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フラムフェル攻城戦 ―突入―

「ローズクォーツ……!!」

 少しでもエーテルを集めるための時間を稼ぐため、翠はローズクォーツとの会話を試みた。

「君の目的は一体何なんだ……!? アーカーシャへの復讐か……!?」


「私が復讐したいのは母さんじゃないわ……」

 女神のような顔で微笑んで、ローズクォーツは言った。


「この世界そのものよ」


 魔導兵器から放たれる粒子ビームを、翠は不可視のシールドで受け止める。

「……無駄だよ。魔導兵器は僕には通用しない」


「そう……」

 さして興味もなさそうに言って、ローズクォーツは魔導兵器の砲口を地上へと向けた。――そこには、進軍中の白十字騎士団の姿がある。


「待っ……!!」

 翠の意図を汲んで、ラズは黒竜ジードの手綱を操り魔導兵器の射線の先に回り込もうとした。

 ――だが、少し遅かった。


 魔導兵器の砲口から、地上に向けて白い熱線が放たれた。

 白い光がディオン達の眼前に迫った、その時だった。


 粒子ビームは見えない壁に阻まれ、無害な白い閃光となって散った。


「…………!?」

 それは、翠が使った不可視のシールドとよく似た魔法だった。


 いつの間に現れたのか、そこには一人の少女がいた。

 流れるように波打つ美しい金髪。アメジストのような紫色の瞳。スラリと伸びた白い手足。

 黒いローブの下にベストとプリーツスカートという、どこかの学校の制服のような服を着ている。だが、それがどこの制服なのか知る者はもうこの世界にほとんどいない。


 その少女の姿を、翠は以前に見たことがあった。――プリトヴィーの記憶の中で。

「……師匠!?」

 それは、天才魔導士と呼ばれていた頃の、魔法学校時代のアーカーシャの姿だった。


「遅くなって悪かったな、スイ」

 翠の方を見上げて、少女の姿をしたアーカーシャは言った。声が聞こえるような距離ではないため、精神感応(テレパシー)で脳に直接言葉が届く。


「母さん……」

 ローズクォーツが、無表情に呟いた。


「防御は私がやる。……お前は攻撃を担当しろ」

「分かりました……!!」

 アーカーシャの言葉に、翠は頷いた。――師匠が魔導兵器の粒子ビームを防いでくれるなら、心置きなく攻撃に専念できる。


「……ex……ex……」


 防御魔法(スキュータム)のために集めていたエーテルを使って、翠は術式を展開した。

 ローズクォーツのいる物見塔を囲うように、範囲指定マーカーである青く光る魔法陣が現れる。


「……detonation(デトネーション)……!!」


 市街地を破壊しないように出力を調整し、翠は爆轟魔法を放った。

 物見塔とその周辺の防壁が、元帥軍の兵士もろとも激しい爆発に巻き込まる。


 ――だが、翠には見えていた。

 爆発の直前、ローズクォーツは空間を切り取って魔導兵器ごとどこかに消えた。不穏な微笑みを残して。




 アーカーシャは、杖に乗って翠とラズのいる上空まで浮遊してきた。――飛行魔法か、いいなぁ。後で教えてもらおうかな。


「師匠、どうしてこんな所に……」

 翠はアーカーシャに尋ねる。

「弟子にばかり戦わせるわけにはいかないからな。……ローズの件は、私に責任がある」


「でも、師匠がこっちに来たらルーセットの守りが手薄になるんじゃ……」

 ルーセット共和国軍の大半も、フラムフェルに向かって進軍してきているはずだ。もしもジェルマン元帥に余剰戦力があったら、ルーセット共和国に攻め込む絶好の機会を与えることになってしまう。


「心配ない、この体は遠隔操作の人形だよ。私の本体は、いつも通り私の館の中にある。……まあ、この姿では本来の力の半分も使えないがな」

「なるほど……」


「それより、今はゆっくり話している暇はないだろう? ……私も協力しよう。戦いはまだこれからだ」

「はい……!!」

 ――そうだ、ゆっくりしている暇はない。マイヤール公爵軍の帝都への突入を支援しないと。ローズクォーツがいつまた現れるか分からないため、その警戒も怠ることはできない。



 アーカーシャは杖に乗って自在に空中を飛び、わざと挑発するように銃兵達の目前に躍り出る。突然現れたもう一人の魔法使いに、兵士達は浮足立った。

 彼女に向けて銃を構えるが、空を自在に駆けるその動きに翻弄され、銃弾はまともに当たらない。


 その間に、翠は魔法の発動に必要なエーテルを収集する。そして、城壁の上に設置された大砲に狙いを定めて爆破した。


「……explosion(エクスプローション)……!!」


 大砲とその周囲の砲兵が爆発に巻き込まれて吹き飛ぶ。

 魔法使い師弟が元帥軍の兵士達を翻弄している間に、オルトロスが城壁へと辿り着いた。先ほど翠の爆轟魔法で破壊された箇所から侵入し、城壁の内側にいた兵士達を容赦なく蹂躙する。


 ――これだけ状況が混乱すれば、南門を守る元帥軍は総崩れになるだろう。マイヤール公爵達は、比較的安全に帝都へと突入できるはずだ。



「ラズ、もう少し上空を飛んで。全体の状況を確認したい」

「承知しました」

 黒竜の翼で上空へと羽ばたき、翠は帝都フラムフェルとその周辺の状況を確認する。


 マイヤール公爵と諸侯連合軍は南側から進軍し、現在帝都の南門付近で交戦中だ。なお、諸侯連合軍の一部は帝都の包囲のため西側に移動している。

 東側からは、ルーセット共和国軍が進軍してきているのが見えた。元帥軍が南側に集中している現在、恐らくそれほど問題なく東門を突破できるはずだ。

 北側から来るはずのファラルダ達の姿はまだ見えない。



 帝都フラムフェルは、大まかに三層のエリアで構成されている。

 最も外側には、一般市民が暮らす住宅地がある。雑多に家々が立ち並び、路地が複雑に入り組んでいる。工場や商店などもだいたいこの地域にある。


 一般住宅地を抜けると、帝都をぐるりと巡る環状の大通りがあり、その内側には貴族や富裕層が暮らす高級住宅街があった。環状通りからはフラムフェル城へと続く大通りもあり、ここまで辿り着ければ城は目前である。――ちなみに、友好条約の調印式典の際にパレードが行われたのもこの大通りだ。


 そして、高級住宅街を抜けた先にはもう一つの城壁があり、その内側にあるのがフラムフェル城だった。


 ――避難できずに残っている一般市民がどれだけいるか分からない以上、住宅地で爆轟魔法(デトネーション)のような大きな魔法は使えない。……マイヤール公爵達が、無事に市街地を突破できるといいけど。


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