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クルート解放戦線

 イゼプタ王国北西部。この地域は、元々は隣国のクルート王国の土地だった。王都エルサンドラの豊かさに比べると、この地域の町は貧しく、治安も悪い。

 シクリの町は、そんな地域に存在する町の一つだ。


「はぁ、暑い……」

 歩いているだけでにじみ出てくる汗を拭い、翠は思わずぼやく。シクリの市街地で、翠は一人で地道に聞き込みを行っていた。

 ――この辺りで、エルシア製の武器が流通しているという噂を聞いている。何か知っていたら教えて欲しい。

 ざっくりとそんな内容のことを、片っ端から聞いて回っていた。

 明らかによそ者の翠に対して、ほとんどの住民は邪険な態度でまともに話を聞いてはくれない。――だが、精神感応の魔法で相手が何を考えているかは分かる。何かしらばっくれている者がいれば、すぐに分かる……はずだ。


 この旧クルート領内でエルシア製の銃が出回っているというのは、本当にただの噂程度の情報だった。

 しかし、『クルート解放戦線』と名乗る組織が活動しており、イゼプタから派遣された役人が襲撃されるなどの被害を被っているのは事実のようだ。

 ――もしかしたら、モリスンの殺害もこの『クルート解放戦線』の仕業かもしれない。

 そう考えて、翠はこの土地まで足を運んだ。



 シクリの街路は、日干しレンガで作られた家々が迷路のように連なっている。

 歩き疲れて、翠はしばらく日陰で休憩していた。……すると、数名の男達が彼に近づいて来た。浅黒い肌で体格が良く、そして明らかに人相が悪い。

 直前まで気づかないふりをしてじっとしていると、翠は男達に取り囲まれた。

 ――食いついた……かな。とりあえず怯えたふりをしておこう。


「よう、ボウズ。ちょっとツラ貸せや」

「…………はい」


 男達は翠を路地裏に連れて行ってすぐに、乱暴に襟首をつかんだ。

「武器の件を嗅ぎ回っているのはお前だな? 小僧」

「はい、そうですけど……」

「一体誰の手先だ? 痛い目に会いたくなかったら全部吐け……!!」


「……全部吐くのは、あなた達の方ですよ」

 それまでのオドオドした態度を一転させて、翠は冷静にそう言った。

「何だと……!?」

 突然バチッという静電気のような音とともに刺すような痛みが走り、男は驚いて翠から手を放す。


「クルート解放戦線の方ですか?」

「……だったらどうする?」

 脅しのつもりなのか、男が剣を抜いた。


「……ex(エクス)……fogo(フォーグ)……」

 翠は男の眼前に炎を生み出した。

「なっ……!?」

「無駄ですよ。剣で僕を殺すより、あなたが丸焼きになる方が早い」


 別の男が身に纏ったフードの下から銃を取り出すのを、翠は視界の端で捉える。

 男が銃を翠に向けたその刹那、銃の中の火薬が急に暴発を起こした。

「ギャアアァッ」

 飛び散った破片で負傷した男が悲鳴を上げる。


「――銃は撃たせませんよ」

 この世界の銃はマスケットかせいぜい初期のライフル銃。装填に時間のかかるそんな銃では、魔法で破壊する時間は十分すぎるほどある。


「……おい、ヤベェぞこいつ」

 翠が見た目通りの弱々しい少年ではないことに、男達はようやく気付く。

「くっ……」

 男達が踵を返そうとしたその時、彼らの退路をふさぐように黒い犬が姿を現した。

 黒い犬は彼らの目の前で巨大化し、双頭の魔獣へと姿を変える。魔獣は、牙を剝きだして男達を威嚇した。その牙にかかれば、人間の体など一瞬で噛みちぎられることは一目で分かる。

