表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部族の糸  作者: 寫人故事
2/29

王女

 これでやっと今日の業務を終えることができた。


 俺は《創糸操術》が使えるだけでまだ未成年なのに大量の仕事を押し付けるなんてこの部族の大人はイカれている。


「兄様、お仕事は無事、終わりになられましたか?」


 俺の部屋の扉の外からそう聞いてくるこいつは俺の弟のソロモンだ。


「ああ、終わった」


「そうでしたか。兄様宛にお手紙が届いています」


 手紙か、珍しいな。扉を開けてソロモンを中に入れる。


「こちらがその手紙です」


 そういって弟は手紙を差し出してくる。その手紙を受け取り、ソロモンが部屋を出ていってから中身を確認する。弟だろうと部屋の中をあまり見られたくない。


『国王の次女アレッタは預かった。お前一人で三日以内にアレッタを見つけだしてみせよ』


 目的は恐らく我が家の失墜といったところか。アレッタ様を救えなければ我が家の汚点となり、これを企てた部族がアレッタ様を見つけ手柄をたてるのだろう。


 次期国王の王子を誘拐できなかったことから、国からの信頼が低い序列で、さほど力が無いのが窺える。


 正直に言ってしまえば我が家何てどうでもよいのでどこかの家が手柄をたてるのを見過ごしてもよかった。なのだが、汚点がつくのは家だけではなく俺にもついてしまう。


 それは嫌だ。


 家宛に手紙を送れば見逃してやったのに俺宛に送るとは運がないやつだな。


 俺はアレッタ様探しに本腰を入れて頭を捻る。


 三日後に手柄をたてるなら王城に近いところに隠すのが一番か。それなら三日もかからずに探し終えるだろう。


 だが、俺たちの家に汚点をつけるにはどうするのだろうか?三日後に俺が悪いと指摘したやつが犯人だ。例えば我が家に手紙を送ったとアレッタ様に言っておいて、後でアレッタ様からそれを聞き出したとしても、俺がしらばっくれればいいだけだ。よく考えれば何も問題はないか。


 足がつくのを恐れてか、直接我が家に投函したようだから受け取った事実そのものを消すことができる。


 逆に助けることで何か悪いことが起きるのだろうか?


 思いつくとすれば俺は王家の長女カミラと婚約している。その中で次女を救出することは少し問題かもしれない。それにどうせ誘拐した奴にアレッタ様を殺す度胸はないから無事に帰ってくるだろう。


 助けることで俺は損する可能性があり、助けないことで損も得もない。助ける事に得があるとすれば、次女を助けて懇意になればこの国の発展をもう少しやりやすくなるか。


 それなら助けるのみだな。家や俺の名誉よりもそして婚約よりも俺の目的を果たすことを選ぶ。


 俺は《創糸操術》を発動してこの都市全体に糸を張り巡らせる。この糸から情報を集めアレッタ様を探し出す。


 俺の糸は固さ、細さ、長さ、色など結構自由が利き、さらに後から変える事も可能だ。勿論、俺の魔力が無くなれば変える事はできなくなる。


 俺はこの都市の地図を持ってきて監禁できそうな場所を見つけてはそこに透明で細い糸を多めに送る。この糸はそう簡単に見つからないだろう。


 そうやって虱潰しに探していくと日付が変わることなくアレッタ様は見つかった。


 後二日の内に犯人を見つける必要がある。


 犯人が見つからなければ他の部族が何かと言ってくるのは目に見えている。そうなると族長つまり俺の父が小言を言ってくる。


 よく考えればそれが一番面倒なので犯人が見つかれば救出、見つからなければ無かったことにする。


 まずはアレッタ様の状況を確認する。


 どうやら手錠も足枷もつけられてはいないが部屋に閉じ込められている監禁状態のようだ。


 部屋は防音のため内側からの声は外に漏れない造り。部屋の中にはベッド一つにトレーがドアの近くに置いてある。


 トレーの上には皿三つにフォークとスプーン。ドアには郵便ポストのようなものがついていて、開く場所からトレーの受け渡しをしているようだ。


 それならそのトレーを受け渡ししている奴も犯人の一人のはずだ。


 後はこの建物の所有者も押さえなくてはな。防音設備が整った監禁用の部屋を用意するなどそう簡単なことではない。なのでこの建物の所有者はどこかの部族の長か金持ちのはずだ。どちらであろうと確保すべきである。


