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油揚げというもの

「油羅様、もう男要素は欠片も無いですね」


「えっ」


あの少女たちと別れてから、センさんの元に戻ったら、そんなことを言われた。

 

男要素が無いって?


いやいや、そんなこと……あるかもしれない気がしてきた。


「……取り憑かれてから感情が豊かになったから?」


「確かに、それも影響していると思いますが、私を抱き枕にしたのは」


「あああーー!!それは寝てたんだから仕方ないだろ!!」


よりにもよってその話を掘り返して来るのはよくないぞセンさん。


こうして駄弁りながら少しひらけた場所まで歩く。

そこに着いたら、センさんに転移を使ってもらい、家の前まで来た。


「僕も転移、使えるようになりたいな」


「今のペースで神力の扱いを練習する場合、あと三年は余裕でかかるかと」


「え!?そんなに?」


「それほど難易度が高いんですよ、油羅様」


転移ができるようになるための道は遠いみたいです。


─────────────────────────


神社の境内に入ると、油津さんが神社から出てきた。既に帰ってきていたみたいだ。


「油津様、ただいま戻りました」


「おかえり、セン、油羅ちゃん、どうだった?」


「偶々来たから頑張りました!」


今回摂社に赴いたのは信仰を深めさせるため。人間たちに神としての姿を目に焼き付けて貰うことだった。偶々彼女らが来ていたため、神力を使い、さらに自己紹介も行った。

結界系のものは特に練習していたのでその甲斐があった。


「油羅様も神力を使うのが上手になってきています、初対面の人との会話はまだまだですけど」


「それは改善した方が……いや、私たちにだけ懐いていると考えれば……」


「……」


「セン、どうしてそんな呆れた顔をしているの?」


「何でもありませんよ?」




神社に入り、僕たちの居住スペースの方向に向かっていく。

歩きながら話していると、御供え品の話題になった。


「お供え品って僕たちにどんな影響を与えるの?」


「んー、神力の補填と、私たちにとっての()()かしら?」


「食事?お供え品…?」


「動物という範疇を逸脱している私たちにとって食事は必要ないじゃない?」


「うん」


そういえば、象徴昇華をしてから食事をしていない。食事をするという考え自体が無くなっていたことに少し怖くなった。

 

「なんなら普通の食品では味を感じることがほぼ無いの」


「え?」


「私たちにとって味を感じる食品は、感情が籠もっている物だけ」


御供え品の話と(いえど)も、僕たち狐に対する御供え品に限った話だった。


油津さんへの御供え品であり、食品だとしたら、あれしかないよね。


「その御供え品ってもしかしなくても油揚げ?」


「正解!」


「今日は食べる予定なんですよね?」


「楽しみに待っててね」


「……」



油揚げ単体でいただく訳じゃないよな?



────────────────────────


油津さんとセンさんは油揚げを用意してくると言って何時使うのか、いまいちわからなかった調理場に向かっていった。よかった、ちゃんと調理をして出してくれるみたいだ。


少し待っていると、調理場から油津さんが出てきた。


「油羅ちゃん、油羅ちゃんを信仰している人間はどんな人なの?」


「へ?……んー、逆に油津さんの方はどんな人なの?」


どんな人なのか、か。良い人なのは間違いないと思うけど、もみくちゃにされそうなことは危惧してる。ある意味純粋な子でもあるのかな。まだよくわからないから油津さんの場合はどうなのか知りたい。


「私?私は……まぁ良くも悪くも知名度があるから、悪い奴もいるわね。神主さんとかは本当に優しい人だわ。人間らしくもあるけど根が本当に良い人って感じね。」


「人間らしいって?」


「感情的になってちょっと悪いことをしちゃう。みたいなところかしら?私は人間だったことも無いから人間らしさが一体なんなのかニュアンス程度でしか理解してないけど。」


「へぇ、油津()()()()()も感情的になって過保護になるんじゃない?」


「!?」


「ゆ、油羅ちゃん…はぁ、はぁ、ずるいわ、それは」


「油羅ちゃんが、自然に、私のことを、お姉ちゃんって……はぁ、やばぁい、好き」


「え……」


毎回過保護にされて少し迷惑してるので仕返しとして刺激してみたらすごい反応してきたんだけど……。


「お姉ちゃん呼びってそんな魅力的なの?」


「はぅぅ……」


うわぁ……



「油津様、油羅様、用意ができました。……って何ですかこの状況は。油羅様、何をなさったのです?」


「僕が悪いの!?」


「油津様をここまでの状態にすることができるのは油羅様だけです。」


えぇ……


◇◇◇


センさんが油揚げばかり入っている味噌汁を人数分持ってきてくれた。

木のテーブルと木の椅子はこの神社の景観に似合っていて、味噌汁の香りを感じていると、ノスタルジックな気分になる。


「油津さんは落ち着いてきた…?」


「えぇ、反則ですわあんなの。」


油津さんが相当悶えていたせいで味噌汁を食べるのが遅くなった。

 

「もう食べてもいい?」


「油羅ちゃんごめんね、待たせちゃって」


早く食べたい。

だってめっちゃいい匂いなんだもん。


「それでは食べましょうか、油羅様も待ち切れないようなので」


「「「いただきます」」」


久しぶりに「いただきます」という言葉を使った気がする。食事が必要無かったから仕方ないか。


久しぶりに味噌汁を飲む。

今のこの身体の影響なのか、味噌汁の味というより、作り的の感情を味として受け取った。

味噌汁自体の温かさとは違う、暖かさを感じた。優しく包み込むような、まるで抱擁を交わしたかのような感覚を覚えた。


油津さんの方を見ると、油揚げを食べて舌鼓を打っている。それはセンさんも同じだ。

センさんの顔が綻ぶの、あまり見ないかも。


それを見て、自分も食べてみた。


「!?!?」


なにこれ……!?


「…………???」


美味しすぎる。


可笑しいな、ただの油揚げの筈なのに。

どうしてこんなに美味しいの?


「狐の大好物が油揚げだと信じられてるからね、そういう味覚になってるの」


「そういうことか……」


味噌汁は一瞬で無くなった。

油揚げをどれくらい美味しく感じたかは表すことが出来ないのでそれが少し残念。

強いて言うなら、この世のものとは思えない程の美味で、これだけしか食べなくても一生飽きることなど無いと感じる程美味しく感じた。


「油羅ちゃん……私も最初こうだったかしら?でもセンは同じ感じだったわよね」


「ゆ、油津様?私が今の油羅様の様に?」


「そうそう、美味しすぎて泣いちゃってたわよ、懐かしいわね」


「え?僕今泣いて…?」


確認するまでもなくそれを認識してから、今自分が泣いていることが理解できた。

うそ、美味しすぎて泣くなんてことありえないと思ってた。


これのためなら辛いことがあっても神様としてやっていけるかもしれない。


「油羅ちゃん、どれくらい美味しかった?」


「ど、どれくらい??んー、難しいなぁ。食感は今まで食べたことのある油揚げと同じなんだけど、優しい味がする味噌汁が沁み込んでそれだけでもすごく美味しいのに、油揚げが噛んだ瞬間に、ふわって広がって口の中全体に暖かい気持ちが流れ込んでくるようで励まされてるかのような感覚があってそれが食べるごとに増えていってそれが全て美味しさに繋がっていて…」


「ゆ、油羅ちゃん??ちょ、ちょっと落ち着いて?」


「あっ……」


つい、話しすぎてしまった。油揚げ……恐るべし。

2023も終わりですね

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