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部族の糸  作者: 寫人故事
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姉妹

 メルヴィルさんに会ってから距離を取られている気がする。メルヴィルさんはあの時の事は忘れられてしまったのでしょうか?随分昔の事ですし私も名乗らなかったので無理もないですけど私にとっては大事な思い出何ですけどね。


 私はお城に戻ってきてお姉さまの部屋に向かって歩いている。私はお姉さまの部屋に着き次第部屋をノックする。


「お姉さま。アレッタです。入ってもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ」


「失礼します」


 私は久しぶりにお姉さまの部屋のドアを開けた。


「こうやって訪ねてくるのはいつぶりでしょうか?」


「もう二、三年は」


「そうですか。姉妹二人だけなんだから堅苦しい喋り方止めない?」


「そうだね、お姉ちゃん」


 こんな感じで砕けて喋っているのを教育係りとかお父様に見つかればすぐさま怒られるだろうけど私は堅苦しい喋り方は好きじゃない。


「今日は何のよう?」


「メルヴィルさんとの結婚について。メルヴィルさんとの結婚は政略結婚何でしょ。好きな人と結婚した方がいいよ」


「そういう結婚を夢見る事はあるけど、私たちは人との交流が少ないでしょ。だから好きな人がいないから仕方ないよね」


 これなら頑張れば婚約を無しに出来るかもしれないけど、そのためにはメルヴィルさんにもっと利益になる相手が必要だ。


「それならお姉ちゃんが婚約を破棄して好きな人が現れるまで待った方がいいんじゃない?きっとメルヴィルさんも許してくれるよ」


「それを許してくれるお父様ではないから厳しいね」


 これは本人たちだけの問題では無い事だったのを忘れていた。


「事情は大体分かったから何とかしてみるよ。アレッタも頑張ってね」


「なにが分かったの?」


 お姉ちゃんに隠している事は少なくないからどれがバレたのか分からない。


「秘密。私もそれなりに忙しいからそろそろ自分の部屋に戻ってね」


「分かったけど今度何が分かったのか教えてね」


「いつかね」


 私は部屋を出る。


「失礼しました」


 いつ聞かれているか分かったもんじゃないから部屋のドアを開ければ堅苦しい話し方に戻さなきゃ。


 それにしてもお姉ちゃんは本当に話の分かる人だ。私たちの活動に誘ってしまいたいぐらい。でも私たちのやっている事は最悪議会への反乱行為と見なされて捕まる可能性もある。それにお姉ちゃんを巻き込みたくない。


 もう巻き混んでしまっているメルヴィルさん一人なら私の首があれば守る事は出来るはず。メルヴィルさんだけじゃなくてみんな私の我が儘に付き合ってくれている優しい人たちだから何としてでも守り抜かなければいけない。


 私は今回の行動に首を賭けて取り組んでいるつもりだ。自らトップに立って一番罪を被りやすいようにしている。本来トップに立つべきはメルヴィルさんのようなみんなに周知されていて権力もあるような人だろうけどそんな人の未来は潰したくない。


