狐
前作は設定が行方不明になってたりしたので辞めました。
不定期だと思いますが今後とも活動していきたいです!
彼の名前は佐藤油羅 しがない中学3年生だ。
高校は普通の高校に行き、特に目標を作らず、自分のしたいことをしたいようにするつもりだった。
授業の時間が過ぎて行き、太陽は登り、お腹もすくそんな頃、さっさと食事を済ませてしまった後、彼は超絶眠かったのでそのまま机に突っ伏して寝る事にした。
彼の周囲には人だかりが出来ていた。周りの音の大きさに眠っていた彼は徐々に目を覚ます。
目を擦りながら辺りを見渡す。確認できるだけで相当数の人間がこちらを奇異の目や心配の目で彼を見ている。
何事かと困惑しつつ、周りの声を拾おうとする。聞こえたのは、背後からの明るい男の声だった。
「こんなことって実際あるのかよ?」
「いや、実際に変わる瞬間を見ちまったから……凄かったんだぞ?一瞬光ったかと思ったら段々とあの姿になっていったんだから」
それを聞いた油羅は、驚いて自身の身体を確認する。そういえば先程から見えいていた髪の毛、元々自分はこんな髪色じゃない。こんなにも白くない。こんなにも長くない。
油羅は他にも様々な変化に気づいた。服が巫女服になっていたり、座っているときに自身の足が地面についていなかったり、あれが無くなってたり、あれがあったり。
周囲からは、気づいたみたいだ、という旨の発言が目立つ。
ここまで¨彼女¨は、声を押し殺して無言を貫いた。それは周囲の視線があったからだ。
急に起きた自分の変化にこの世の終わりかのような焦燥感に駆られ、彼女は頭を抱えた。その時……
「耳っ!?」
流石に耐えられずに驚きの声をあげる油羅は、自身の声にも驚き、二重で驚かされる事になった。
自身の声は自然なソプラノであり、その容姿によく似合う声だった。彼女にはその容姿がまだ首から下しかわからなかったが。
彼女の頭の上には動物の耳が生えていた。自身の意思で動かせる大きな耳がそこにはあった。
人間の耳がある位置には耳が綺麗さっぱり消えていた。
「尻尾……」
耳があるのなら尻尾もあるだろうと体の後ろの方に手を回した結果、当然のようにあった。これもまた自身の意思で動かせる大きな尻尾だった。触り心地はまぁ自分の体を触っている感覚があるせいであまり良いとは思えないがふわふわしていた。狐の尻尾のようだった。
周囲の雑踏からは尻尾を触りたくて限界化している者がいたり、当たり前だがどう扱えばいいのかと思案している者がいたり、勿論気持ち悪いことを考えている論外のクズも混じっていたり、彼女の大きな耳はそれらを確実に聞いていた。
周囲からの視線もいい加減耐えられなくなった彼女は、必死に考えてこの状況をどうにか打破する策を探した。
真剣な面持ちで俯いている彼女を見て、周囲もどうしたのかと不安になりつつも思い思いの解釈をしていた。
意を決したかのように彼女は大きな耳をピンと立て、周りを見渡す。
「あの……ここから離れたいので退いてもらえませんか?」
一瞬沈黙を挟んだ後、困惑したような反応をしながら素直に皆従ってくれた。
彼女は一目散に教室を出て階段を降りた。3年生の教室は3階にあるのでそこから3階分の階段を急いで降りていく。
後から、呆然と立ち尽くしていた筈のクラスメイトの一部が、「今のあいつを一人にはしておけん!」等と言って追いかけ始めたのが聴こえて、油羅は全速力で階段を降りる羽目になった。
途中階段付近にいた生徒が二度見してきたりと注目を浴びながらも、とにかく階段を降りた。
1階までは割とスムーズに行けたが、階段から下駄箱までのところで転んでしまった。
尻尾の重さでバランスが取りづらくなっていたことに今更気づいたようだ。
すぐ立ち上がり、巫女服に付いた埃を払ってからまた走り出す。
靴の大きさは……だいぶ違うがそんなこと考えても意味ないのでとりあえず靴を履いて外に出た。
落ち着くために木陰で座り込み、木を背もたれにする。
「はぁ、はぁ、はぁ、一回休憩しよ」
元々体力が無い上、体が小さくなったことで一歩で進む距離も減ったことでいつもよりたくさん動いたのだろう。彼女にとっては相当過酷だった。
休憩しつつ、自分の尻尾を触る。なんやかんやで落ち着くみたいで、彼女は尻尾を抱いた。尻尾の中の方まで触ると何かゾワゾワする感覚が伝わりビクッとした。油羅はこのとき絶対に他人に尻尾が触られないようにしようと決心した。
ただ、傍から見ればそれは尻尾を抱く動物の耳を持つ美少女がいるという、凄まじく可愛らしい光景に見えるだろう。
「そういえばあいつ、一瞬光った後に段々とこの姿になっていったとか言ってたなぁ」
