表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

第5話 思惑まみれの親睦会

 拉致監禁から始まった宴会であるが……その内容は単なる懇親会だった。

 話題も学校の授業のことや私生活のことなど、たわいのない内容でありどれの有益なものとは言いがたい。

 まぁ、彼女らからすれば学生という共通の仮想空間・時間を愉しんでいるのだろう。


 ――そう言えば、バーナードやナナバそしてキユと共にいつぞやのどこぞの星の下でこんなしょうもない事をしたっけな。

 その時はフェルナンデスの護衛をしていたころだったか。

 今となれば良い思い出……だったのかもしれん。


 あの時の俺達同様、仲間うちで楽しく語り合っていただけなの話だ。

 まあ、一時の馴れ合いを愉しんでくれ。

 どうせ異世界に戻ればそれぞれの立場に戻らなければならないのだから。



 さて、そんな感傷にひたっていると、ふと疑念が生じた。

 ――それは何でこいつらは異世界に留学してきたのだろう。



 まさにそれだ。

 こいつはらはまさかこう言う生活がしたかったから留学したのか?

 ここで少しお浚いしておこう。


 まずはこの俺だ。

 俺は元々この世界の住人で、神池家の跡取り息子として生を受け育てられた。

 その当時は今とは違い、大人しく平和主義者であり比較的温厚……の性格だったと思う。

 だから格闘術は最も嫌いな実技だった。当然――格下の相手に負けていたこともあった。

 そんなことが続くと彼らから『ゆくゆくは神池家の当主となられるボンがこんなに弱いとは』と嘆かれる結果となった。

 そう思われた方がよかった――のに、その当時当主だった祖母のみふねが「今後の経験を積ませる為にも異世界に留学させてはどうだろうか」と提案され、最終的に異世界送りにされた。

 