 私は自室に戻って休む事にした。色々考えるのが大変になってしまったのだ。私はそう時間がかからずに眠りについた。


 私は朝起きてすぐに身仕度に取りかかって朝食を食べにお城の中を移動する。


 食堂まで来たけどまだお姉ちゃんしかいないようだ。


「お父様はまだいらっしゃらないのですね」


「お仕事の方がお忙しいようで」


 この国の王は政治権力は持っていないだけで仕事はそれなりにあるけど、厳格な父が昨日までに仕事を終わらせなかったのは意外だ。


 他の家族は基本的に朝には弱いので起きて朝ご飯を食べるのが遅い。


「今日もお出掛けなさるのですか?」


 お姉ちゃんが聞いてくる。


「はい。大事な役目がありますので」


「そうですか。頑張ってくださいね」


「はい。精一杯頑張らせていただきます」


 私は朝食を食べ終わり次第お城を出て本部に向かう。


 今日は何とかしてメルヴィルさんとお話する時間を作って昨日の挽回を図らなくてはいけない。 私は本部に着き次第入り口に立っている人に話しかける。


「お勤めご苦労様です。もしメルヴィルさんがここを通る時は私が呼んでいると伝えてください」


「了解しました」


「よろしくお願いします」


 私は必要な事を伝え終わったら本部にある私の部屋に行って今後の予定を立てる。


 それが終わり次第どのような人にはどのように伝えれば心に残って私たちの思想に参道してくれるのかという戦略を立てていく。


 コンコンコン


 来客が来たようだ。


「どうぞお入りください」


 そう声をかけるとドアが開かれてメルヴィルさんが部屋に入ってきた。私は反射的に立ち上がる。


 どうすればいいんだったけ?どうすれば…紅茶を入れるんだった。


 私はカップを取り出してティーポットを傾けるけど少ししか出てこない。何でこんな時に切らしているの。私は急いで新しい紅茶を作ろうと動く。


「自分の事はお気になさらず。どうぞ座ってください」


「来客におもてなしをするのは当然の事です。昨日はおもてなし出来ずに申し訳ありませんでした」


「本当に気にしなくていいですから」


 私がそうしたいの。


 私は紅茶の準備を終わらせて後は待つだけとなった。メルヴィルさんの方を向くとまだメルヴィルさんは立っている。


「どうぞお座りください」


「自分から先に座るのはちょっと」


「お気になさらず。今は来客ですから普段の上下関係など忘れてください。なんなら普段から上下関係は忘れてください」


「それではお言葉に甘えて今だけ忘れるとします」


 普段からの方はスルーですか。


 メルヴィルさんが座ってから私も対面に座る。


「本日はどのようなご用件でお呼びになられたのですか?」


「今日は今後の私たちの活動についてお話をしようと思いまして。それで活動についての話を三日に一度くらい、出来れば毎日できませんか?」


 今までで一番勇気を使った。よくやった、アレッタ。頑張った自分の頭を撫でてあげたいぐらい。


「構いませんが、毎日は厳しいかもしれないです。できる限り時間を作りますね」


 跳び跳ねたい程嬉しいけど今するわけにはいかないと思って抑える。それでも口の端がどうしても緩んでしまう。私は口の緩みがバレないようにするために紅茶を入れにいく。私はメルヴィルさんに背を向けてティーカップに紅茶を注ぐ。


 私は二人分入れ終わったところで、テーブルに持っていった。


「お熱いですのでお気をつけください」


「ありがとうございます」


 私は再びソファーに座って紅茶を飲もうとカップを持って口をつけると熱湯が口の中に入ってきた。私は反射的にカップを離したけど勢いよく離しすぎてカップが斜めになる。


 その瞬間大量の糸が私のカップを抑えて、溢れた紅茶が落ちるよりも先に私の脚の上に糸が現れる。その糸のお陰で紅茶は私の脚にかからずに済んだ。


「熱いですから気を付けてください」


「はい…」


 自分で言った事をそのまま返されてしまった。


 恥ずかしい。


 メルヴィルさんは立ち上がって冷蔵庫の前まで行って立ち止まった。その間にカップは糸によってテーブルに置かれて、脚の上に広がった糸はシンクの上で消える。


「冷蔵庫開けますよ」


「はい」


 理由は分からなかったけどメルヴィルさんにならいっかと思って許可を出すと、メルヴィルさんは冷蔵庫の中から水と氷を取り出した。


 コップに氷を入れてから水を入れて、コップを私にくれる。


「水は飲んで氷は口の中に入れて舌を冷やした方がいいですよ」


「すいません」


 私は言われた通りに水を飲んで氷も口の中に入れて舌を冷やす。


「あひはほうおはいまふ」


 氷を口に入れながらお礼を言ったけど絶対伝わっていない。


「お気になさらず。数分は口の中に入れておいた方が治りがよくなると聞いた事があります」


 伝わっている。メルヴィルさんは理解力が高すぎる。


 私は数分氷を中に入れたところで小さくなった氷を噛み砕いた。


「ご迷惑をおかけしました。自分で熱いと言ったのに舌を火傷して紅茶を溢して。本当に申し訳ありません」


「気にすることありませんよ。人助けは自分のためでもありますから」


 メルヴィルさんはやっぱり優しいお方だ。

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