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第14話 どっちも想定外なんだが?!

 そんな中、頭上から2枚の紙切れがゆらゆらとキユの手元に落ちてきた。

 それを手にするキユ。


 「……何だコレ?」


 キユがそのうちの1枚を広げ内容を確認する。

 彼女はそれを目を通すや否やその場でワナワナと震えだした。

 百戦錬磨のブルースターの豪傑と謳われた彼女が明らかに動揺している。

 余程の予想外が発生したのか?


 「どうした?」


 俺がキユが持っているもう一つの手紙を取り上げると、キユは「あははははっ……ナナバの奴とんでもない判断しやがったぞ」と引きつった表情ながらも何とか冷静を保とうとしている。

 俺は厭な予感を覚えながら恐る恐る内容を確認した。

 書面にはこ記されていた。


 『婚姻承認』という文字である。

 しかもナナバの直筆で記されていたのだ。



 「…………………………はぁ?!」 


 

 その下にはこう続く。



  婚姻おめでとうございます。

  サクラ=クラハッシュ=ブラッケンクラウス ブラッケンクラウス公女殿下並びに神池龍一朗殿

  白き聖城の帝国の司法長官が婚姻を承認し、夫婦であることを証言します。

  白き聖城の帝国 司法長官 ナナバ=クリファー



 ……こ、これはどう解釈したらいいのだろうか。

 まずは俺のサクラの婚姻を歓迎している様だが……ナナバの奴何を考えている?

 俺がこいつと結婚することで国策としてメリットを感じたのか?


 さらに問題なのはこのバカ、『サクラ』の存在である。

 倉橋サクラ、その名はこちら側にあわせた呼称であり正式な氏名ではないハズだ。

 それに異世界から留学ともなれば、どこぞの富豪か貴族あたりと察しはついていた。

 ……まぁ、彼女の部屋でシュールストレミング入りの闇鍋パーティを催されるくらいだから、あまり位の高くない人物なのだろうとは思っていたが……

 念のためナナバに素性を探らせていたのだが、まさか今になってそれが明らかになろうとは思わなかった。まさかこの馬鹿がブラッケンクラウス公女殿下とは思わなかった。


 「お、おまえ……」


 「おや、アタシの肩書きを見て驚いたのかい?」


 肩書きを隠していたのは同じだ。だから驚かない。寧ろ――


 「公女なのに皆の扱いが酷いことに驚いている」


 「そっちかよ……一応、僕の身分は極秘留学だからね。ある程度そう思わせない様に仕向ける必要があるんだけど……まぁ、あれはあれでいいんじゃないか」


 『まぁ』というくらいなのだからそのことについては意図していないということか。

 それなら何でナナバの奴を説得できたんだ?

 彼女にそれについて尋ねると、「特に何もしていないよ、名前だってこっちの名前『倉橋サクラ』とは書いただけなのだが……」とのことだった。

 そしてサクラの奴、何かを言いかけたのだが……額にはうっすら汗を滲ませている。


 ――ふむ。


 やはりナナバは倉橋サクラという人物がブラッケンクラウス公女であることを知っていて、その上で俺と結婚させようと考えていたということになる……でいいのかな。


 一応、白き聖城の帝国等を含めた我が市国連合と公国は敵対しているわけではないものの、先のクーデター以降はお互いに友好的ではない。

 むしろ相手からすれば、旧共和国を消滅させた勢いに乗ってさらなる侵攻を進めるのではないかと懐疑的な見方をしているハズだ。


 そこでナナバの示した融和対策を取れば、我らの子が双方の国を相続するわけで争う理由もなくなるし、衝突後に発生する余計な復興予算を費やさないですむだろう。


 でもなぁ……


 俺は咄嗟にサクラの顔を見る。

 この女、ロクな事しないんだよなぁ。

 退屈はしないだろうけど、何か地雷原の中散歩させられている気分だ。

 俺が慎重に事をすすめたところで、このバカは何も考えず駆け回るんだろうけど……

 そんなことを考えていると、サクラが少しむくれながら俺の頬を指で突いてきた。

 

 「――何かキミ、アタシに対して失礼なこと考えていない?」  


 勘だけはいいんだよなぁ。


 「ところでおまえ公女殿下なのに公王に事前報告無しに婚姻しちゃって良かったのか?」


 俺の問いにサクラは顔色を青ざめその場に凍り付いた。


 「やっぱりマズかったんだろ? どうせおまえのことだ、この世界の名前でパートナー申請をしても、向こうの世界では正式な名前があるから公国に戻っても影響がないと踏んで申請したんだろ? まさかうちの司法長官に看破されるとは思ってもみなかった……って面しているからな」


 俺のツッコミにサクラはクソデカため息を吐くと「そうだよっ、悪かったね。もうこの話は終わり!」と半ば自棄気味に話を打ち切った。

見た目からしても図星の様だ。


 ――さて、このバカは放っておいて。


 今後どうするか。

 それなら一度本国に戻って今後の事について話し合うとしよう。

 俺はキユとバーナードにその話をしようと彼らに目を移すと……


 バーナードは完全にフリーズしている。その脇でキユが必死に「大丈夫だ。あたしが守るから! なっ!」と彼を宥めている状況だ。

 そんなに心配することなのか?


