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ローズクォーツ

 それは、クーデター発生よりも以前のことだ。


「……皇帝の権威も地に堕ちたものだな。共和国との友好だと!? ふざけるな……!!」

 ジェルマン元帥および彼の賛同者たちは、ルーセット共和国との友好条約締結に歯噛みしていた。


「くそ、忌々しい『魔女』め……。こんな条約など、『魔女』の力に屈したようなものではないか!! 『魔女』さえいなければあんな脆弱な国、我らが帝国の敵ではないというのに……!!」


 そんなある日のことだった。彼の前に、ローズと名乗る少女が突然姿を現したのは。

 ――最初は、ただの怪しい占い女だと思っていた。


「誰だ……? こんな女を城に入れたのは……」

 迷惑そうに、ジェルマンは眉をひそめる。


「……力を貸してあげましょうか?」

 少女は言った。

「何……?」

「魔女を倒す力を、貸してあげましょうか?」


「魔女を倒す力……だと……?」

「ええ、証拠を見せてあげるわ。……その代わり、あなたも対価を払って頂戴」

「対価だと? 何だ、金か?」

「いいえ、……皇帝の命よ」

「なっ……」


 ジェルマンは絶句した。

 ――この女は何を言っているんだ……?


「今の皇帝を殺して、あなたが新しい皇帝になるの。……興味はない?」

 女神のような顔で、少女は悪魔のように微笑んだ。





 ローズは、フラムフェル城の地下に伸びる秘密の通路についてジェルマンに教えた。

 そして、その奥に古き魔女テジャスが眠っていることも。


「城の地下にこんな通路があるとは……」

 まだ半信半疑ではあったが、ジェルマンは数名の部下と共にローズに案内されて地下通路へと潜った。――まあ、嘘だった場合その場で殺してしまえばいいだけの話だ。


「……どうして、こんな通路の存在を知っているんだ?」

 軍の最高幹部であるジェルマンですら知らなかった情報を、何故この少女は知っているのだろう。


「私には、人よりも多くのものが見えるの」

 少女は、そうとだけ答えた。


 複雑な地下道を、ローズは一切迷うことなく進んで行く。

 やがて、とある壁の前でローズは立ち止まった。壁には何か見慣れない文字が書かれている。当然、ジェルマン達には全く読めない。


「……“眠りを妨げる者は覚悟しろ”……ね。ふふ……」

 ローズは言った。


 石がこすれ合う音とともに、壁がゆっくりと開いた。


「おお……」

 ジェルマンとその部下たちは、思わず声を上げる。

 壁の向こうには円形の部屋があり、床いっぱいに魔法陣が描かれている。そしてその中空に、剥き出しの心臓が浮かんでいた。

 心臓は、ドクンドクンと鼓動を刻んでいる。


「な……、何だこれは……」

「……テジャスの心臓よ」

「テジャス……!? 古き魔女テジャスか……!?」


 ローズが部屋の中に足を踏み入れると、突如として火柱が立ち上った。


「気安く入って来んじゃねええええぇぇぇ!!!」


 大声が空気を震わせる。

 火柱が人間の姿を形成し、炎のような髪をした長身の美女が姿を現した。


 その威圧感に、ジェルマン達は圧倒された。部下の中には、腰を抜かした者もいる。

 だが、ローズは一切動じることなく微笑みを浮かべていた。


「……初めまして、古き魔女テジャス。私はローズクォーツ」

「ああん……? お前、もしかしてアーカーシャんとこの……」

 テジャスは、すぐにローズの正体に気づいた。人間の体とは明らかに組成が異なっている。


「一体何の用だぁ!!? 入り口の文字が見えなかったか!!?」

 威圧的な態度で、テジャスは尋ねた。

 ローズは、女神のような顔で邪悪に微笑む。


「あなたを封印しに来たのよ、時代遅れの魔女」

「何だと……!!?」

 激しやすい性格のテジャスは、すぐ頭に血が上る。


「舐めてんじゃねぇぞ、人形風情が……!!!!」

 テジャスが放った激しい炎が、ローズに襲いかかった。

 だが、ローズは悠然と微笑んでいた。


 ローズの目の前の空間が四角く切り取られたように口を開け、テジャスの炎を飲み込んだ。


「…………!?」

 それは、千年を生きるテジャスですら見たことのない魔法だった。


「てめぇ、妙な魔法を使うな……」

 油断できる相手ではないと判断し、テジャスは少し本気を出した。

 テジャスの周囲に、高温の炎が渦を巻く。


「……離れていて。あれを食らえば骨まで溶けるわよ?」

 ローズは、背後にいるジェルマン達に言った。慌てて、ジェルマンとその部下達は部屋から逃げ出して距離を取った。


 ジェルマンの視界からは、部屋そのものが高温で白く光ったように見えた。

 部屋の石壁が溶けるほどの高温の炎を浴びて、それでもローズは涼しい顔をして立っていた。

 ――炎を浴びた瞬間、やはり、ローズの周辺の空間が切り取られたように見えた。


「もう終わり……? じゃあ、次は私の番でいいかしら」

 微笑んで、ローズは言った。


 ローズは最初から、テジャスの心臓に狙いを定めていた。

 彼女の口から紡がれる、聞き覚えのない術式(スクリプト)


「てめぇ……、やめろ……!!!」

 ローズの意図に気づいて、テジャスは叫んだ。どれだけ高温の炎を浴びせても、ローズの周囲の空間が切り取られたように口を開け、その熱を吸収する。


 ローズは、テジャスの心臓を周囲の空間ごと切り取った。――そのように見えた。

 心臓の周囲の空間が硬質化し、水晶のような鉱物に変化していく。


「や、やめろおおおおおぉぉぉぉ……!!!!」


 心臓が完全に水晶で覆われた時、テジャスの絶叫はぷつりと途絶えた。

 同時に、テジャスの姿もその場から掻き消える。


 小部屋の中は、急に静寂に包まれた。


「た……、倒した……のか……?」

 恐る恐る、ジェルマンは部屋の中を覗き込む。


「ええ、これがテジャスの心臓よ」


 ローズは、水晶に封印されたテジャスの心臓を掲げた。水晶の中で、心臓はまだ鼓動を刻んでいる。


「ま、まだ動いているぞ……?」

「潰してしまえばいつでも殺せるわ。どうせこの状態では何もできないのだし、せっかくだから何かに利用しましょう?」


 微笑んで、ローズはそう言った。

 彼女のその微笑みは、まるで『聖女』のようにジェルマンには見えた。


「『古き魔女』を倒せる力……、素晴らしい……」

 それ以来、ジェルマンはローズに心酔している。



 *****


「空間を切り取る魔法……?」

 思わず、翠は呟いた。そんな魔法、古代の魔導書でも見たことがない。


「ああ、あの魔法は一体何だ!? ローズクォーツとかいうあの人形は何なんだ!?」

 テジャスの残り火はそう叫んだ。


「わ……、分かりません……」

「だからアーカーシャのとこへ連れてけって言ってんだ!! あいつなら何か知ってんだろ……!!」

 残り火でしかないテジャスは、叫び声も弱々しい。


「わ、分かりました。すぐにここから出て、師匠の元へ向かいましょう」

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