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部族の糸  作者: 寫人故事
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策謀

 アレッタ様はもう城に帰ってしまったか。どうせ明日も集まりがあるから明日話せば問題ない。


「そうか。それならもう帰ってもいいと思うぞ」


 見張りにそう声をかける。


「そうですか。分かりました。お先に失礼します」


 見張りはすぐに帰る準備をしに下の階に行ったので、俺は少し時間をおいてからアレッタ様の部屋の鍵穴に糸を詰めて捻る事で鍵を開けた。


 俺は部屋の中に入ってすぐに部屋の鍵を閉めて、部屋の中を糸を使ってくまなく探す。


 だが、目的の物はなかった。


 俺の読みだとあるはず何だけどな。俺は糸を盗聴機代わりにドアの近くと窓の近くにバレないようにつけておいて部屋を出る。


 どうせ改革思想反対の部族とかにこの本部はバレていると思っていたが意外と気づかれていないのか?それともアレッタ様の部屋に何かをするのは憚られたか。


 この部屋以外に何か細工をされた感じはしなかったからここに何かあると踏んで忍び込んだのに無駄足だった。ただリスクだけを冒した。


 この状態で誰かに見つかってしまえば確実にお縄になってしまうので、俺は部屋の外の状況を念入りに調べてから部屋を出て家に帰る事にする。


 俺は屋上に出て糸を伸ばしたところである事を思い出して地上に降りた。


 父を殺すための道具を買わなくてはいけないんだったな。俺は路地裏に入って目的の店に向かう。路地裏を進み突き当たりのドアを捻って中に入る。


 一見一般の住宅の裏口かのようにあるこのドアの向こうは店になっているのだ。


「久しぶりだな」


 俺はまず挨拶をする。


「お久しぶりです」


 店主は俺に深々とお辞儀をしている。この店主は顔馴染みというか何というか。


 この店は法外な物を売っているから警察が捕まえようと動いた事があった。そのときに俺はこの店の物を隠し捕まらないようにしてやったという事があったからこの店主は俺に対して下手に出る。


「毒を探している。後でバレない毒だ」


「毒ですか。速効性のあるもので?」


「いや、時間はあるから少しづつ飲ませるタイプでも構わない」


 今の議会をやっている最中に父を殺せればいいからまだ数週間残っている。


「それでしたらこちらがお勧めです」


「そうか。俺が毒殺した事がバレれば今度こそお前が捕まる事になる。その上で聞くが効果は確かか?」


「はい。勿論です」


「そうか。これを買おう」


 警察に捕まらないように逃げ回る事は可能だが追われるという状況が嫌だから確認したが、問題なさそうだ。


「あの時のお礼としてこちらは無料で差し上げます」


「ありがとな」


 あの時に売った恩が生きた。


 これで俺がこれを手に入れた形跡は残らないから後はもうこの店がどうなろうと問題ない。


 形跡が残らない方法としては盗むという選択肢もあったが、この店なら店内に謎のセンサーでも付けていて盗むとバレそうだから正規の方法で手に入れたわけだ。


 俺は回りの家に糸を伸ばして家に帰る。


 俺は自分の部屋に戻ってから毒の説明書を熟読する。少しの量を十五回程度飲ませれば効き目が出るようで、液体状のため色々な物に混ぜても効果があるそうだ。


 かなりいいものを譲ってもらえたな。


 よほど味が薄いものに入れない限り味が変わる事もないようなので父が飲む飲み物にでも混ぜておこう。


 十五回で済むならまだ時間的に余裕があるため、まだ実行はしないが準備だけでも進めておかなくては。俺は毒を収納魔法が刻まれている魔法具の中に入れておいてからベッドの上で横になる。


 少し横になって家にいる人たちが寝静まったらキッチンに向かう予定だ。父の飲む飲み物を俺はよく知らないためキッチンでどんな飲み物を飲むのか調べに行くのだ。


 俺はベッドの上でこれからどうすればいいのかを考える。


 父を生かしておけば確実に改革派が目指す議会が出来ないような法案を出すに決まっている。だからこそ父は野放しにしておけない。だからといって人を殺すのには少しだけ抵抗がある。


