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協力者

 イゼプタの王都エルサンドラの大通りには多くの露店が立ち並び、たくさんの人々で賑わっている。

 そんな中を、翠はクロと一緒に歩いていた。ルーセットでは見たことのない食べ物や工芸品が並んでいるので、見ているだけでも楽しい。


 散歩がてら町の中を歩きながら、翠は考えていた。

 ――ガーネットが王宮内で聞き込みを行ってくれたけど、残念ながら目ぼしい情報は得られなかった。何か他に、良い方法はないかな……


 その時、クロがしきりに背後を気にする素振りを見せていることに、翠は気づいた。

「クロ……?」

 気になって後ろを振り返ってみるが、特に変わったことはないように見えた。

 ――何だろう……、もしかして誰かに尾行されている……?


 このままやり過ごして王宮に戻っても構わなかったが、何となく気にかかった。――精神感応の魔法は、人が表層意識で考えていることを読み取ることができる。

 本当はあまりやりたくなかったが、翠は精神感応で周囲の人間の思考を探索した。


「うっ……」

 無差別にこの魔法を使うと、一気に大勢の人間の思考が流れ込んでくる。無数の雑音に、気分が悪くなった。……『今日は人多いな』『何だこいつ変なところで止まるなよ邪魔だな』『また値上げしたの?』『今の子可愛いな』『ご飯どうしよう』……

 多くの取り留めのない思考の中から、怪しい思考を探り出す。


『何だ? まさか尾行に気づいたのか……?』

 ――居た。

 通行人に混じって、不自然ではない程度の距離を保ってついて来る男。


 ――さて、どうしようか。こんな人の多いところで騒ぎは起こしたくないし……





 ふと後ろを気にするような素振りを見せた後、翠は急に足早に歩き出した。

 ――何だ? まさか尾行に気づいたのか……?


 人混みの中で翠の姿を見失わないように、男は慌てて彼の後を追う。翠は、不意に方向転換して大通りから路地裏へと曲がって行った。


 男も同じ路地裏へと曲がったが、そこに彼の姿はなかった。

「…………!?」

 ――馬鹿な、どこへ行った……!?


「……僕ならここですよ」

 急に背後から声をかけられ、男は狼狽する。翠は、男の背後にいた。

「い……、一体どうやって……?」


 以前にイーリィが使った魔法を真似してみたのだ。――光の屈折率を操作して、自分の姿を不可視化するという魔法。彼女ほど上手く使いこなすことはできないが、一瞬だけでも姿をくらますことが出来れば十分だ。


「あまり手荒なことはしたくありません。あなたが何者で、どうして僕を尾行していたのか教えてもらえませんか?」

 男の目の前で、翠は空中に炎を生み出した。

「ま、待って下さい……!! 俺はあなたの味方です!!」

 慌てて、男はそう言った。


「え……?」

「……覚えてないですか? シェナスの町で一度お会いしていますよ」

 男は中肉中背で、年は恐らく二十代後半~三十代くらいだろうか。どこにでも居そうな風貌……悪い言い方をすれば「モブ顔」である。申し訳ないが、翠には本当に会った記憶がなかった。


「すみません……、いつお会いしましたっけ……?」

「もう結構前になりますが、あなたがシェナスの路地裏でゴロツキに絡まれていた時にですよ」

「あ……」


 ――思い出した。

 あれはまだ翠がこの世界に来て間もない頃、ガーネットに連れられて初めてルーセット共和国の中央都市シェナスに行った時のことだ。ガラの悪い男達に絡まれていた翠を、エミディオが助けてくれたことがあった。

 その時に、通りすがりの町人を装ってエミディオの護衛をしていた手練れの男がいた。


「エミディオさんの護衛の人……?」

「はい。ベルトーニ首相の下で働いております、ヨハンと申します」

 男は、そう名乗った。


「初めまし……、いえ、お久しぶりです、ヨハンさん。……それで、どうしてこんな所に? 僕を尾行していた理由は何ですか?」

「俺はこの地味顔を活かして諜報活動を主にやっておりまして、尾行はその、職業病と言いますか……。本当はどこかで穏便に声をかけるつもりだったんですが、まさか気づかれるとは……」

「はぁ、そうだったんですか……」

 ――何てまぎらわしいことを。


 彼がイゼプタに来た理由は、エルシア帝国からイゼプタへの武器密輸の件の調査のためだった。さすがに、翠にこの件を丸投げするのは酷だということで、ヨハンも含めてエミディオの手の者が何人か入国しているらしい。

「……助かります。正直、僕とガーネットだけでは人手不足だったので」

「はい、是非ご協力させてください」



 *****


「……そんなわけで、ヨハンさんが手伝ってくれるって」

 王宮に戻ってから、翠はガーネットにその件を伝えた。

「よかった~、私だけじゃ聞き込みにも限界あるもん」

 ヨハンには、女王から聞いた怪しい人物リストを共有しておいた。とりあえず、これらの人物の近辺を洗ってみるとヨハンは言ってくれた。



「……ところで、前から気になっていたんだけど、エミディオさんの周りにいる人達って何なの?」

 ルーセット共和国の正規兵とは異なり、直接エミディオの指示で動く彼の私兵――ヨハンや、以前に会ったカルラのような――は、一体何者なんだろうか。


「ああ、あの人達はもともとルーセットの貴族支配に対抗するレジスタンスのメンバーだったんだよ。知らなかった?」

「初耳だよ……」

 ――なるほど、彼らはエミディオさんが首相になる前からの仲間なのか。


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