起きた後に聞こえたとっても貴重な会話を思い出し、反芻していると、彼女の目の前に突然狐が現れた。
するとその狐は¨言葉¨を発した。
「そこら辺の話は僕からするよ」
「え!?誰??」
「ごめんね、驚いたよね」
目の前に急に現れた狐は人間の言葉を発した。少年のような声で丁寧な口調を使い、彼女に話しかけてくる。
「まず自己紹介をしたいところだけど、もうすぐ人間たちが来ちゃうね、こっち来て!」
「……はぁ……?」
彼女がこの容姿になった原因を知ってるような口ぶりだったので、当然本人は色々聞きたいことがあった。なので仕方なく、といった様子で付いていっている。いきなり現れた者をすぐに信用などできるわけがない。
「こっちこっち!」
狐に付いていくと、裏門に出た。そこから狐は軽々しく門を飛び越えてこっちに来るように促してくる。
「ん?無理だよ?」
「よじ登ってもいいから」
「……学校を抜け出すのは気が引けるけど……」
「ここにいても面倒事ばかりでしょ?ここでその姿じゃ」
狐の言うことは最もだった。
このまま学校に留まっていれば、クラスメイトにはいろいろ弄ばれたり大人達からは研究対象にされたりするかもしれない。親にも説明しづらい。あまり進んでやろうと思えないものが起きそうだ。
今の彼女にとっては気持ち悪い目で見られたことと尻尾を触られたくないというのが一番の決断の要因だったようだが。
「もうちょっと休んでいたかったけど仕方ない!」
「んりゃあ!」
足に力を加え、走り出し、跳躍する。そのとき、体の中の波のようなものが足に流れたような気がした。
すると何故か、とても大きなジャンプになり、容易く門を通り越した。
「……え?」
狐はさも当然のことのように澄ました顔をしていた。彼女なら出来ることがわかっていたのだろう。
「行くよ!」
そう狐が言うと辺りに光が漂い始める。その光が集まり彼女らを包み込むと一瞬にして消えた。
「ん……?」
油羅は、強い光が無くなったことを感じ取り、目を開ける。
目の前に広がっていたのは森の奥地らしい風貌の場所。その場所にひっそりと神社が建てられており、立派な鳥居もあれば神秘的な祠もあった。
「ふぅ、ここでなら落ち着けるね」
「いや、あの、テレポート……した?え?」
「その辺のことも説明するよ、いやされると思うよ」
「えっと、そうだなぁ……もうここに来ちゃった訳だし、引き渡しちゃって……」
「え?あ、あの……」
油羅は本来、重度の人見知りであり、知らない人に付いていくなんて以ての外であった。
なのにここまで付いてきたのは、目の前の狐が、自分の今の体による社会的危機に対する解決策を知っていそうなこと。相手が人間の言葉を使うが狐であること。わりとパニック状態だったこと。などが挙げられる。
「なにー?」
「あの、僕……えっと……どういう状況なの?」
「もう、せっかちだなぁ、しょうがない、簡単に言うよ、僕の主人が君をその姿に変えたの。僕”たち”を使ってね。君を連れてくるために転移装置を置いてってもくれたし。すっごく君のことに興味があるみたいだよ。ま、詳しい話はあそこに見える神社に行けば主人がいるから教えてくれるんじゃない?」
「まぁ、神社って言ってもここはものすんごくラフなとこだから、最低限のモラルを守ってれば普通の家と同じように思えばいいよ」
そういうと狐は神社の方に走っていってしまった。
ここがどこなのかもわからないような状況で1人残されてもできることは何も無い。できればもうちょっと狐に居てほしかったのを感じずにはいられなかった。
「……神社に行くか……」
油羅は独り言を呟いてから動き始める。もう尻尾や耳が生えたことによる重心の変化にも適応してきた。
フリフリと揺れる尻尾に、引き寄せられるように一匹の猫の動物霊が彼女に近づく。
「あれ?こんなところに猫?」
この動物霊はあの狐のように言葉は発せられないが、感情が豊かなのか、色んな表情を見せてくれた。
「あの子に似てる…?」
彼女の言葉に猫は微笑むような安堵したような顔を見せた。
彼女が神社の方に向かうと後ろから揺れる尻尾を興味深そうに見ていた。
どこか人間味があり、おかしな感じな猫に不思議そうな顔をする油羅だったが、考えても仕方がないと判断したようで、神社に足を運ぶ。
「……神秘的な雰囲気を感じる……」
油羅は鳥居の前まで来た。神社に近づくと、彼女は違和感に気づく。外から見たより圧倒的に雰囲気が違ったからだ。
ポツンとある古の家のように見えたのが、厳かな存在感のあるものに変貌したのだ。
それに、遠くから見たより明らかに神社の規模が違う。遠くから見た景色は妖だったのだろうか。
参拝客が全く来ない場所にあるはずの神社には、何故か人影を感じた。




