可愛さ
更新遅すぎてまじで申し訳ないorz
「……ぅん……?」
油羅は目が覚めると、自分が大きな尻尾を抱き枕にしているのがわかった。
「あ、起きた?」
目が覚めると、油津がすぐ近くにいた。
油羅が抱き枕にしていたのは、油津の尻尾だったのだ。
「あ、油津さん…どうしてここに?」
「油羅ちゃんを呼ぶために来たの、でも私の尻尾を抱き枕にしちゃったから動けなかったのよ」
「え?あ、ごめんなさい!」
油羅は寝てる間に尻尾を抱き枕にした所為で、柚津が動けなかったことに、謝るべきだと思った。
「謝らなくていいわ、かわいい寝顔が見れたんだから」
「……そ、そうなんだ」
寝顔を見られたことと、かわいいと言われたことによることなのか、油羅は少し顔を赤く染めていた。しかし、それは恥ずかしさと共に嬉しさも詰まったものであった。
「油羅ちゃんも起きたことだし、ちょっと神社の方に行くよ」
「僕もですか?」
「そうだよ、私達を祀ってる神社に赴くの、私は完全に人間には見ることができないから大丈夫だけど油羅ちゃんは半分人間だから見られちゃうから、見つからないようにしてね、面倒くさいことになるから」
油津の言う神社というのは、稲荷神社などのことだろうと思うが、油津さんは九尾だ。九尾は妖怪だと言われており、本当に祀られているのか、油羅は少し疑問だった。
「セン、留守の間はここを頼むわね」
「はい、楽しんできてください」
センは、油津の要求を快く引き受けて、お見送りをしてくれた。
神社の鳥居を抜ける前に後ろを振り返ると、センが手を振っていた。油羅もそれを返していると、油津に呼ばれたので、そちらに向かうことにした。
「今思ったんですけど、ここってどこなんですか?」
狐と共に転移してきたので、ここが一体どこなのか全くわからない。単純に所在地が知りたかった。
「もぉ、油羅ちゃん、姉妹なんだからそんな硬くならなくて良いんだよ〜?だからさぁ、試しに私の名前呼んでみてよ」
(ねぇ、ちょっとこれって姉って呼ばないといけない感じ?)
「………………」
「油羅ちゃん?」
とても強く期待しているみたいで、それはプレッシャーとして油羅に重くのしかかる。
「…………油津…お姉ちゃん?」
「ふふふふ、なぁに?」
「……ふえぇ」
基本的に、九尾の狐は最強クラスの生物だ。今のところ彼女は強そうに見えないが、それでも九尾の狐というのは神に近いレベルの、いや、ほぼ神である。
そんな存在から強い期待を持たれたのだ。それは、絶対に期待に応えないといけないという強いプレッシャーに変わっていったのだ。
勿論油羅は耐えかねて、涙目になって弱々しい声をあげてしまう。
「あ、あ、ご、ごめんね?強要したつもりじゃないからね?本当にごめんね?」
油津は油羅を追い詰めてしまったと気づいて、必死に弁明をする。自分のかわいい妹に嫌われてしまわないか不安になっているのだ。
何百年も生きている九尾の狐がここまで焦っているのは、センや他の動物霊からすると、相当驚く事案だろう。
「えっと……さっき言ってたここが何処なのかってことなんだけど、ここは下野って名前の国だったかな?そこの高原の一角だよ。結界で囲ってあって普通には入れないようにしてあるの」
話を逸らす為に、油羅が質問したことに今更返す。
油羅は目を逸しているが、話はちゃんと聞いている。油津は目を合わせようとしない油羅を見てまた不安になるが────。
当の本人はお姉様と呼んだことによる羞恥で顔が赤いのを見せたくないだけだった。
気まずい空間のまま、数分歩いたところで油津が立ち止まり、油羅も立ち止まる。
最初に口を開いたのは油津だった。
「ここから転移で神社まで行くよ」
「転移って……規格外じゃないですか?どうやってそんなことをやってるんですか?」
油羅は油津や狐が使っている転移などの、最早魔法や奇跡と呼ばれそうなことを簡単にやってのけるので気になって聞いてみた。
「神力のこと?」
「じんりょく…?」
油羅は聞いたことの無い言葉に首を傾げる。その仕草はとても可愛くて、元男だったなんて信じられないほど様になっていた。それくらい油羅とこの身体は相性が良いのだ。
(この子、男だったはずだけど、自分の体を最大限に活かした行動してない?こんなに早く体に慣れるものなの?)
油津は油羅の可愛さに対して最早呆れのような感覚に陥っていた。
それと同時に新しい身体への順応の速さに驚きもしていた。
「んえ?ちょっ、油津さん!?」
油津は油羅をお姫様抱っこする。
「神の力って書いてじんりょくって読むんだけど、所謂超能力って奴かな?」
油津は油羅が戸惑っているのを気にせず、お姫様抱っこのまま神力の説明を続ける。
「神様に匹敵できるレベルの力って意味で、転移をしたり、大きな事柄に限るけど未来予知したり、幻を見せたり、炎を生み出したり、いろんな事ができるし応用もきくの」
油津は油羅に神力について軽く説明している。
「(顔が近くて見えやすいから油津さんの綺麗な顔が……なんか見るのも申し訳なくなっちゃう)」
油羅には神力の説明が頭に入ってない。男のときの感覚がまだあるので困惑をしてしまうのだ。
油羅は紅潮して、ふにゃふにゃになっている。
「じゃあ転移するよ、変な感覚かもしれないけど堪えてね」
油津がそういうと彼女らの足元が光りだし、その場から姿を消した。
瞬きを一回すれば、知らない世界が広がっていた。それほど転移は一瞬の出来事だった。
油羅は未だにお姫様抱っこされていて、まだまだ顔も紅いし、困惑もしていた。
転移して来たのは所謂、稲荷神社と言われている場所だ。売っているお守りには九尾の狐の姿が描かれている。
今は森の方から神社の裏の方を見ているという感じだ。道が整備されている表参道から行けば簡単に見つかってしまうからだ。
「あ、降ろすね、自分で歩きたいだろうし」
油津はもう満足したのか一周回って冷静になって油羅を降ろした。漸く地面に足をつけられたことと、油津の破壊力の高い妖艶な顔から逃れたことに安心した。
「油羅ちゃん、前に言ったと思うけどあなたは半分人間、つまり半人半霊だから普通の人にも姿が見られちゃうの。変にSNSとかで拡散されないためにも人間には見つからないようにしてね」
「……」
油羅は了解の意を示さずに目を下に逸らす。
「……もしかしてお姫様抱っこしたらだめだった?」
油津が少し心配そうな声色で言う。彼女は油羅に嫌われたくないという感情が大きい。それ以外にも彼女が不自由なく、自分の好きなように生きられるようにしてあげたいという感情もある。
「…だめとかはないよ、姉呼びもお姫様抱っこも。でも、恥ずかしいからやだ」
油羅は未だに頬を染めながらも本音を言った。
「この姿になってから羞恥の感情が強くなってるみたいで、すぐ顔が赤くなっちゃうんだ」
「だから…」
「じゃあ気にならなくなるまで普通のスキンシップを続ければいいね」
「へ?」
油津が油羅の手を強く握り、そのまま神社の方角に向かって歩いていく。
「……それも恥ずかしいって」
言葉ではそう言っているが、人肌に触れることができて内心安心している油羅であった。
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