神としての仕事
今回はちょっと長くて3000字くらいです。
油津は今、御供え品の前にいる。
「油羅ちゃんもこれの素晴らしさを知ることになるでしょうね」
「有難く頂戴するわ」
油津は神力で殆どの御供え品を自身の持つ神社に転送する。
御供え品の量や参拝の回数など関係なく、信仰してくれる者には平等に加護を与える。それが油津のやり方だ。
油津曰く、御供え品には当人の感情が乗るものである。
全く信仰心が無い人の御供え品は、最早御供え品とは言えないらしい。
「こんな下心しか籠ってない物、これを御供え品として送ってきてるのが腹立たしいわ」
油津を礼賛する者は多くいる。その分、それに付随して来る愚者も居る。
この愚か者が油津は大嫌いだ。
「信じてくれる人、優しい人にくっついてその人から力を奪ってる。屑供の意識の所為で境内が汚れてる。」
「お呪いをしてあげる」
屑と呼ばれた者が持ってきた御供え品は灰になる。
神社には悪感情を持つ者に痛みを与える破邪系の結界が張られる。
御供え品に籠った感情を辿って、屑には呪いを、信者には御加護を。
油津の仕事はこれで終わり。
「さて、ちょっと仕事が多かったけどこれで終わりね」
そう言うと油津は転移を扱い、自身の神社に帰った。
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油羅とセンは転移で摂社の近くまで来た。
「油羅様、ここから先は油羅様御自身のみでの力で行ってください」
「え?センさんは来ないの?」
「私は、ただの従者ですし、油羅様を崇める方たちの邪魔は絶対にしたくありません」
セン自身も崇められ、信仰され、神力を得ている者である。万が一にでも油羅の関係者だと思われ、信仰心が分散し、センにも神力が送られるのであれば、それは横取り行為になってしまう。
「そうなんだ、じゃあ終わったらそっちの方に戻るね」
「はい、お待ちしております」
油羅はセンに暫しの別れを告げたあと、上機嫌で摂社に向かっていく。
油羅にとっては久しぶりの1人の時間である。
「なんか、自由って感じだぁ」
如何にも普通な表現ではあるが、その自由が今の油羅の身には感慨深く思われたらしい。
「こうやって、誰にも連れられないで森を歩き回る。なかなか無い機会かも」
そこで油羅は、今なら思う儘に色んな場所に赴いても良いのではないかと考えた。
しかし、今の自分にやるべきことがあることを思い出して目的地に向かって歩き始めた。
そうして歩くこと油羅の足で5分程。
「漸く着いた」
「僕の視力でギリギリ見えたくらいのところから歩いてきたけど、結構時間掛かったなー」
摂社を前にして、また懐かしいようなあの温かい空気を感じる。
「今なら分かるけど、これ、ここに元々居たはずの神様の神力だ……」
神様として殆どの人に認識されなくなると、その神様は神として存在することが出来ない。
油羅は誰にも認知されない寂しさを想像し、それがあまりにも悲しいことであることを彼女なりに理解した。
「……今は僕のやることに集中しよう」
そうして摂社の前の小さな階段に足を踏み入れた時、後ろから姦しい声が聞こえる。
「あれ!?もしかしてあそこに居るのって!?」
「前に見つけた神様じゃない!?」
「え?どこどこ?……??あ、もしかしてあれ?」
「だから神様なんて居るわけ……いや、待て、あそこにいる耳と尻尾を携えている少女は誰だ……????理解が追いつかない、いや、あぁそうかコスプレか、いや、あの動きは紛れもなく…??……?……?????」
「あれー?壊れちゃった?」
油羅が見つけたのは以前来ていた三人と、その友達らしき二人。
知的そうで、さらにキリッとした雰囲気で、ロングヘアーを持った女子高校生と、如何にも難しいことは苦手そうな見た目中学生だが、高校の制服を着ている感じ、高校生なのだろう少女。
「はえー、これはまた個性が強そうな人間だなぁ……」
彼女らに油羅はそんな印象を覚えつつ、止めていた足を再び動かし、摂社の中に入ろうとする。
