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それは感情

目が覚めると、僕のために用意された部屋のベッドに居た。神社の奥にある普通の人じゃ絶対に来れない所。昨日は油津さんに抱き上げられたまま知らないうちに眠ってしまったんだっけ。


体を起こすと、ベッドで油津さんが座っていて、心配そうにこちらを見ていた。

 

「あ…あの、油津さん、僕…」


僕は、昨日のことを思い出し、これから起こるであろう事が怖くて油津さんを頼ろうとする。


「油羅ちゃん、ごめんね、先に言っとけばよかった」


そう言って油津さんは僕を抱きしめる。抱きしめられることが恥ずかしくて嫌なはずなのに、今はただ安心してしまう。


すると、不意に声が聞こえてくる。


「すみません、センです。入ってもよろしいでしょうか?」


センさんが来たようだ、襖越しに透けて見えている。


「セン?いいわ、入って」


油津さんがセンさんに入るように促すと、「失礼します」と言って、入る。


「油津様、そして油羅様、大丈夫ですか?人間に見つかったと聞いたので心配していたのですが…」


センさんの後ろに少し透けている狐が何匹か見える。もしかしたらその子達は動物霊というやつなのかな。


「センの後ろにいるものは何?入っていいと許可した覚えは無いけど?」


油津さんは仕えているものへの使い方…使い方と言ったら聞こえは悪いかもしれないけどそれが上手い。

主従をしっかり理解させていて、カリスマ性がある。


「すみません、何度も来ないようにと言ったのですが、どうしてもと言って聞かないのです…」


「それなら相応の重大な案件があるのよね?お前達」


そうすると、センさんの後ろにいた、狐達のリーダーのような子が言う。


「もちろんです!油羅様は油津様の妹であり、最早動物霊と人間の融合体、実態を持たない動物霊が憑けるのは心が綺麗で動物への愛があるもののみです。それが複数体憑いている油羅様なら、その分悪いものを化かす能力が付いている筈です。もちろん、最初は慣れない感覚があると伺えますので、お手伝いとしてお供させていただければと存じます」


え、僕に動物霊が憑いているのは聞いてたけど複数体?何匹も憑いてたの?

それに化かすって?

身体能力が上がっているってことなら知っているけど……?


「成る程ね、痛みを幻にする……」


油津さんが少し考える素振りをすると、首を横に振ってから口を開く。


「駄目だわ、信仰者のイメージに寄り添い身体を改変することは神の一員になる試練として与えられるものだから、それを化かして無かったことにするのは無理なはずだわ」


「うぅ、すいません浅慮でした……」


「いえ、良く考えたものです、私の妹のために動いてくれたこと、心配してくれたこと、感謝しますわ」


動物霊はみんな残念そうに、心配するような顔をしている。本当に僕のことを案じてのことなんだろうけど、迷惑をかけてしまっているような気がする。

みんなが僕のために動いてくれている。別にみんなに何か施した覚えなどないのに。


「僕……まだ此処に来たばかりなのに、何もしてあげれてないのに、なんでそんなに優しくするの?」


僕がこう言うと、動物霊の一人が言う。


「油羅様は、優しいです」

「生前、よく話してくれたし、撫でてくれたじゃないですか」


え?


その動物霊は、黒い猫だった。


「もしかして、ネロ?」


「覚えててくれましたか」


たまたま家の近くに居た傷付いた黒猫。

可哀想だったから水だけでも持って来て飲ませてあげたのが最初の出会いだっけ。

怖がられてたけど、毎日同じところにいるからなんとなく会いに行って水をあげてたらひどく懐かれちゃってたな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


とある日の学校帰り、自宅である一軒家の敷地、そこの隅っこに黒い猫が見えた。

近くに寄って見てみると、所々に怪我があった。此処に来るまでに何かがあったみたいだ。


「……水、水筒にまだ残ってたよな」


コンクリートの上に水を垂らす。近くにいると飲まないかもしれないから、その場所からは少し離れる。

以外にも、すぐ飲んでくれた。


「可愛い奴だな……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「油羅様は、私にすごく優しくしてくれたし、毎日水を持って来てくれました。真っ黒で不吉だと言われてその街の人にいじめられていた私にとっては、すごく助かったんです。ネロという名もつけてくださいましたし」


「でも……やっぱり死んじゃってたのか」


ある日からネロは居なくなった。それから何日経っても来ることは無かった。僕にとって心の拠り所の1つだったのに、急に消えたんだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あの黒猫に出会ってから何週間か経った日、いつも黒猫のネロがいるところに行くとそこには何もなかった。

 

「え?」


ネロに水をあげるのが日常の一部になっていた僕は唖然としてしまった。


「今日はいないだけ……だよね」


ネロの姿に癒されていた自分にとって、ネロがいないのは苦痛だった。だからたまたま居なかっただけだと思うことにした。

でも、それからネロが姿を現すことは無かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はい……私が居なくなったことをすごく悲しんでいましたよね。それだけ大切に思ってくれたのが本当に嬉しかったです…!でもこうしてまた会えましたし、狐の動物霊さんのおかげで会話すらできるようになってるじゃないですか」


ネロの前向きな言葉が脳裏に響く。

油津さんもセンさんも他の動物霊のみんなも空気を読んでのことなのか何も喋らない。


「ネロは…霊になってから僕を助けようとした?」


「勿論です!なんならあなたの心の隙間を埋めようと入ろうとしました。ですが、もともと人間に負の感情を私が持ってたので、人間の身体を持つ油羅様には憑くことはできなかったんです、無理矢理憑こうとすると油羅様に何が起こるかわからなかったので断念しました」


「……やっぱり人間はクソなんだな」


人間に深い傷を負わされた僕には分かる。ネロは人間にいじめられていたと言っていた。


 きっとネロは人間に殺された。


「油羅…やめなさい」


油津さんが急に怖い口調で言った。


「……え?」


「油羅、あなたはその人間に信仰されているかもしれないのよ」


「あの人たちは…悪い人に見えないから」


あの少女達を思い出したとき、身体に激痛が走る。


「…ッ!」


「ゆ、油羅ちゃん!!?」


油津さんの心配の声が聞こえた。

身体全身が痛い。

鉄の処女(アイアンメイデン)の中ってこんな感じの痛みなのかな。全身を針で貫かれてるかのような痛みがして、歯を食いしばるだけでは耐えられない…!


「あああぁ!!!!!!!!!痛ぁああああい!!、、…ッ!!!!」


汗と涙が混じる。


「セン!狐達を連れてこの部屋に結界を貼りなさい!入ってきた信仰心に対して拒絶反応が想像より強く起きてる!!」


「油津様はどうするのです!?」


「私が神力を何百年集めてきてると思ってるの!?それは貴方も知ってるでしょ!?」


「…………りょ、了解です!!」


意識を手放すつもりだったが、手放させてくれない。


地獄だ。

TS的な面白いところはまだ先かな、ちょくちょく仄めかしてはいるんだけど

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