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部族の糸  作者: 寫人故事
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協力

「久しぶりだなエルド。相変わらず部屋が汚い」


「久しぶりメルヴィル。部屋の汚さは気にしないでくれ」


 俺の挨拶に答えた部屋の住人は髪の毛がボサボサで薄汚れた服を着ている。だがその薄汚れた服が綺麗な状態であるならば相当な値打ちもの。


 この人間が如何に金持ちなのか、如何にダメ人間なのかが一目で分かってしまう。


「とりあえずソファーにでも座ってくれ」


 そう言われたからソファーまで移動するが足の踏み場が最低限の移動用しかないというのはどういう事だ?おかしいだろ。


「今日は何の話があって来たんだい?」


「改革派というのは知っているか?」


「思想自体は少し前からあったけど最近名前がついた思想だよね。それがどうしたんだい?」


 知っているなら話は早い。


「この思想を実現したい」


 この男は少ししか信用していないが裏切られたとしても損は少なく協力してくれれば大きな得をする。


「あの思想は一つの部族につき一議席だったよね。現部族数は八十九。最低でも二議席、出来れば三議席は欲しい」


 確かに少なすぎるかもしれない。


「確かにそうかもしれないが三は多い。三議席もあれば過半数を超える。この思想の特徴としては誰であろうと立候補出来るようにする点だ。なのに決まっている議席で過半数を超えるのはよくない」


「そうか。部族側に立ってしまうと議席が減らされた気になるけど誰でも立候補出来るのか。やる気がある部族は多くの立候補が出来るし部族に所属していない人も議員になれる。自分もこの意見に賛成だよ」


 この思想の一番重要な点は部族の議席を平等にするのではなく誰でも立候補できるようにする事なのである。


「一番大事な事に気づいてくれれば賛同者は多くなると思うのだが一人一人の誤解を解くのは時間がかかりすぎる。そこでお前の協力が欲しい」


 こいつは一つの事にのめり込めば部屋から出ずに自分が満足するまで一つの事をしてしまう。故に興味を持たせのめり込ませさせすればいい働きをしてくれる可能性が高い。


「自分は何をすればいい?」


「改革思想の内容を的確に伝える文章を考えて欲しい。ついでにPRの方法とかも合わせて考えてくれると助かる」


「その代わりと言ってはなんだが部屋の掃除をしてくれないだろうか」


「使用人にやってもらえ」


 結構な人数の使用人がいるのはこの部屋に来る最中に確認出来ている。協力関係にある部族の次期族長に頼む事ではない。


「使用人には諦められた」


 可哀想なやつだな。


「仕方ない。やってやるが物の配置には文句を言うなよ」


「それに関しては大丈夫。その辺にあるのは全部探し物をして散らかったものだから片付けられても片付けられなくても物を探し出すのは出来ない状態だから」


 それならどうせすぐに散らかるから俺がやるのは無駄では?


「出来る限り分かりやすく仕舞うから次からは物を引っ張り出して探すなよ」


「分かったよ」


 これで次来た時に散らかっていたらこいつの事をぶん殴ろう。


 俺は周囲に大量の糸を広げて、床に散らばっている物を拾い上げていき、まずは何とか収納出来るスペースを見つけては入れていく。この時に前後に物が重ならないように、重なるとしても奥の物が見やすいように配置する事で物を探しやすくするのがコツだ。


 ある程度床が歩けるようになった時に俺はある事に気がついた。収納スペースに対しての物の量が多すぎる。これではどう頑張っても入りきらない。


「収納用の家具は貰ってこれないのか?」


「買ってきてもらおうか?」


 こいつの家は浪費家でそれを使用人達も理解しているから頼めば買ってくるのは無駄に凝った飾りが施されていて機能性があまり重視されていない品だろう。


 そんなものを今は求めていない。


「しなくていい。自分で何とかする事にした」


 俺は床に散らばっている物を片付けたように見える置き方をすればいいのか思案してみたが無理だな。俺は諦めて散らばっている物を壁に並べていきインテリア風にしてみても床にあるからやっぱり無理。