 「おい、これはナナバが決めたことだぞ。おまえがぶっ飛ばされることはないと思うよ」


 俺はバーナードに声を掛けるが、横にいたキユが「あんた何にもわかっちゃいねえ!」とが少しキレ気味に吐き捨てた。

 そしてその声に放心状態のバーナード反応して、この世の断末魔を叫びをあげ血圧がマックスに達したのかその場でぶっ倒れた。

 

 「おい、バーナードしっかりしろ! あたしが守るから!」


 ……うん、理由はわからんが、しばらくは彼らに声を掛けない方がいいだろう。


 俺は再びサクラの方に視線を戻す。

 彼女も「まさかこうなるとは……」とまた頭を抱えていた。


 「おまえさん、ここで頭を抱えている暇はないぞ。一度、本国に戻って父君に相談した方がいいのでは?」


 「……やっぱり、それしかない?」


 「そうだな。こうなっては婚約破棄に向けた話し合いを進めるしかないだろうから」


 「いや、そこまでしなくてもいいけど……このタイミングで父上に話したくないなぁって思って」


 「しかたあるまい。『策に溺れるとは実に情けない』って叱られてこい」


 「くっそお……間違えなく父上にそう言って雷落とされるよぉ……」


 そう言ってサクラはとぼとぼとこの場から退場した。



 ――さて、ナナバの奴にとりあえず嫌みを言っておくか。



 俺はサクラのバカがその場にいないことを確認してナナバに緊急の連絡をとってみる。

 いつもなら護符で連絡をとるところであるが、すでに護符は破かれてしまっているので普段使いのスマホを代用してナナバに直電することにする。



 その第一声が予想外だった。



 『ヤッホー、知っている? あの国のお姫様、結婚するんだってぇ……それにしてもあの問題児のお姫様が……ぷぷぷぷぷっ』


 笑いながらそいつの結婚相手に報告する司法長官、あまりにも失礼である。


 『これで問題は解決されたね!』


 勝手なことして勝ち誇っていやがる。

 ここで嫌みの一つ、二つでもくれてやるか。 


 「――おかげさまで平和が保たれたよ。まさかナナバのおかげで敵対する可能性がだいぶ下がったのだからな」


 『ん? そう……かな。まぁ遠目で見ればそうなるわね。うん、そうね。ではもっと私に感謝してくださいな』


 一瞬ナナバの表情に戸惑いがあったように見えたが、何かを理解したのかすぐにそれは解消された。


 「それで贄を使った訳か」


 もちろんここでいう贄とは俺のことだ。


 『贄? とんでもない。一応小国とはいえど、いにしえの国のお姫様よ。お相手の方にしてもご褒美だとおもうけど……』


 「ご褒美ねぇ……」


 確かに争わずとも穏便に国が1つ手に入る訳だが、あのバカ女のことだ何か企んでいるのは明白である。

 見た目は良くてもジョーカーはジョーカーだ。

 ババとして牽いてしまったのか。

 それとも自分の進むべき道を有利にもたらせてくれるスーパーウエポンなのか。

 どっちにしても――


 「ちなみに厄介事に巻きこまれることも見越した上での判断でいいのか?」


 俺の問いにナナバが首を傾げる。


 『確かに押しつけられた相手の方に同情しちゃうわよね、まあお姫様が好きで結婚するって言うんだから、少なくとも財は得られるしそれなりの身分も保障される。だからそれはそれで諦めろって――』


 「そうか。諦めろというのか。ナナバがそう言うなら仕方ないな。それは素直に従うとしよう」


 『そうそう――って何か話が何か少しズレている気もするけど……』


 「そうか? 俺の方では勝手なことしてくれたという怒りと共に婚姻のことについてはそれはそれで仕方がないと納得しているがな」


 こんなやり取りをしていると、誰か俺の肩を叩く奴がいた。

 振り向くと、血の気が引いたように真っ青な顔のキユがそこに立っていた。


 「電話、代わってくれ……」


 「お、おう」


 電話を差し出すと、キユの第一声。



 「バカッ! おまえの奇策にバルの奴が納得しちゃったじゃないか! ――えっ、怒るなってレベルの話ではねえぞ!」



 怒号である。

 何が彼女を怒らせているのだろうか。

 キユの怒号が続く。


 「さてはおまえ、バルのここでの名前を覚えていないんだろっ! ――何ぃ『バルはバル、向こうの名前なんて興味ないって?!』」



 ――あぁ、そういうことか。


 