「ヒィッ……」

 男の一人が情けない声を上げ、その場で尻餅をついた。


「ようやく、釣り針に食いついてくれましたね。僕が知りたいのはその銃の出所です。……さあ、痛い目に会いたくなかったら全部吐いて下さい」



 *****


 ――クルート解放戦線のアジトを突き止めた。

 別の町で情報収集を行っていたヨハンと合流し、翠はその情報を伝えた。


「……すごいですね、どうやって突き止めたんです?」

「クルート解放戦線のメンバーをたまたま捕まえて、穏便に全部話してもらっただけですよ」

「穏便に……ですか」

 ――『賢者』の力は底が知れない。

 ヨハンは、彼の上司であり友人でもあるエミディオから翠についての情報は分かっている範囲で聞いていた。古き魔女アーカーシャの直弟子であり、魔法を操る少年だと。

 しかし、魔法の力の実態をヨハンはまだよく知らなかった。


「それで、手っ取り早くアジトに乗り込もうかと思いまして」

「え……!? 俺たち三人でですか……!?」

 思わぬ翠の言葉に、ヨハンは狼狽する。現在この場にいるのは、翠とガーネット、そしてヨハンの三人だけだ。翠といつも一緒にいる黒い犬もいるが。


「いえ、僕とクロだけで十分です。ヨハンさんとガーネットは、万が一無関係な住民が巻き込まれないように避難させておいて下さい」

「本気ですか……?」

「本気です」

 翠は、はっきりとそう言った。

 ――モリスンという死者が出てしまった以上、あまりのんびりとはしていられない。さっきの連中は下っ端すぎて銃の流通ルートまでは知らないようだった。もっと上の人物を捕まえて情報を得ないと……



 *****


 町外れにある、かつての領主の別邸だった館。そこが、クルート解放戦線のアジトだった。

 日が落ちて、周囲は暗くなり始めている。


「……僕一人でも大丈夫だよ? クロもいるし」

「ううん、やっぱりついてく。ついて行きたい」

 ガーネットはそう言った。

「分かった。……それじゃあ、なるべく派手にやろうか」

 翠はいつも羽織っているローブを脱いで、背中の羽を晒した。――見た目のインパクトというのは、案外重要だ。


「……explosion(エクスプロージョン)……!!」

 手始めに、人がいない場所を適当に爆破する。ただし、音と光だけはできるだけ派手になるよう調整した。


「な、何だ……!?」

 突然の爆発に驚いて、数名の男達がアジトから外に出て来た。

 そこに待ち構えているのは、双頭の魔獣オルトロスである。オルトロスは、男達を威嚇するように咆哮した。

「ひっ……」

 本能的な恐怖に駆られて、男達は手に持っていた銃をオルトロスに向けて発砲する。

 だが、オルトロスはその高速再生力によって物理攻撃を事実上無効化する。その程度の鉛玉は痛くも痒くもない。

「ば、化け物……!!」

 武器が効かない恐怖をじっくりと味わってもらった後で、翠は彼らの銃を一つずつ暴発させていった。

 ――火薬があると燃焼のためのエーテルを節約できるので、魔法の発動コストが下がって助かる。


 何が起こっているのか分からず恐慌状態になる男達の前に、翠はゆっくりと姿を現した。

「大人しくしてくれればこれ以上危害は加えません。……あなた達のボスのところに案内してもらえませんか?」




「くそっ、一体何が起こってるんだ……!?」

 クルート解放戦線シクリ支部のボスであるキグスは困惑していた。突然の爆発音、そして銃声。


 ――イゼプタの軍隊がここを見つけて攻めて来たのか?

 そう思ったのだが、彼の前に現れたのは意外にもたった二人だった。背中に羽根の生えた異形の少年と、(あか)い髪の美貌の少女だ。

 少女がキグスの部下の一人である男の腕を後ろ手に捻り上げ、喉元に短剣を突き付けている。そうやって彼にキグスの元まで案内させたようだ。

「……す、すみませんボス……」

 男は、情けない声でそう言った。


「ちっ……」

 キグスの周囲の部下が、銃を構えようとした。――が、少年が何かを呟くと、銃は内側から爆発を起こした。

「……無駄ですよ。銃は使わせません」

 淡々と、少年は言った。


「お、お前らは一体何者だ……?」

「僕はスイ。今はイゼプタの女王の依頼で動いていますが、一応ただの冒険者です」

「イゼプタの依頼だと……!? 俺たちを潰しに来たのか!?」

「いえ、別にそんなつもりはありません。僕は立場的には中立なので、イゼプタにもクルートにも必要以上に肩入れはしませんよ」


「だったら何をしに来たんだ……!?」

「僕が知りたいのは、あなた達が持っている銃の流通ルートです。エルシア製の銃をどこで買ったのか、答えて下さい。……ああ、嘘をつくのも黙っているのも無駄ですよ。僕には全部わかりますから」

 キグスは、冷や汗が滲み出るのを感じた。一見すると脆弱そうなこの少年に、何か得体の知れない恐怖を覚えていた。


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