赤いもようは如何なる絵?
ダイイング・メッセージ とは、死の直前に残したメッセージのことです。
推理小説などでは、犯人の手がかりを残していることが多いです。
あなたはこの事件の犯人を見つけることができるでしょうか。
公式企画『春の推理2023(お題:隣人)』の参加作品です。
既設小説『胡桃ちゃんの人形劇』等の登場人物がでますが、このお話単体でもお楽しみいただけます。
夜が更けて、人々の往来も少なくなった商店街。
すでに閉店していた和菓子屋で、大きな悲鳴と激しい物音が響いた。
心配した近所の住民が裏口から店を覗くと、店の主人・金田黄太が頭から血を流して倒れているのが発見された。
驚いた住民は救急車を呼び、警察にも通報。
和菓子屋の主人は一命をとりとめたが、翌朝になっても意識は回復せず入院している。
警察は被害者の金田が握りしめていた紙を押収していた。
その紙には絵が描かれており、中にぽつんと血の跡があった。
被害者の右手の人差し指にも血がついており、被害者が犯人の手がかりを残そうとしてつけたと考えられた。
警察は容疑者として二人の人物の調査を開始した。
和菓子屋の両隣にある店の主人とどちらも金田と仲が悪かったのだ。
一人は、和菓子屋の左隣の乾物屋を営む瑠璃川青太。
金田はその店でのスルメを焼く臭いが和菓子につくと、瑠璃川とよく口論していた。
もう一人は和菓子屋の右隣で豆腐屋をやっている丹野赤也。
金田はその店前に置いてあるオカラの臭いが和菓子につくと、丹野とよく口論していた。
金田を襲った犯人は瑠璃川と丹野のうちどちらか?
* * *
「ねぇねぇ、偉文くん。これって推理小説?」
安アパートで独り暮らしをしている僕の部屋に、従妹の胡桃ちゃんが遊びに来ている。
彼女はとても元気な小学生の女の子だ。
「いや。たんなる推理クイズだよ。ちゃんとした小説になってないしね」
「ねぇ。被害者が犯人の手がかりを残すのは『ダイイングメッセージ』っていうんだっけ?」
「そうだよ。今回の被害者は死んでないけどね。で、犯人はこの二人のどちらかだとすると、胡桃ちゃんは犯人がわかるかな」
僕がきくと、胡桃ちゃんはしばらく僕のアイデアノートを見ていた。
「指のあとはイカの絵の真ん中……。違うか。スルメの真ん中と考えると、『ル』で始まる瑠璃川さんがあやしいかな……」
そういいながら、胡桃ちゃんは絵をもういちど見た。
「タコの足は8本だけど、イカは10本。十を表しているということで、豆腐屋の丹野さんも怪しいかも。難しいね。こういうのって暦が得意なんだけど」
暦ちゃんは胡桃ちゃんの妹で、すごく物知りの小学生だ。
「ねぇ、偉文くん。二人のアリバイとか他に目撃者はいなかったとか、ヒントはないの?」
「ないよ。この絵だけを見て答えを出すクイズだからね」
「そっか。この絵だけでわかるんだ。犯人はどっちだろ?」
絵を見ながら、しばらく考えていた胡桃ちゃんは「あれ? もしかして……」と言って、別の紙と鉛筆を取り出した。
胡桃ちゃんは、僕の描いたイラストを描き写している?……いや、違う。
ちゃんとした絵に描き直していた。
胡桃ちゃんの絵は、僕がつけたトリックもちゃんと反映されている。
「あははは……。胡桃ちゃん、あいかわらず絵がうまいね。っていうか、答えはすぐわかったみたいだね」
「わかったっていうか…… 前に暦がダジャレを言ってたのを思い出したの。この絵って、こういうことだよね」
胡桃ちゃんは自分が描き直した絵を僕に見せた。
「うん、正解。じゃあ、もうひとつ推理っていうか、なぞなぞを出そう。子狸くんがお菓子のたくさん入った箱を持っていました。となりのイタチくんがお菓子を1つもらいました。イタチくんは何のお菓子をもらったでしょうか?」
「なぞなぞ? うーん。なんだろう? お菓子……『おかしい』っていうダジャレじゃないよね。となり……おとなり……音が鳴るお菓子……」
胡桃ちゃんはしばらく考えた後、ポンと両手を合わせた。
「ねぇ、わかったよ。イタチが横にいるから、『板チョコ』でしょ?」
「正解、よくわかったね」
「昨日、暦が偉文くんに板チョコもらったって言ってたよ」
「ははは……。あげたんじゃなくて、暦ちゃんが勝手に持ってったんだよ。テーブルに『チョコは頂いた』ってメモがあったよ。ダイイングメッセージならぬ、『ダイニングメッセージ』だね」
金田を襲った犯人はわかりましたか?
答えは以下の文章を右から読んでください。
『人犯が屋フウトう扱を花の卯。るいていつが血に鼻のギサウで逆が絵』