着せ替え(1)
身体が動かなくなった。神力の使いすぎだとは聞いたけど、なんで?
神力使いすぎると身体が動かなくなるってどういうこと?
冷静に考えてみたら意味分かんなくない?
「私たち神力を使う者は皆、身体を動かす動力が神力なの。油羅ちゃんは今枯渇状態だから殆ど動けない。まぁ、暫くの間休んでいれば動けるようになるわ」
「なんでそういうの早く言ってくれないの…?」
「何事も経験は大事よ、どれくらい使うと動けなくなるのか今回のことでわかったんじゃない?」
動けなくなる理由とか、なんで毎回後から教えてくるのか分かった。
確かに、理解していたとしても、実際に経験するまでは本当の意味で理解できたとは言えないのかもね。
やってはいけないことだと分かっていても、怒られるまでやってしまうとか、あるもんね。
油津さんに自室まで連れて行ってもらって、ベッドで寝かせられる。
「じゃあ、そこで待ってるのよ。アレの準備してくるから。って動けないんだったね」
そんな適当なことを言って油津さんは自室から出ていった。
………
アレというものが何なのか気になるなぁ
─────────────────────────
その後少しだけ眠って、何か気配を感じ、目を覚ました。
「起きましたか?」
センさんが覗き込んでくる。
センさんの毛が逆光で光ることで、神々しさが出ている。
「ん…ふあぁ…センさん?」
「はい、なんでしょう油羅様」
センさんは、いつもよりも口角を少し上げて、さらに目尻を下げている。
何か良いことでもあったのかな。
上半身を起こそうとして、動けないんだったことを思い出した。
「あ……えっと、センさん…起こして…?」
あまり動かない腕を頑張って突き出して訴えた。
「……!!ふふ、はい、ゆらさまぁ」
センさん、なんだかすごく顔が緩んでる。かわいい笑顔だなぁ。
センさんは僕の腕を取って、そのまま抱きかかえた。
ちゃんとおしりの方にも手を置いていて、安定感抜群だ。なんだか、ちっちゃい子どもに戻った気分。
僕にお姉ちゃんなんて居なかったけど、もし居たらこんなふうに抱っこされてたのかな。
センさん、ふわふわしてるー。
僕はセンさんに抱きかかえられたまま、移動を開始した。
襖はセンさんが神力を使って開けているので手が塞がっていても開けられるみたい。
少し歩いた先は……油津さんの部屋?
「油津様、油羅様が起きましたので、連れてきました」
センさんがそう言うと、勢いよく襖が開かれた。
「ありがとう、すぐに入ってk……」
あれ?湯津さんがフリーズしちゃった。
「どうしましたか?油津様」
「……尊いわ、尊さが……」
「油羅ちゃんとセン、これから二人で寝たらいいんじゃない?」
「油津様、それはちょっと……そんなことより、今日は油羅様にいろんな服を着せるんじゃないんですか」
え?ちょっと待って、いろんな服を着せる?
「そうね、油羅ちゃんが神力枯渇で動けないうちにやっちゃいましょう」
「待って、僕は巫女服以外着るつもりないんだけど!?」
「あら、そんなにその服が気に入ってたの?」
「そうじゃないっ、というかこの服って神力で保護されてるんでしょ?だったら汚れたりする心配もないし、他の服に着替える必要って無いんじゃないの?」
「油羅様、あくまでもこの巫女服は仕事服ですから、たまにはオシャレしたくありませんか?」
「いや、僕は男だし、そういうの興味ない……いや、今は女の子か……あれ、そういえば男だって意識したのいつぶりだろう?」
僕は、男であったことを忘れていたのか?
なんか怖くなってきたかも。
でも男だったときにいい思い出なんか無いし、別にいっか。
「うふふ、だいぶここでの生活も慣れてきたようね」
「油羅様……男でもオシャレはするものですよ……」
それから油津さんの部屋の奥に進むと椅子が一つ、ポツンと置いてある場所に着く。ここは他の場所から一変して洋風な造りになっている。洋風建築の一室にある和室みたいな感じなのかな。
僕はその椅子に座らされた。
「それじゃあ着替えましょっか♪」
はぁ、結局着替えることになるのか…。
ん?待って……これ、自力で脱げない……じゃん……
「あ、あ……」
逃れられないじゃないか。
センさんがクローゼットを前にした後、振り返って尋ねる。
「油津様、最初はどの服にします?」
「そうね〜、まずは、ロリィタにしましょうか」
あぁ、もういいや。神力枯渇になった時点で運命は決まってたんだ。
もうどうにでもなれー
「あら?油羅ちゃんから感情が感じられない……気がする?」
「まぁいいってことよね?じゃあ……」
─────────────────────────
「……油津様、一緒に楽しんでしまった私が言えたことではありませんが、これではオシャレの楽しさ云々とは逆になってませんか?」
「……うーん、でも嫌そうな素振りしてないし…」
「それは諦観してたからでは?」
油羅は着せ替えが始まってから頭の中を無にしていた。
今も律儀に椅子に座るだけ。
「……こんなに楽しいのに……」
「油津様は自分の考えを押し付ける癖があるかもしれませんね」
「だから……油津様が苦手そうなものは私がやりますので、もっと私を頼ってください」
「セン、あんたかわいいわね」
「…………」
「……油羅様を寝室にお連れしますね」
「照れなくてもいいのよ?」
「口を噤んでください」
「つれないわね〜」
そうして油津とセンが楽しんだ油羅の着せ替えは幕を閉じた。
────────────────────────
後日。
「なにこれ!?」
朝起きたら真っ白なネグリジェ姿になっていた油羅はその自分の姿があるということは一度脱がされたことを意味することに気が付き、恥ずかしさで死にそうだった。