 諦めた事により収納はもう完了だ。


 ここからは散らかさないための工夫を凝らしていく。工夫と言っても効果が出る気はしない。何故なら散らかす奴はどんな物でも散らかすからだ。


 俺は取り合えず本を言葉の並びに合わせて順番を変えていき探しやすくする。糸を使う事で広範囲を感知して感知によって得た情報を元に別の糸を使って並べかえをしていった。


 普通の人がやれば一回読むのに一つの背表紙で限界だろうが俺の糸にかかれば同時に何十冊もの本の背表紙を読めるので素早く終わらせられる。


「流石メルヴィルだ。短時間でこんなに綺麗にするなんて!」


「俺が綺麗にしてやったんだから分かっているだろうな。次来た時に散らかっていたらぶん殴る」


「気を付けるよ。こういう時のメルヴィルは本気だから気を付けなきゃまずい」


「いつも気を付けろよ」


 いつも気を付けてくれていれば俺が掃除をするなんて事は無かったはずなのだから。


「これで俺の用事は済んだしもう帰る」


「ああ、次来るまでに仕上げておく。次はいつ来るんだ?」


「来週」


「そりゃいいな。長期間貰えたならそれに見合った仕事をしなければいけない事以外は」


 時間さえあれば良い出来の物は作れるだろうがこいつは怠けるため一週間が限度だ。それよりも長ければ怠けてかえって質が落ちる。


 こいつは才能があるくせに怠けやすい性格でせっかくの才能を無駄にしている気がするが本人が気にしていないなら俺が何を言った所で無駄。


「必ず来週来るからな。それまでに終わらせておけよ」


 釘を刺してから部屋を出て他の人に会わないうちにすぐに帰り始める。会ってしまったら一時間くらい今後の部族についてとかの内容で議論をしなくてはいけなくなる。


 それをさせてくる面倒くさい奴がこの家の住人の大半を占めているのだ。


 今なら改革派について話し合えるいい機会ではあるのだが一時間の議論の内訳に問題がある。


 十分くらいしか議論をしなくて、それ以外の時間は部族の成功談や自分の武勇伝を聞かされるのだが過去に聞いた話をされるからつまらない。


 血は血というべきかここの住人は同じような感じだ。


 あいつは自分の部族の成功談何て一切覚えていないし、自分の過去を気にしないからそういった話はしない。だから時々つるんでいる。


 俺は中庭に行って糸を使い屋上に上がる。そこからは行きと同じ要領で建物や木に糸を引っ掻けて高速で移動を始めた。


 目指すは本部。


 アレッタ様がいらっしゃれば今回取り付けた約束について話をしようと思う。そしてこれからについて話し合うのだ。


 このまま少しづつ人気を得るやり方では俺たちの代で改革を成せないので大きく動き出す準備を始める事を提案しに行く。


 王家の人間の協力を得られるのはこの代だけかもしれないから何としてでもこの代で改革を成さなければいけない。


 そのための準備。


 俺は大急ぎで移動して首都に入る前に大きく飛び上がる。街中を高速移動するわけにはいかないから街の端から一気に飛び上がって本部の屋上に向かう。


 街の端からでは正確に屋上に着けないので空中で建物に糸を放って落下位置を調整しながら本部が見えたところで本部に糸を付けて屋上の中央に着地した。


 最近糸を使っていなかったから鈍っているな。昔の糸をめちゃくちゃ練習していた時期なら途中で一切の調整が無くても寸分の狂いなく屋上に着けただろうに。


 俺は屋上から本部内に入ってすぐにアレッタ様の部屋に行く。アレッタ様の部屋は最上階だから屋上から行った方が早い。


 部屋の前に行くと見張りが俺に軽く会釈をして口を開いた。


「今日はアレッタ様は戻られないそうです」


「そうか。教えてくれてありがとう」

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