 俺がベッドに横になってからかなりの時間が経過した。俺はベッドから体を起こして部屋の外に出る。


 全ての電気は消されており使用人すら寝てしまっている夜中に俺はキッチンに向かうがキッチンの近くに来た時に異変を感じとる。キッチンから光が漏れだしている。


 誰かいるようだ。


 俺の家族がいるとは思えないので使用人の誰かだろうが、万が一の可能性も考えて戦闘体制でキッチンに入る。


「メルヴィル様!こんな夜中にどうして?」


 使用人の女の子エミリーが気づいて話しかけてきた。


 この子は三代に渡ってここで働いてくれている家の子供で俺よりも二歳年下だった気がする。俺は戦闘態勢を解除して父の飲み物について探りを入れる事にする。


「少し、君と話がしたくて」


「本当ですか!?どのようなお話でしょうか?」


「父の飲んでいる飲み物についてだ。今の議会が終わった時に父に贈り物をしようと思ってな。飲み物関係の物を贈ろうと思うのだが、父が今飲んでいる飲み物を教えてくれるとありがたいのだが」


 探りを入れる理由は贈り物を贈るから。この理由はかなり便利な代わりに贈り物を考えているという証拠に今度もう一度相談に行く必要がある。


「族長様に暗殺の危険性を考慮して飲み物について誰にも教えないようにキツく言われていますので教える事は出来ません」


当然そうだろうな。


「そういえばそうだったな。それなら何を飲むかだけ教えてくれるか。紅茶とかコーヒーとか。銘柄はいらないから」


「それなら紅茶です」


「ありがとう」


 これを知れただけでも大きな収穫だ。


 父の飲み物はこの子が淹れているという事が今ので分かったからこの子をマークさえしていれば父の飲む飲み物何てすぐに分かる。


「ところで君はこんな夜遅くに何をやっているんだ?」


「恥ずかしながら私は料理が苦手なので料理の練習を。今二品くらいを作りました」


 よく見るとこの子の向こう側に美味しそうな料理が乗った皿が置いてある。


 俺は皿とフォークに糸を伸ばして、料理を食べ始める。この子は料理に夢中で俺が料理を食べている事には一切気づいていない様子だ。


「私は料理が下手でメルヴィル様や族長様の料理に一切関われていないのでいつか私の料理を食べてほしいんです。そのために毎日料理の練習をしているんですよ」


「そうか。頑張れよ」


「はい、頑張ります」


 そう言いながらこの子は俺の方を振り返って現状に気づいたようで数秒固まっている。


「何で食べているんですか!?食べちゃダメですよ!」


「ダメな理由はないと思うが。充分美味しいし」


「ありがとうございます」


 するとこの子は少しだけ頬を紅潮させている。


「毎日練習しているのだろう?それならできる限り食べに来るよ」


「練習何ですから食べないでください」


「そう言われてももう食べているからな」


「それもそうですけど」


 エミリーと仲良くなれば父に毒を盛ったとしても俺に有利な証言をしてくれるはず。そう信じて今はこの子と仲良くしていようかな。


「だから食べに来ても問題ないだろ」


「はい。ですけど私も食べたいので全部は食べないでください」


「勉強熱心だな。いつか食堂で父と一緒に君の料理を食べる日が楽しみだよ」


 小さな会話から俺が父を殺すような人ではないという印象をつけに行こうとする。


「はい!楽しみにしていてください」


 それまで父が生きていられると改革派の活動の邪魔になるからその未来はあり得ないのだがな。


 父にはこの国の未来のために死んでもらうよ。


 会話している間に三品目も出来上がったので三品目も少し食べた。


「それじゃあ、お休み。料理の練習はほどほどにして寝ろよ。頑張るのは良いことだが、夜更かしは翌日に響くし美容の敵だぞ」


「はい!もう少しで寝る事にします」


 結婚前の人間に大事なのは見た目と中身と技術。人間の中身はそうそう変わらないから考えても意味がないが見た目は努力すれば結構変えられる。


 技術についてはエミリーの料理の腕は一般的な家庭よりも上だから、結婚するのに必要な技術は持ち合わせているのだろうな。だから早く寝るように忠告して俺は寝に行く。


 結婚するのには一人暮らしをできるだけの技術はあった方がいいと俺は思っている。エミリーは家事全般できる筈だから、最低限必要な技術量を大きく上回っている。


 エミリーとちゃんと話すのは始めてだったが中々好印象を与える事が出来たんじゃないだろうか。


 俺は自室のベッドに寝転がり、今後の計画を練ってから寝る。

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