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部族の糸  作者: 寫人故事
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根回

 アレッタ様は後日から団体に声をかけて頑張っておられる。アレッタ様の方は心配しなくても勝手に上手いことやってくれるだろうな、自分の仕事を果たさなくては。


 上の方の部族の監視をして隙ができ次第勧誘というやり方が他の人の監視を同時進行にやらなければいけないという事は俺の力にあっている。


 そうやって一週間で全員に声をかけ終えて、ついでに準備も済ませておいた。


 拠点の周囲に糸を展開して我々の活動を邪魔しようとするやつがいないか注意を払いながらウォーカー家の人たちに発信元は隠して考えを広めておいたら面倒くさい事が起きた。


 父はこの考え方が広まっている事に激怒をして俺は父に呼び出されている。


 本当に面倒くさい。


 俺は仕方なく父の元に赴き話を聞く。


「最近広まっている部族や序列に関係なく議席数を設けようとする思想については知っているな」


「はい、勿論です」


「こんな思想などあってはならん。早急に対策を取りこの思想を我らの部族、いやこの国から無くせ」


 そんな無茶な。と思いつつ心なしか血管が浮き上がっている父には言えない。


 そもそも序列順に議席数を設けようとしているのは自分の権力を保持したいから父は言っているのだろうが、そんな考え方など現状にはあっていない。だけどそれを言ってしまえば次の議会で俺が議員に選ばれなくなる可能性があがってしまうのでここは媚を売っておこう。


「了解しました。近日中には我々の部族から消し去り、それが終わり次第国中から消してみせましょう」


「すぐに取りかかれ」


 俺は父のいる部屋から出て如何にするべきか考える。


 確実にこの思想は広めなければいけないが父の耳には入れてはいけない。そのためにはこれから側近会議に乗り込むのが一番手っ取り早いな。


 父は側近会議に出させるためにこの時間に呼びつけたのだろうがそれが仇となったな父よ。


 側近会議とは父の側近の人たちが一日に一回決まった時間に集まって話し合い、部族の今後を決める会議だ。その会議で決まった事を父に報告をして父の承認を得るような形だから父はほぼほぼお飾りのようになっている


「失礼する」


 俺が側近会議をしている部屋のドアを勢いよく開けてなかに入る。


「メルヴィル様!?どうしてこちらに?」


 側近の一人が慌てて立ち上がって代表して聞いてくる。今日は側近四人全員が揃っているな。


「今日は最近広まっている思想について話をしようと思ってな」


「部族や序列に関係なく議席を設けようとする思考ですか?」


「そうだ。その思考が父は大層嫌いなようで耳にしただけでも大激怒だ。その思想がどうあれ絶対に父の耳にはいれてはいけない。最近父は体調が優れないから血圧が上がってはいけないのも理由の一つだな。もし父にその話をする時にはその職を辞める事を覚悟しろ」


 側近になるには長い年月をかけてなった者ばかりだから辞めるわけにはいかないだろう。口からでまかせを言って側近たちに口止めをしておく。


「了解しました。決して部族長様のお耳にはいれません」


「頼む」


 俺は部屋を後にして次は兵士の訓練場に行く。何かあった時に大事なのは兵士を味方につける事だろうからな。


 兵士の訓練場一帯が見渡せる場所に来て声をかける。


「少し話を聞いてくれるだろうか?」


「「「「「はっ」」」」」


 こういうときは纏まって動いてくれるから便利だよな。


「最近部族や序列に関係なく議席を設けようとする思想が発生しているが賛成するしないは個人の自由だ。好きにすればいい。だが、父はこの思想を聞くと激怒されてしまうから父の耳には絶対に入れてはいけない。この話を他の人にも広めておいてくれ。側近たちには先に話を通してある」


「「「「「はっ」」」」」


 これで賛同するしないは自由という話が側近の耳に入る事なく部族全体に広める事ができるだろう。よしっ、これで部族の中で出来る事は終わったし本部に戻ろうかな。


 俺が糸を使いながら本部に戻ってくるとすでにアレッタ様が本部に戻られているようだった。


 俺はアレッタ様に現状報告をしにアレッタ様の部屋に行く。


 ドアの前にいる人に通されて中に入るとアレッタ様は紅茶を飲んでいるご様子である。俺が部屋に入ってすぐにアレッタ様は気づいて紅茶のカップを置いて立ち上がった。


「どうしてメルヴィルさんがこちらに?」


「現状報告をしに来たんです。アレッタ様は座ってください」


「そうでしたらメルヴィルさんが座ってください。それと私の事は様などはつけずにアレッタと呼び捨てで呼んでください」


 それは無理がある。権力がないとはいえ一国の王女を呼び捨てなどできない。


「呼び捨てなどできません。アレッタ様こそ自分にさんなどつけずに呼び捨てで呼んでください。互いに立場というものがありますから」


「ですがここでは立場など関係なくあるべきではないでしょうか?それにメルヴィルさんは私より年上なんですからさんと付けるのは当然です」


 ここで立場など関係なくあるべきな理由は何?それに俺の方が年上といっても一歳差何だからさんづけで呼ばれるほどじゃない。


「立場はどこであろうと関係ありますし、歳の差は大してないのでさんを付けるべきではありません」


「ところで私の姉との婚約についてはどういった経緯で?」


 急に話の内容を変えてきた事から察するにこのままでは議論に負けると判断したのだろう。


「どういった経緯といってもただの政略結婚ですよ。それが家の利益になりますので」


「なら他の人と結婚する事でより利益が出る場合はその人と結婚するんですか?姉の事は好きではないんですか?」


 凄いこの話に食いついてきている。


「大して会った事もないので好きではないですね。ただ、他の人との結婚は難しいでしょう。相手が王女なので」


 王女との婚約を破棄して別の人と結婚したなど悪評がでてしまって利益は薄いだろう。


「そうですか」


「そろそろ現状報告をしてもよろしいですか?」


「お願いします」


「自分の部族に広める手は打ちましたので数日中には我々の思想が広まってくれるでしょう。ただ父がこの思想が気にくわないようでして部族全体の意見をこちら側に引き寄せるのにはまだまだ時間がかかると思います」


 まだまだ始まったばかりなので結果はどうとでもなってしまうから確実にこっちに意見を傾けなければいけない。


「もうそこまででいいですよ。誰よりも働いてくださって本当にありがとうございます」


「誰よりも働いているのはアレッタ様でしょう。お体には気を付けてくださいよ。無理をして体調を崩すことのないように。そろそろ自分は行きますね。お元気で」


「あ、はい。また来てくださいね」


――――――――――――――――――


 私――アレッタは酷く後悔している。


 折角メルヴィルさんが来てくださったのにお茶の一つも出さずに話が終わってしまった。それに加えて話の途中でお姉さまとの婚約について聞いてしまう始末。


 嫌われたりしていないよね。


 メルヴィルさんと一緒に活動できているのに嫌われたりしたら私はどうしたらいいの?メルヴィルさんとはもっと長い時間を過ごしたいのに。今度私から今後の活動についてお話ししたいと誘って反応を確かめよう。


 それしかない。


 そうすればメルヴィルさんと二人きりでお話が出来ますし、今回の事の失態を取り返す事も出来る。メルヴィルさんの目の下に隈のようなものが見えたので、今度会う時には快眠を促す作用のあるお茶を出そう。


 そろそろ私もお城に戻らなくてはいけない時間ですね。私は部屋を出て鍵をかける。


「お先に失礼します」


「お疲れさまでした」


 部屋の守りをしていただいている方に声をかけて本部を後にする。

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