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デルタ・ロロ攻略 ~アベルとミーシャの冒険2~(上)

「えっと~、まずは仮登録の見習いから始めてもらう感じになりますね~」

「はぁ……、そういうシステムなんですね……」


 中央都市シェナスの冒険者ギルドに、翠は来ていた。妙に間延びした喋り方をする受付嬢から、冒険者登録をするための手続きについて説明を受けている。


 ――世界樹のこと、ローズクォーツのこと、調べたいことが色々とある。

 冒険者ライセンスを持っていれば、移動の際の通行証にもなるし、ギルドでの情報収集もできる。

 翠はそう考えた。


「何か一つ依頼を達成した段階で、本登録という形になります~。まあ、仮登録の段階で受けられる依頼は、薬草採取とかそんな感じになりますけど……。もしくは、最初はどこかのパーティーに入れてもらうことをおすすめします~」

「はぁ、なるほど……」


 ――薬草採取かぁ。楽そうでいいな……。

 ガーネットと一緒に山歩きをしていたおかげで、野草の知識はそれなりに身に付いている。


「とりあえず仮登録ライセンスを発行しますので、こちらの書類にご記入ください~」

「はい……」


 受付嬢から書類を渡されて、翠はそこに記入をした。

 ――うっ、名前と出身地……。まあ、偽名でいいか……。出身地は……オルスローって書いておこう。どうせ調べられるわけじゃないだろうし……。


「ご記入ありがとうございます~。ではライセンスの発行まで少々お待ち下さい~」




 仮登録ライセンスの発行を待ちながら、翠はエントランスに誰かが置いて行った新聞を読んでいた。

「う……、やっぱり載ってる……」


 先日のオルド川での一件は、しっかりと新聞に載っていた。アーカーシャまで姿を現したので、一部ではかなり騒ぎになっていたらしい。

 エルシア帝国との関係性は一時的に緊張状態だったものの、現在は落ち着きを取り戻しているようだ。

 恐らく、ベルトーニ首相とアレクサンドル皇帝との間で何かしらの外交取引があったのだろうが、翠はできればこの件にはもう関わりたくなかった。


 色々と思い出して翠が暗い気持ちになっていると、急に声をかけられた。

「スイ!!」


 驚いて顔を上げると、そこには見知った二人組がいた。

 赤毛のツンツン頭の少年と、栗色のおさげ髪の少女。

「アベル、ミーシャ……!!」

 二人は、以前に翠がイオタ遺跡を探索した際に手を貸してくれた冒険者である。


「ひっさしぶりじゃん!! こんな所で何してんだ?」

「あっ、うん……。実は冒険者ギルドに登録しようと思って……」

「本当に!?」

 翠の言葉に、ミーシャは嬉しそうに顔を輝かせる。


「マジで!? この前は冒険者に興味なさそうだったのに、急にどうしたんだ?」

 不思議そうに、アベルは尋ねた。

「うん、あの後ちょっと色々あって……。一応、冒険者ライセンス取っておこうかなって」


「あっ、そういえばお前、この前新聞に載ってたよな……!?」

「そうそう、『白き翼の賢者』ってあれスイのことでしょ!?」

「うっ……、うん……。みんな知ってるんだ、それ……」

 列車を襲ってきたフォレストドラゴンを撃退したことが新聞に載り、そのせいで『賢者』とかいう呼び名が広まってしまった。――まあ、翼を隠していればバレないので、翠は人目のある場所では眼帯とコートで羽根を隠している。


「ところで、どこかのパーティーに入るつもりなの?」

「え、いやまだ何も決めてなくて……。とりあえず一人で薬草採取でもしようかなって……」

「よかったら、私たちのパーティーに入らない? 実はこれから挑戦しようと思ってるダンジョンがあって、メンバーを探してたの。今回だけでも構わないから」

「え、いいの……!?」

 ミーシャの申し出は、翠にとっては願ってもないことだった。


「もちろんだぜ!! つーか、お前が今さら薬草採取とか色々もったいないって」

 アベルも言う。

「ありがとう、是非お願いするよ……!!」


 こうして、翠は再びアベルとミーシャの二人と冒険することになった。



 *****



 デルタ・ロロと呼ばれるその洞窟の奥に、人工の遺跡が発見されたのは最近のことだ。

 新しい遺跡が発見されることなど滅多にないので、必然的に冒険者たちが集まって来る。当然、他のパーティーとバッティングすることも珍しくない。


 洞窟の入り口で、アベルは別のパーティーのリーダーと睨み合っていた。

 相手のパーティーのリーダーは、高そうな鎧を身にまとった二十歳前後の男だ。顔はまあイケメンと呼べる部類に入る。何故か胸を強調したデザインの鎧を着た美女と、二人組のパーティーだった。


