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部族の糸  作者: 寫人故事
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命名

「それでは改めまして今後の活動についての会議を行います」


「はい」


 さっきは醜態を晒してしまったけど、切り替えて真面目に話し合いをしなくてはいけない。


「私は企業にアピールを。メルヴィルさんは部族にアピールという方向性で問題ないですか?」


「はい。異論無しです」


「それではその方向性で進めるとして、直近の目標でも決めますか」


 今後の活動を話し合うという名目の集まりではあるけど、特に話す事はないから苦肉の策。


「自分は自分の部族や勧誘した人たちの状況の確認をしつつ、他の部族内にも我々の思想が広まるようにしておきますね。そして次の決議までに二倍ぐらいにはしたいです」


 メルヴィルさんは私の無茶ぶりにすぐに対応して目標を立てて貰ったけど、私から言っておきながら何も考えていない。


「私はどうすればいいと思いますか?」


「そうですね。この街の人の過半数は味方につけたいところです。そうすれば如何に求められているかを示す事が出来ますし、いざという時はデモを出来ますから」


 メルヴィルさんはいざとなればデモをする気でいるとは知らなかった。もっと平和的に進めるつもりでいるのかと思っていたけど過激なこともありなんだ。


「それでは私は市民の過半数を味方につける事を目標として頑張ります」


「頑張ってください」


「頑張ります」


 応援されちゃった。


 メルヴィルさんは紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。


「それではまた後日」


「はい。よろしくお願いします」


 メルヴィルさんは退室していった。


 私はメルヴィルさんのカップを取ってカップに残っている一、二滴を飲む。う~ん、割りと上手く紅茶を入れる事が出来たようだね。私も自分の分を一口飲みはしたけど熱すぎて味が分からなかったからちゃんとした紅茶を提供できたか不安だったけど問題なさそう。


 メルヴィルさんに応援されちゃったし私も自分の活動を頑張らなきゃね。


――――――――――――――――――


 毎日今後の予定を話し合う事になるとは思ってもみなかった。


 俺――メルヴィルはかなり驚いている。


 この組織の上に立てる地位に立てる人間はアレッタ様か俺ぐらいしかいないだろうから、二人揃っている時に攻撃でもされて両方死ねば確実にこの組織は消滅するだろうな。


 そんなリスクを冒しても話し合わなければいけないような気はしないけど、面白そうだからいいか。


 アレッタ様が自分で熱いって言っておきながら自分が火傷するのはかなりのやばさを感じた。しかも俺が助けていなかったら脚まで火傷していた可能性があったのも可笑しい。


 人々の間に広まっている印象は気品があって完璧な人だというのに差がありすぎる。


 今日の出来事を思い出すとついつい口元が緩んでしまいそうになる気がするので思い出す時が真面目な場でなければいいな。


 俺はそんな事を考えながら家まで戻ってきた。


 俺は幹部会に赴いて幹部たちの意見を聞く事にする。


「メルヴィル様、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「今日は例の思想についてどのような意見を持っているか聞きたくてな。理由も含めて教えてくれるか」


「私は賛成ですね。この国の事を考えれば部族に差をつけているままでいるよりは平等に扱いつつ、市民の意見を尊重するべきだと思います」


 まず一人が答えた。


「私は反対です。国の事を考えればそうした方がいいのでしょうが我々の部族の事を考えると反対ですね」


 後の二人は賛成反対で分かれたが同じような理由を持っていた。


 反対の人は完全に反対というよりはそうした方がいいのは分かるけど自分たちの利益を考えればという事のようだから引き込めない事はなさそう。


「意見を言ってくれてありがとう。出来れば部族の人たちの意見も聞きたいのだがやってくれるか?」


「次期族長の命とあれば」


 次期族長か。


 自分の思い通りに進めるためには我が父を殺さなくてはいけない。この思想を嫌っているから我々の邪魔をしてくるのだろう。邪魔をされないためにも絶対に殺す。だが、いつするべき何だろう。


 俺が疑われないようにする必要もあるし、出来る限り父への不満を煽っておけば殺しても大して調べる事もなく終わることになる。人は嫌いな人間に対して薄情だし、好き嫌いの感情が曖昧な人は周りの好き嫌いに流されやすいものだ。


 俺は父の暗殺とアレッタ様の思想を広める事の両方をしなくてはいけない。


 俺は部屋から出ながら計画を練っていく。


 まずは幹部から懐柔した方がうちの部族の人たちの懐柔がやり易くなるけど、部族の人たちから懐柔した方が幹部の懐柔はやり易くなる。同時にやっていくのが一番懐柔はしやすいだろうけど俺の負担が大きいな。


 どうするべきか悩ましい。


 アレッタ様の思想がどのくらい部族の人たちに受け入れられているのかという事で行動を変えるのが手っ取り早いか。俺は計画を練りながら今日は休んだ。


――――――――――――――――――


 私――アレッタはメルヴィルさんの到着を待っていた。


 今日は来てくださるだろうか。私は今度は早めに紅茶を入れながらメルヴィルさんの到着を待つ。


 ガチャッ


 私がすぐにドアの方を向くとそこにはメルヴィルさんが立っていた。


「お越しくださり、ありがとうございます」


「時間を空けられたので」


「わざわざお時間を作っていただきありがとうございます」


 私のために時間を作っていただいたのなら嬉しい限りだけどたぶん活動のためかな。


 私は二人分の紅茶を入れてテーブルに運ぶ。運んだカップをメルヴィルさんが少し触った。


「お熱いですので気を付けてくださいね」


 私は今一気に顔が赤くなるのを感じている。昨日の一件を按じてなのか、からかってなのかそんな事をメルヴィルさんは言ってきたのだ。


 恥ずかしい。


「昨日の事は忘れてください」


「忘れられる気がしません」


 何でそんな意地悪な事を言うの?私をからかっているので確定だよね。


「それはさておき、今日はこの組織の名前か思想の名前を考えようと思いまして。その方が便利でしょう」


「いいですね。ですが私にネーミングセンスはあまり…」


「自分も同じですので気になさらず」


 私たち両方とも向いていないみたいだけど立場的には私たちが考えなくてはいけない。


「とりあえず案を出してみますか。メルヴィルさんはどのくらい時間がありますか?」


「今日中は問題ないですよ」


 今日中!?そんなに一緒に!頑張って長引かせようかな。


「市民派はどうですか?」


「市民にとっては良いと思いますが、部族にとってはいい気はしないでしょう」


 無し。


 すぐに良い点とダメな点を言われたけど納得できる。どちらかだけというのにしてはいけなく、どっちもの賛同を得られるような名前に。


 余計に難しい。


「改革派はどうですか?現在の形から変えようという意思が伝わりやすいと思います」


「いいと思います。候補に入れておきましょう」


 やった、褒められた。ここから頑張っていい案を出していこう。


 それからしばらくの間意見を出しあったけど中々いい案は出ずに改革派に決まった。


「よくよく考えたら改革派では思想の名前でも組織の名前でも無くないですか?」


「そうでした。これでは私たちの派閥を表すだけですね。それなら思想の名前は改革思想でいいんじゃないですか?」


「それはシンプルでいいですね。次は組織の名前を」


 組織の名前の方が難しい気がする。


「どうせだったら改革派を組織名として使ってしまえばいいんじゃないですか?そうすれば人数が多く見えるでしょうし」


 確かに我々の組織に加入していないけど改革派の意見の人が自分は改革派だと言えばまるで組織の一員かのようになる。中々ずる賢い事を考えますね。


「そうしましょう」

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