戦いの経験などない。銃を扱う訓練は受けているが、正直あまり自信はなかった。
ここまで来る道中で、同僚の騎士が銃弾に当たって死んだ。次は自分の番かもしれないと思うと、どうしても足が竦んでしまう。
「怯むな、進め……!!」
部隊長がディオン達を鼓舞するように叫ぶ。――だが次の瞬間、部隊長は銃弾に当たって倒れた。
「…………っ!!」
彼を撃った銃弾は、前方ではなく別の方向から飛んできた。慌ててそちらの方に目を向けると、ディオン達のいる道の側面に、いつの間にか元帥軍の兵士が展開している。
――しまった、モタモタしてる間に囲まれた……!!
殺される前に、せめて一矢報いないと――。そんな気持ちで、ディオンは敵に銃を向けた。
その時、側面に展開していた元帥軍の兵士達が突然雷に打たれたように倒れた。
漆黒の魔獣が猛然と道を駆けてくる。その背中には、白い翼の『賢者』が乗っていた。
「スイ……」
「賢者様……!!」
ディオンの周囲の兵士達から歓喜の声が上がった。
一方で、元帥軍の兵士達は浮足立った。慌てて銃を装填し、『賢者』を狙う。
翠に銃弾が当たらないように、クロは自分の体を盾にする。その間に、翠は魔法の発動に必要なエーテルを集め終わっていた。
「……explosion……!!」
味方を巻き込まないように出力を調整し、翠はバリケードを爆破した。巻き込まれた元帥軍の兵士の体が千切れて飛び散る。
「今のうちに進んでください……!!」
翠は言った。今の爆発音で、元帥軍の兵士がいつ援軍に来るか分からない。
ディオン達の小部隊は、破壊されたバリケードから先に進んだ。
――まずいな。
翠は思った。
フラムフェル市街の地の利を活かし、マイヤール公爵軍を分断して各個撃破しようというジェルマン元帥の策中に嵌まっている気がする。市民を巻き込む恐れのある市街地で翠が大きな魔法を使えないことも、恐らくジェルマンは読んでいるだろう。
翠も先に進もうとしたその時、瓦礫の下敷きになって倒れていた元帥軍の兵士が、翠に向かって何かを投げつけた。
――手榴弾。導火線に火を付けて投げるタイプのシンプルなものだが、殺傷力は十分だ。
クロが咄嗟に翠の体に覆いかぶさって爆発から主人を守る。
「スイ……!! 大丈夫か……!?」
ディオンが振り返って叫んだ。
「……大丈夫です」
オルトロスの体の下から這い出しながら、翠は答える。爆発で抉れたクロの傷は、見る間に回復していく。
「ありがとう、クロ……」
環状通りまでの道のりはまだ遠い。