 そう言えばナナバの奴、以前に「貴方は何者でも無い。私らのルシフェル(救世主)だから異世界の人物であっても関係ない」って言っていた。

 俺の事を思っての言葉だったのだろうが、まさか、彼女のその言葉がこんなところで弊害になろうとは……


 「キユ、ナナバに伝えてくれ。『おまえの助言を感謝する。その方向で話を進める』と」


 「ま、まじ?! 分かった。それと……あたしは一度向こうの世界に戻るわ。多分、ナナバの奴が発狂するだろうから。あとバーナードはバルの護衛という名目で残すから」


 キユはナナバにその旨告げ電話を終了した。

 ナナバが発狂するという事態……その辺はよくわからないが、そうなるとバーナードのやつが八つ当たり被害を被る可能性があるわけか。


 「そうか。あとは任せるとしよう。それとくれぐれも『バーナードは今回何もしていないし関与もしていない。だから殴るな、八つ当たりするな!』と釘を刺しておいてくれよな」


 「うっ……わぁ……わ、わかった。それにしても狂ったナナバ、相手にしたくねえ……」


 キユは戦を前にしても顔色一つ変えずに澄ました表情の強者であるが……今回ばかりは例外の様だ。

 そもそもの彼女の余計な策でそうなったのだから彼女にも責任をとらせるしかあるまい。


 ――でここでの話はこれで終わりだ。


 帰宅後、両親から破壊された学校の件で詰問されたが、次の日には違う方法で解決した。

 


◇◇◇◇

  


 緊急帰国したアタシは、真っ先に父上がいる公王執務室に向かった。

 時間は丁度父上の執務執行時間が終わろうとしていた頃だ。

 当然、衛兵に遮られる。


 「姫君! 来られるならそう事前に仰ってください。それにあともう少しで公王陛下の執務が終わります。もう少し待たれては如何ですか」


 確かに時間にうるさい父上である。あとでネチネチと責められたくないからだろう、故に彼は如何にも面倒臭そうな表情である。

 だが、これは緊急事態である。

 これを先延ばしにしてはこっちの方が怒られる。


 「これは公国公人としての至急報告案件である」


 アタシの一声に衛兵は表情を強ばらせ慌てて敬礼をする。


 「はっ! 今、公王陛下の承認を頂きます」


 近衛兵がすぐに執務室に入る。中から父上が機嫌悪そうに「何だもう少しで仕事が終わるというのに……えっ、サクラが至急報告したいって帰ってきたのか?!」という話声が聞こえてきた。

 さらに――


 「あいつ学校で何かしでかしたのか?」


 ギクッ……新築の学校一校を崩壊させちゃったことがバレている?!


 「……あぁ、そうなら臣仁の奴から連絡があるハズだからそれは違うか……」


 どうやら、まだ連絡が行っていないみたい。


 「いずれにしても執務室に入れと伝えよ」


 そんなやりとりが聞こえた。

 いやだなぁ……行きたくないなぁ。

 自分自身は向こうの生活でのてパートナー契約を結ぶつもりだったけど、まさか公女としての婚姻計画になるとは……まぁそれなりに覚悟したつもりだったが、事前になって改めてまだ足りなかったことを自覚する。

 そして準備不足の中執務室の扉が開く。


 「どうした?」


 父上の第一声が想定内のもの。

 それであれば、公国流の作法に基づいて一礼して立て膝をした状況で跪く。


 「誠に言いにくいことですが、ご報告で参りました」


 そうすると気が短い父上は「手短に話せ」と急かす。


 「実は――」


 事の経緯を話す。


 「それで相手が――臣仁の愚息ということか」


 臣仁とは一条高校理事長である神池臣仁のことだ。

 彼と父上は所謂マブダチであり、今も親交が続いている。

 だが、その息子を愚息と言うくらいだから、あまり良い評価をしていないことがわかる。


 「それはそうと、おまえはあんなのでいいのか? 確かに一時期はそう考えていた時期はあったのだが……」


 父上は結局の所、アタシの決断に怒鳴りつけることはなかった。

 寧ろ困惑しているといった方が良いのかもしれない。

 その愚息とされている父親がマブダチな故にと言ったところだろうか。

 ただ、龍一朗のことはあまり良い評価をしていない。多分それは――


 「いくら異世界とは言えど、治安が安定している我が国に転移されていたのにも関わらず、逃げ出した男だぞ」


――ということだ。

 だが、ここで一つ疑問が湧く。

 その逃げ出した男が何故、ブルースター義勇軍関係者になっているのか?

 あの、共和国を倒した軍隊に?

 しかも、一緒にいる奴らは只者じゃないぞ。

 そんなの相手にタメを張っているくらいだし、実際に扱う術式は魔法っていうチンケなものではなくこちら側の法術だ。

 つまりは、父上は理事長関係者からの情報を鵜呑みにしているのではないかと。


 ただ、それについて龍一朗が何も反論していない。

 だから、あえてそこは触れずにおこう。


 「向こうのコネはあった方が良いかと。何よりも気も合うし」


 「――それだけか?」


 父上はギロッとアタシを睨む。


 「あると言えばありますが――結果に動揺して忘れました」


 そう。アタシが賭けに負けたっていうことで動揺したってことにしておく。

 だが、それは父上に見抜かれていたようだ。


 「――なら、おまえが策に溺れたことは不問にしておこう」


 そうして父上との謁見が終了となった。  

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