「おやおや、Cランクの底辺冒険者がこんな所に何の用かな? 田舎者のアベル君」

 男は、嫌味ったらしくアベルに言った。

「あぁ!? やんのかクラース……!! 元貴族のボンボンが!!」

 彼の名はクラースというらしい。そして、二人はどうやら顔見知りのようだ。


「はっ、貧乏人の僻みは醜いなぁ……!! 世が世なら、俺はお前なんかが声もかけられないくらい高貴な身分なんだぞ?」

「うっせぇ!! 今はお前もただの平民だろうが!!」


「……ま、まあまあ。アベル、もう行こうよ……」

「そうよ、まともに相手するのやめなさいよ」

 翠とミーシャは、二人がかりでアベルをなだめた。


「ふん、貧乏人は仲間も貧乏くさいな。……そっちの小さいのは見ない顔だな。お前もCランクか?」

 クラースが、翠を見て言った。

「えっ、僕ですか……? いえ、僕は仮登録中の見習いですけど……」

 それを聞いて、クラースは吹き出した。

「見習いだと!? こいつは傑作だな!! ただでさえレベルの低いパーティーなのに見習いなんて仲間に入れてどうする気だ!?」


「んだと……!? スイはただの見習いじゃねぇぞ!! こいつはなぁ……」

「ま、待ってアベル……!! 僕のことはいいから……!!」

 慌てて、翠はアベルを止めた。

「でもよ、馬鹿にされて悔しくねぇのか!?」

「見習いなのは事実だし、僕は別に気にしてないよ……」


「はっ、お前達みたいな低ランクパーティーはせいぜい俺たちの後から大人しくついて来ることだな!!」

 吐き捨てるようにそう言って、クラースは美女と二人で洞窟の中へと入っていった。


「あっ、コラ、勝手に先に行くんじゃねぇ……!!」

「……あの二人って一体誰なの?」

 翠はアベルに尋ねた。


「あの男はクラース=ダルベルト。貴族の息子で道楽で冒険者をやってるクソ野郎だ。自分がBランクだからってやたらと俺達のことを見下してくるんだよ。女の方は、確かジュリアとかいう名前だったかな」