 そこから俺の人生は正に地獄だった。



 色んなことをした……あらゆることをした。

 今、ここでその話しても理解しにくいだろうから省略するが、最終的には俺があの世界の統治者となった。

 そんな統治生活にも一段落がつき、ゆっくりと考える時間が増えてきた。


 俺はこの世界を一つに纏めた――と都合のいいように言っているが、実際には暴力によりその対象者の命を奪って周囲に恐怖を与えただけに過ぎない殺戮者である。

 それについてはどこかでケジメを付けなければいけない。


 そんなことを考えていた矢先だった。

 誰かがこの俺に術式を掛けてきた。

 その術式はうちらの世界では使われないような非効率の上、誤りだらけの醜い術式だったが、解析すると対象者をいずれかへ召喚させる術式であった。

 ツッコミどころ満載の術であるが、これは俺個人を特定して召喚する術式だったので、これは元の世界の連中が俺を呼び戻すためのものということがわかった。


 だから俺はケジメの一つとしてこの世界に戻ってきた。


 もっとも用が済めば向こうの世界に戻るつもりなので、俺もそう言う意味では彼女ら同様に『留学生』なのだろう。



 そして詩菜。

 彼女は向こうの世界の住人で白き聖城の帝国(通称白帝)の旧王族であった。

 彼女らはクーデターでその地位を追われ、この世界に難民としてこの地に身を寄せた一人だ。

 もっともクーデター起こした連中は既に反乱罪として粛清したので、もう彼女らが向こうの世界に戻っても迫害をうけることはない。

 それにもかかわらず詩菜は弟である拓也の進学を望んでおり直ちに帰国する意思はないようだ。



 仁美にあっては緑の杜人出身者である。

 彼らは例のクーデターサイドに組みした民族であり、戦争犯罪の件がまだ完全に許されてはいない。

 なので、本来ならば彼女の異世界留学自体認められるハズがないのだが、普通に考えれば詩菜同様に難民としてこっちに避難したと考えた方が妥当だ。

 彼女を向こうの法律に基づいて処罰しようと思えばいくらでも出来る。

 だが、たかが避難民を突いたところで、それに見合う凶悪性は皆無だろう。

 ナナバに無駄な仕事をさせるのも悪いので、彼女についてはあえて放置することにした。



 次にあずきだ。

 こいつは俺が幼少期からうちの家に出入りしていた人間だ。

 ただ弟子や信者側にいた訳ではなく、常に父親と帯同していたわけで、そうなると父親側の人間ということだろう。

 俺の父親は神池家の娘婿ということになっているが、その正体は白帝旧王国の皇太子である。

 彼の場合はこの世界に外遊中、クーデターにより向こうの世界に帰れなくなった様だ。

 なお問題については既に解決済みであるので戻ろうと思えばいつでも戻れるのだが、様子見をしているのかすぐには戻るつもりはないようだ。

 その父親とあずきの関係から察するに彼女の場合も旧王国出身者で、父親の傍仕えをしていたのではないかと思われる。

 その彼女であるがこの世界では特にすることがなく、ヒマさえあれば俺に稽古をつけたがっていた。

 そういう形にしなければ彼女自身の存在感を見出せなかったのだろう。

 ただ、あれは弱いくせにムキになって掛かってくるから非常に面倒だった。

 月日が流れてた今でも面倒な奴であることには変わりない。



 そして、今この場にいない真成寺香奈子。

 あいつは向こうの住人ではなく、こちらの世界の住人で俺の元幼馴染みである。

 そして俺を裏切り、俺を異世界送りにした張本人でもある。

 彼女はズルい大人達に唆され、未熟な法術崩れで俺をとんでもない場所に飛ばした。

 もちろんその当時の彼女はまだ小学生で俺の家の事情なんか関わるわけがない。


 ――だから彼女は悪くはない。


 だが彼女の行為が結果的に俺を殺人鬼に変えた。

 その結果、平和と引き換えに大量の血が流れた訳である。

 それに俺は相手を討伐する際


 「恨むなら魔皇をこの世界に送り込んだ張本人、大魔導士真成寺香奈子も忘れるな」


と常套句として用いていたこともあり、実際向こうの世界の住民は彼女のことを快くは思われてはいない。

 それくらい罪を肩代わりさせてもいいだろう……



 ――さて問題は倉橋サクラである。



こいつはブラッケンクラウス公国出身者……ということはわかっている。

 その国家は『白帝』やそれを占領している我が『バルバザック市国及びブルースター連邦』、そして犯罪国家と成り果てた『緑の杜人』とは異なる第三勢力である。

 彼女の国は人民の貧富の差はあるものの、絶対君主制であり治安も良い。それに先の戦争には加担しておらず、比較的安定した国家である。

 以前京都でサクラの祖父だと名乗る屈強の戦士と顔を合わせたことがある。

 それを踏まえると彼女の出身は比較的裕福な名家……以上と考えられる。

 もっとも彼女は他の異世界人から弄られているような感じである。

 その点から、どこかの裕福な名家かどこかの下っ端貴族の人間だろうと推定できる。


 ――つまりは完全な確証がない、肝心なところで情報がぼやけているのが彼女だ。

 彼女を安易に信用するのは危険だ。


 まあ、こんなところだ。

 とりあえず、高校ガールズトークをしている彼女は普通の女子高生と見ておけばいいだろう。どうせ何かを仕掛けるとするな必ず大人がいるハズなのだから。

 もしその中で動きに気を付けるとするならば、あずきと香奈子くらいだろうか。



 話は変わる。



 懇親会が終盤を迎えた頃、サクラが俺にこう切り出してきた。


 「あのさーっ、騙す感じがしてヤダから前もって言っておくよ」


 サクラの話で皆辺りを見回しコクリと頷く。

 どうやら他の連中も同じ考えのようだ。


 「キミは一般試験を受けていると思うが……多分、特殊科の実技試験も受けさせられると思うよ。それはボクらの意図するするものではない」


 なるほど。知ってはいる……がそこに自分らは関わらないということか。

 裏を返せば黙認しているということだ。


 「人に受験を頼むだけ頼んでおいて無責任な話だな。そこで俺が辞退もしくは手を抜くことを想定はしているとは思うが、そうなるとどうなる?」


 「多分、キミの家の者が嗾けてくるとは思うけど……まぁ、全力で挑んだ方がいいと思うよ。最悪の場合はボクらが止めに入る――と言いつつも、正直ボクもキミの実力を知りたい。だからキミが死なない程度は様子を見させてもらおう」


 「つまりは全力でヤレと」


 俺は俺の素性を知る詩菜に視線を送りながら確認する。

 詩菜は「試験って全力を出すべきだと思うの」と若干引きつった笑みでそっぽを向いた。

 尤も、今の彼女が出来る誤魔化し方としてはコレで限界だったのかもしれない。

 この状況下で詩菜に『手加減しようよ』と言われた日にはサクラが変な勘ぐりをいれてくることこの上なしである。



 なら、そうするとするか。



 ――それから受験後二日目。

 案の定、俺は誘い出しを受け土御門高校の魔術闘技場にいた。

 本来ならば昨日一条高学科一般コース試験を終えた俺は合否判定待ちのハズであるが、何故か受験項目の不備があったとのことで姉妹校の土御門高校に呼び出しを受けた。

 母親は事前に知らされていた様で『何が不備だったのか』すら確認することなく俺に素直に再試験を受けるよう言ってきたところから察するに、彼女もグルなのだろう。


 だから、この場所に行くのに家の金を使ってハイヤーで行ってやった。


 当然、家の者から顰蹙を買うわけだ。

 今回はそれが目的である。

 ただ、実力判定だけさせるなんてつまらないからな。

 だったら煽るだけ煽って、挑発に乗った相手がどう仕掛けてくるかを見極めようと思う。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