その時、すぐ後ろから声が聞こえた。
「ねぇねぇ!そこの狐様」
「わぁぁ!」
さっきまで離れていたのに何時の間にか近くに来ていたことに油羅は驚き、少し声をあげてしまう。
少しばかりの喫驚により、階段上で蹌踉けるが、すぐに体勢を整える。
見えたのは彼女らの中でも一番小さい、小学生らしい少女。
油羅よりも明らかに、センよりも少し身長が高い少女だった。
油羅は、小学生よりも身長がだいぶ小さくなっているという事実に、すこし複雑な気持ちになる。
「うわぁ、かわいい!え!?ちょっと待って。お姉ちゃん!この子めっちゃ顔綺麗だよ!」
「ちょっと小春、その子は神様?お稲荷様?なんだからそんな馴れ馴れしくしちゃダメじゃないの?」
「えー?」
そんなやりとりをしながら、小春と呼ばれた少女は油羅から離れるように言われて渋々離れる。
油羅は、このままここにいても、身の危険がある気がしたのか、狐としての脚力で摂社の屋根に飛び移る。
「!?!?!?!?!?!?」
「……なるほど、これが神様なのではないかと感じる理由か」
油羅が摂社に飛び乗ったところ、驚愕でなにも言えなくなった者と、冷静に分析する者がいた。
一方油羅は、摂社の寂れ具合に悲しくなり、このままでは撤去されてしまうと感じた。
「油津さんが神力の使い方をちょっとだけ教えてくれたから、できるはず」
体の中にある形容し難い何かを手の先まで送る。そうしたらイメージを膨らませる。この摂社の綺麗な姿を。
古くなって蔦が絡まり、石の部分には苔がむすほどに。それほどまで長い時間放置されてきたのだ。
ただ、その長い時間で生まれた新たな趣は残しつつ、摂社自体は綺麗にする。
「思ったより、きつ、い」
油羅の手からは小さな光が発現する。摂社全体のイメージがだいぶ固まって来たようだ。
「え、何やってるの?」
「なんか手の先が光ってる」
「へーわーすごいなーこんなことができるんだー」
「信じられないが……これは現実か。おい、思考を放棄するな」
「狐ちゃん何やってるのー?」
油羅の手から出された小さな光は、複数に分裂していき、摂社全体を囲み始めた。一気に光が強くなったかと思えば、その摂社は先ほどの古びた姿ではなく、見違えるほど綺麗な姿となる。
摂社という小さなものであるのに、存在感は神社の様になっている。
「ふう、疲れた。絶対あの人間たちには舐められてたよね、これで実力を見せれたかな?ちょっと足が速いとかそんなんじゃないよってこと」
暫くの間、静寂がその空間を包んだ。
「お、お狐様、だ。すごい、すごいや。本当に神様なんだ。」
「かわいい神様なんだなー」
「お前、思考を放棄しているな?」
「狐ちゃんはすごいんだね!」
「小春、なんでそんな平然としていられるの?」
それぞれ様々なリアクションを見せる。それを見て油羅は、少し微笑んだ。
穏やかな空気が流れる。
「あ、あの、えっと……僕……」
その中で摂社の上から油羅は話し始める。
彼女らはそんな油羅の声に反応し、油羅を見る。
「見ての通り、き、狐なんだけど、あそこの神社で祀られてる狐の妹なんだ」
「えっと、それで、えっと、よろしく……?」
簡単な自己紹介。
それだけでも油羅には難易度が高い。油羅ができる、精一杯の自己紹介を披露した。
「うん!よろしくね!」
小学生の少女が誰よりも早く返事を返す。
それに続き、他の者も返事をする。
油羅は、その少女たちが困惑しつつも、暖かく受け入れてくれたことに嬉しくなり、少し目を細めて、口角をこれまた少し上げる。
「ありがと」
油羅はそう言って、屋根の上から遠くの木の元までひとっ飛びで行く。1回振り返って、手を軽く振ると、また一瞬でその場から消え去った。
一方少女らは、買ってきていた物の事を完全に忘却していたことに気がつき、少し困った表情を浮かべるが、すぐに摂社の前に置いた。
二礼二拍手一礼
彼女らはそれをしてから帰路に着いた。賑やかに、油羅のことを話しながら歩いていた。




