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ロベリア

 『ショゴス』の体を光弾が貫いた。

 魔物は黒い液体を周囲にまき散らして絶命する。


 不定形の魔物は、シルヴァラントにも出現していた。見つけ次第イーリィが対処しているが、倒しても倒しても数が減るどころかむしろ増えていく一方だった。

 ノーブルアント達が守ってはいるが、人間の村にも被害が出始めている。


 ――何が起こっているんだ……?

 これまでになかった事態に、イーリィは困惑していた。



 不意に、森の木々が何かに反応するように大きくざわめいた。

「師匠……?」

 イーリィは呟いた。シルヴァラントの巨木の森は、古き魔女プリトヴィーそのものである。

 ――古き魔女が反応を示すほどの何かがいる……?


 イーリィが周囲の気配に注意を払った、その時だった。

 それは、空からやってきた。コウモリのような黒い翼を広げて、空から舞い降りてくる。


 少女だった。

 黒いローブの下に、どこかの学校の制服のような服を着ていた。プリーツスカートの丈は長い。うねる暗褐色の乱れた髪が顔を隠し、どことなく陰気な印象のある少女だった。


「君は……?」

 イーリィは尋ねた。彼女の着ている制服に、イーリィは、――プリトヴィーは、見覚えがあった。

 それは、かつて人間だった頃のプリトヴィーが通っていた魔法学校の制服だ。


「……ひ、ひどいわ……、私のことを忘れてしまったの……? エルデ……」

 蚊の鳴くような声で、少女は言った。

 その名を聞いた瞬間、イーリィの中からプリトヴィーの意識が浮かび上がってきた。


「お前は、ロベリア……?」

 プリトヴィーの遠い記憶が蘇る。――彼女は確か、魔法学校の同級生だった。千年前に死んだはずの同級生が、どうして今ここにいる……?


 ロベリアは、ニタリと笑った。

「お……、覚えていてくれて嬉しいわ。エルデ……」


 プリトヴィーは顔をしかめた。

「その名前で私を呼ぶな。人間だった頃の顔も名前ももう捨てた。今の私は、古き魔女プリトヴィーだ」


 しかし、ロベリアは言った。プリトヴィーの神経を逆撫でするような笑顔で。

「いいえ、あなたの名前はエルデ。文明を滅ぼす引き金を引いた史上最悪の魔法使い、エルデ=パーヴェルツィーク……!!」


 それは、プリトヴィーがつい先日まで封印していた忌まわしい記憶だった。

 アーカーシャへの劣等感に振り回されて研究に没頭した挙句、ポータルの実験に失敗して魔法文明を滅ぼした、償えない罪。


 森の木々が凶器となってロベリアに襲いかかった。木の枝が、地面から伸びた木の根が、四方八方からロベリアの体を容赦なく貫く。

 全身を貫かれて、それでも彼女は気味の悪い笑みを浮かべていた。


 次の瞬間、ロベリアの体が膨れ上がった。こぶのように肉が盛り上がり、見る見るうちに巨大化していく。そして、その醜悪な肉の塊の中から無数の触手が湧き出してきた。


「なっ……!?」

 プリトヴィーですら、こんな魔物は見たことがなかった。

 タコのような触手……かと思いきや、それは蛇や龍のなりそこないが醜く溶け合ったような姿をしていた。肉の塊は際限なく膨れ上がり、巨木を飲み込まんばかりの大きさに膨張していく。


 咄嗟に、プリトヴィーは飛翔魔法でその場から離脱した。木々の間を縫うように飛んで魔物から距離を取ろうとする。

 だが、魔物は触手を伸ばしてプリトヴィーを追ってきた。


 森の木々が、触手の行く手を阻むように枝を伸ばす。

 際限なく伸びる触手と、巨木の森の木々が、互いを絡め取ろうとその腕を伸ばし合う攻防がしばらく続いた。


 ――このままでは埒が明かないな。

 腹をくくって、プリトヴィーはその場に留まった。木々を操って、触手の魔物を取り込むように枝を伸ばしていく。それに抵抗して魔物は木々に絡みつき、バキバキとその幹をへし折ろうとする。


 不意に、プリトヴィーの意識が自分の中からスッと抜けていくのをイーリィは感じた。溶け合っていた人格が、強引に分離されたような感覚があった。


「師匠……!?」

 イーリィとプリトヴィーを繋いでいた精神的なリンクが切れる寸前、プリトヴィーの言葉がイーリィの中に流れ込んできた。

 ――この魔物は私が抑え込む。お前は、アーカーシャの元へ行け。


「わ、……分かりました、師匠」

 巨木の森が触手の魔物を飲み込もうとする攻防を尻目に、イーリィはその場から飛び去った。



 *****


 中央(メディウム)大海に浮かぶ謎の島から逃げ出した翠は、アーカーシャの館に戻って来ていた。


「サイモン=グリモワール……。その老人は、本当にそう名乗ったのか?」

 翠からその名前を聞いた時、アーカーシャは珍しく動揺した様子を見せた。

「はい……。知っているんですか?」


 アーカーシャは、少しだけ沈黙した。

「……サイモン=グリモワールは、かつて私が通っていたケントニス魔法学校の校長だった人物だ。大賢者と呼ばれたほどの魔法の使い手で、私の師匠でもあった」


「え……!? で、でもその人って千年前の人なんですよね? どうして今……」

「分からない。……反魂か、それともサイモンの名を騙っているだけの全くの別人か」

「反魂だとしたら、それを行った術者がいるってことですよね……」


 ――仮に別人だとしたら、わざわざ千年前の人物の名を騙る意味が分からない。もし反魂だとしたら、相当な実力を持った魔法使いの仕業だ。そんな実力の持ち主など、『古き魔女』の誰かとしか……


 いずれにせよ、目的が全く分からなかった。


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