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第13話 2つの歯車が噛み合う時


◇◇◇◇


 「それは勝負前の話だよ。確かに負けた今ならこう言い直すよ『龍一朗、ボクは君をパートナーとして隣に立ちたいと思うのだがどうだろうか?』ってね」


 何を思ったのか、サクラの奴はまだそう言い続けている。

 俺としてはこんな面倒なパートナーはいらない。

 正直いい加減にしてくれと思うところがあるのだが、裏を返せばそうまでして俺を自分側に引き込みたいという意思の表れということなのだろうか。


 俺が白帝の法皇ということを知ってて組みしたいのか?

 ……いや、寧ろそれはないか。


 知っていたら下手に出ているハズだ。

 どうも上から目線というのが気に掛かる。

 そう考えると、彼女は俺の立場を知らない、家柄が良い人間であることは間違いなさそうだ。


 「ところで――」


 サクラの奴、急にキユに話しかけたと思うとどこからか紙を取り出し何やら書き始めた。書き終わるや否やそれをキユに差し出す。


 「キユさん、その司法長官とやらに承認依頼してくれないかな」


 「あぁ、その件か。約束は約束だ、いいだろう。それは預かっておく」


 目の前にいる当事者の俺がスルーされ、話が勝手に進んでいく。


 「……ちょっと待てキユ。勝ったのは俺だよな?」


 俺は慌ててを彼女らの会話を遮りキユに問いただす。

 だが、キユの奴は淡々と「そうだが?」と答えつつも、当たり前の様にサクラの話を受け入れている。


 「そう……だよな。じゃあ何で、この女の言うとおり話を進めているんだ?」


 キユは俺の質問にクビを傾げながらその答えを述べた。


 「約束だからだろ?」


 「確かにそういう話だったと思うが……勝ったのは俺なんだけど……」


 どうも納得がいかない。

 しかもムカツクことに人を小馬鹿にするかのようにニヤついている。


 「このやろ……」


 「まあ待て」


 俺の苛立ちを見て耳元に顔を寄せるとこっそりと話を続けた。


 「(このお嬢、言い出したら聞かないだろうから、この案件は問答無用でナナバに丸投げするから)」


 なるほどね、確かにキユは交渉事は苦手だからな。

 何せ彼女は『力尽くの脳筋バカ』だ。

 それに輪を掛けた『恐怖で相手を従わせる』質が悪いのがこの俺だったりする。

 平たく言うならばキユと俺は戦況を有利にさせるタイプで、平和的解決するタイプではない。

 そうなると知略派の出番となる。

 うちらだとバーナードかナナバがそれに当たる。

 兎に角、彼らは頭の回転が速い。

 彼らの違いと言えば、バーナードがその場その場に合う柔軟な判断をするのに対してナナバは自分の信念を貫き通す『初志貫徹』タイプである。

 だから戦略の参謀としてはバーナードが適任であり、政略の官僚としてはナナバが適任である。

 なので、サクラみたいな面倒臭い奴には揚げ足取られないナナバ一任だ。

 彼女にさっさと丸投げ……いや引継ぎした方が効率が良い。


 「(確かにナナバなら何とかするだろう。わかった、その方向で話を合わせよう)」


 大丈夫、何とかするはず――


 そう思いつつ内心では何故か厭な予感がチラついた。

 頭の回転が速いナナバでも欠点が存在する。

 それはナナバは長所でもある『初志貫徹』というところ、裏を返せば『人の話を聞かないところがある』という点だ。

 これは良い面でもあるのだが、どうもそれが一抹の不安として脳裏に過ぎったのだ。

 だから、蛇足じゃないけどこちらからの要望を伝え牽制することにした。


 「わかったよ。でも、一応こちらからも要望を伝える」


 「えっ要望?」


 「そうだ」


 「そのキミの要望って何?」


 「そうだな――」


 ここはアイデンティティに関するところを突いてみることにする。

 それを触れられれば困惑するに違いない。


 「こういうのはどうかな。『ボク』っていう言葉を直すっていうのは?」


 「はぁ?」


 案の上、突拍子もない事を言われサクラが困惑している。


 「俺、『ボクッ子』苦手なんだよね……だって、『ボク』って言う奴からパートナーとかなんちゃら言われても俺はノーマルな女の子しか付き合いたくないんだよね」


 「…………」


 そう言うとサクラはしばらく沈黙する。

 あえて自己否定する点に触れたんだ、多少は困惑しているのかもしれない。

 ――それとも俺の意図を読んだのか?