「前に一回依頼を横取りされたことがあってね、それ以来仲悪いのよ」

 アベルの説明を、ミーシャが補足する。


「ダルベルト……?」

 その名前に、翠は聞き覚えがあった。オニキスを探して情報収集をしていた頃、傭兵として雇ってもらったのがダルベルト旧侯爵家だった。

 ――そういえば、ダルベルト家の屋敷は魔法で少し吹き飛ばしてしまったっけ。


「知ってんのか?」

「あー……、うん、一応名前だけは……」

 翠は、曖昧に言葉を濁した。


「くっそ……、あいつらとは別ルートから行くか……」

 仕方なく、三人はクラースたちとは別の道から洞窟内に進んだ。




 洞窟内に入って、翠は眼帯を外した。不自然なエーテルの流れがないか、注意しながら先に進む。

 害獣への警戒はアベルとミーシャが行っている。


「……何もいないみたいね」

「ここら辺はまだ入り口だからな。遺跡があるのはこの奥だ」


 途中で、先行したクラース達が戦闘した痕跡を見つけた。

 メガバットと呼ばれる巨大コウモリの、剣で切り裂かれた死体が転がっている。Bランクと言うだけあって、クラースも口だけの男ではないようだ。


「エーテルの残滓……。魔道具を使ったのかな……」

 翠は呟いた。わずかだが、エーテルの流れに乱れがある。魔道具を使用した際に特有の名残だった。


「とりあえず行こうぜ、モタモタしてるとあいつらに先を越されちまう」



 洞窟の奥へと進んで行くと、岩盤が崩落している箇所に行き着いた。今回新しく発見された遺跡は、この崩落によって偶然見つかったらしい。

 崩落によってできた穴の奥に進んで行くと、石造りの遺跡の内部に出た。


「お~、意外に広いんだな」

 アベルが感嘆の声を上げる。広々とした通路は、幾何学模様の彫りこまれた大きな石のブロックがいくつも積み上げられて作られていた。


「……どう? 何かありそう?」

 ミーシャは翠に尋ねる。

「今のところは何もなさそうかな……」


「この辺りは先に入った連中がすでに探索済みだからな。未探索のエリアはもっと奥だ」

 アベルに促され、三人は遺跡の奥へと歩を進めた。




 遺跡の通路を慎重に進んで行くと、不意に通路が崩れていた。その先は、天然の洞窟に繋がっている。

 ぱっくりと地面が裂けて渓谷のようになっており、簡素な吊り橋がかけられていた。吊り橋は、先行調査で入ったパーティーが作っていった物らしい。

 吊り橋の向こうは、また遺跡の通路と繋がっているのが見えた。――そこに、クラース達の姿があった。


「おっと、ようやく追いついて来たかCランクども!! あんまり遅いからどこかで寝てるのかと思ったぜ」

 わざわざこちらにも聞こえるような大声で、クラースが言う。

「まあ、お前らはそこでゆっくり休んでから来るといい。この遺跡の攻略は俺達が代わりにやってやる」


「クラース、てめぇ……!!」

 露骨に煽られて、アベルはクラースを追って吊り橋を渡っていく。

「待って、アベル……!!」

 アベルを止めようとして、ミーシャもその後を追った。――その時。


 爆発音がした。

 吊り橋に爆弾が仕掛けられていた。爆発の威力は小さいが、ロープを切るには十分だ。簡素な吊り橋はあっけなくバラバラになって落ちていく。


「くっそ……!!」

 アベルは咄嗟に手元のロープを掴んだが、それも一緒にちぎれて落ちる。

「キャアアァァ……!!」

 ミーシャの悲鳴が響いた。


 ――助けなきゃ……!!

 翠は咄嗟に、二人の後を追って自分から渓谷に飛び降りた。


「……ex(エクス)……aer(アーエール)……!!」


 以前、マリアンジュを助けようとして五階の窓から飛び降りた時に、翠は学んでいた。落下方向と逆向きの空気の流れを作ることで、落下速度を相殺できることを。

 空気を操って風を巻き起こし、何とか二人を渓谷の底に軟着地させることに成功する。


「い……生きてる……」

 呆然と、アベルは呟いた。

「良かった……。二人とも、怪我はない?」

 心底ほっとして胸をなでおろしながら、翠は二人に声をかける。


「うん、ありがとう……。何だかスイには助けられてばっかりね」

「お、おう……。お前がいなかったら確実に死んでたぜ……」


 渓谷は、かなりの深さがあった。見上げると、吊り橋のかかっていた位置がずっと上に見える。この高さを這い上がるのは難しいだろう。


「……いちおう駄目元で聞くけど、お前、空飛べたりしない?」

「ごめん、それは無理……」


「この渓谷、洞窟と繋がってるみたい……。どこかでまた遺跡と繋がってるかもしれないし、先に進んでみようよ」

 ミーシャが言った。

「おう、そうだな。ここでじっとしてても仕方ねぇし」


「……ところで、さっきの爆弾だけど」

 気になっていたことを、翠は口にした。――恐らく、一定以上の振動に反応して爆発するシンプルな仕掛けだったのだと思う。それはつまり、吊り橋を渡ろうとする者を故意に狙ったということだ。明確な殺意を持って。


「ああ、クラース達が仕掛けたんだろ」

「僕たちを殺そうとしたってこと……?」

「手柄を独り占めしたいんだろうよ。……この業界じゃ、結構よくあることだぜ。こういう足の引っ張り合いは」

「……そうなんだ」


 依頼の数も、ダンジョンの数も有限である。手柄を立てる機会など、そうそうあるものではない。

 ――限られたチャンスを奪い合って、争いが生じるのも必然と言えば必然か……。


 冒険者業界というのも、決してぬるい世界ではないようだ。

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