 家の従者にソロモンを呼ばせてその建物の所有者を調べるよう指示をだす。


 ソロモンが調べ終えるまでは建物に入ってきた人間全員に糸を仕込む作業をする。この糸から俺は位置と周囲の状況を少しだけ分かることが可能だ。この糸が増えれば増えるほど周囲の状況認識できる範囲と精度が上がる。一本であろうと十分ではあるが。


 建物に入った者に一本。部屋のある階層に入った者に一本。部屋の近くを通った者に一本。部屋の前で立ち止まった者に一本。


 という感じでより部屋に近づいた人が分かるようにする。そうすることで誘拐に深く関与している者を割り出して、その者の周囲の状況を調べることで黒幕を見つけ出す算段だ。


 俺が準備をしているとソロモンは二日目の内に建物の所有者を割り出してくれたので、その人にも糸を仕込む。


 こうして最終日の三日目。


 仕込まれた糸の本数が多い者の糸を介して《創糸操術》を使って糸で拘束する。遠隔で、仕込んでいた糸を長く固くしてから、糸を操って手首と足を縛る。


 拘束した人たちを建物に集めてからアレッタ様が監禁されている部屋の鍵穴に糸を詰める。糸を詰めてからガチガチに固めて糸を捻ると鍵が開いた。


「お迎えに上がりましたよ」


 「流石ですね。合格です。私に力を貸していただけませんか?」


 全てはアレッタ様が仕組んだことだということか。


「事情次第ですね」


 無難な答えを返しておく。


「とりあえず彼らを解放してあげてください」


「はい」


 全員の糸を消し去る。


「それでは話しましょう、私たちの計画を」


 それなりの人数の人たちが部屋に入ってきた。見た事がある気がする人たちばかりである。だが、思い出せない。


 アレッタ様の計画はこの国のために改革をしたい、というものだった。この国の議会政治のやり方を変えたいそうだ。


 この国は部族が集まって出来た国なので部族の代表者が議員なのだが、最近では部族に属さない人の方が多い。なので部族向けの政治から全ての人のための政治に変えるのだと言っている。


 具体的には各部族から代表者一名ずつのみを出して、残りの枠は部族とか関係なく立候補者を選挙で選ぶというものだった。


 確かにこれだと部族からの意見を通すことも部族以外からの意見を通すことも可能になる。


「ですが、これは上の部族が了承しないでしょう」


「そうです。王家に権力は無いので議会を通さなければいけないですが、それも難しくて」


 上の部族というのは四大部族やそれに近い議席数を持つ部族のことだ。


 あいつらはこの仕組みでは議席数が大幅に減ることになるので、今と比べると圧倒的に意見が通らなくなる。逆に議席数が少ない部族は意見が上の部族に左右されなくなるから、今よりは意見が通りやすくなるので賛成してくれるだろう。


「上の部族は議席数の半分より多いのでかなりの難易度です」


「ウォーカー族がついてくれれば何とかならないですか?」


「無理ですね。まず自分はいいとして父が反対します。そもそもウォーカー族が納得しても下の部族全てが味方にならない限り無理です」


 下を全て納得させるのは無理だから上の部族の議員をこちら側に引き込むのが最善手だ。


 アレッタ様は少し思案して口を開いた。


「上を少しずつこちら側に取り込んでいきましょう。そのためにまずはこの仕組みを発議してこの仕組みを認知させます」


 それなら最初に味方の人数を把握することができる。


「ならそれで行きましょう。自分も頃合いを見てウォーカー族の議員を説得してみます」


「お願いします。皆さんもお願いします」


 アレッタ様は部屋にいる人たちの方を見てそう口にした。


 今思い出した。こいつら少数部族の族長たちだ。


「ここにいる部族には議席が無かったはずでは?」


「大丈夫です。一人だけ議員がいますから」


 それなら問題ないな。次の国会が楽しみになってきたが、唯待っている訳にもいかない。


 準備を無事に終わらせて国会議事堂にきた。


 俺は議員ではないから議会を見渡せる場所で見学することになっている。俺が見に来ている目的は仲間探しのためだ。議会は匿名投票なので何人いるか分かっても誰が味方なのかは分からない。なので俺が糸を使って監視するのだ。


 このために糸を仕込むのにかなり苦労をした。議事堂のセキュリティが高く糸を通すのに想像以上に時間を使ってしまった。


「来たんですか!?」


 アレッタ様は先に来ていたようだ。


「味方が誰なのかを正確に知るために来ました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