 どっちにしても俺は畳みかけるように「じゃあいいよ。この話はコレで終わりな」と話を打ち切る方向に持っていくわけである。

 

 だが、今回は相手にしては差ほど難問ではなかったようで、俺の顔をマジマジ見て「ふむ……」と呟く。


 「いいよ。なら『ボク』のことを今後『アタシ』って言うから」


 「……へぇ。そいつはどうも」


 正直、意外だった。だが俺が驚く間もなく彼女はその胸の内を明かした。


 「だって、もうアタシが跡継ぎになる必要がなくなるんだもの。だから構わないよ」


 ――ん、どういうことだ?

 ちょっと待て。

 それよりもこれって、彼女にしてみれば逆に俺が「それ」で条件を飲んだ=パートナーとして認めたって流れになっているんじゃないか?! 


 「いや、勝者の俺の条件を飲んだのだから、話はこれで終わりだろ?」


 「いいや。それはキミの希望だから。それくらないなら叶えてもなんら問題はないよ。でもね、負けた方だってプライドってものがある。だからそれに反しない程度に従えばいいってこと――そして負けたアタシがキミをゲットするとなれば、この際いっそのことキミのパートナーになれば、キミもアタシもwinwinになる。そういうということでよろしく」


 「――ハァ、バカじゃねえか?! 何でそこまで俺に拘るんだ? そもそも他人の入試如きでおまえが人生を賭ける勝負なんてする必要はないだろ」


 「そう怒るなよ。確かに面倒な事に巻き込んでしまったけど、これでも向こうの世界でも美人さんなんだから諦めなよ」


 「それをおまえが言うな!」


 ダメだ。キユの言うとおりコイツは俺の話を全く聞こうとはしない。

 こんな天然馬鹿には小細工なんて使わずさっさとナナバに任せるしかない


 「わかったよ。一応司法長官に聞いてみるから、バーナードもそれでいいか?」


 「おまえでダメならそれしかない……」


 バーナードは血の気が引いた表情で渋々認めた。

 そりゃ、うまくいったとしても間違えなくぶん殴られるだろうし。

 すまん、バーナード。


 「キユ、その手紙至急ナナバに送ってやってくれ。」


 「へいへい、コレばっかりはあたしたちの手に負えないから」


 キユはため息を付きながらそれを簡易法術で転送する。

 キユ自体は法術が苦手なので法術を込めた紙袋でナナバの元に送る。

 紙は舞うように登っていきやがて光と共に消失する。

 この作業を以て転送は終了した。

 

 この様子を見てサクラは「キユさん、間違えなく送れたんだよね?」と確認する。


 「あぁ。これでナナバの元に送られた」


 「これっていつになったら結果がわかるのかな」


 サクラの問いにキユが答える。


 「さあ、ナナバはヒマじゃないからすぐには結果はでないと思うけど、2,3日……いや一週間くらい待ってやってくれないか」


 一週間はさすがに盛りすぎだが、この審査には直行便とはいえどそれなりの時間が掛かると思われる。

 なぜなら、申請内容は婚姻のものだからだ。

 人の一生に掛かる婚姻であるからこそ、正式な手続きを踏む必要がある。

 それであればそれ用のひな形に沿った文章で申請するのが定石であるが、彼女はひな形すら確認することなく手書きで速効に書き上げたものだ。

 不備がないとは言い切れないものだろう。

 

 本来ならばそれを下級事務方がそれを弾き出すのだが、今回はキユによる直行便だ。

 いくら多忙なナナバとはいえ、あんなのが直に送られれば今晩当たりにもご機嫌斜めなナナバからの問い合わせがあるハズだ。

 だから時間を盛りすぎなのだ。


 では何故キユが時間を盛ったのか?

 それはそれまでにナナバに事情を説明し、最善の策を執らせる時間も込められているのだ。通常なら2、3日で足りるのだが、このバカの対策にもう少し時間を盛った様だ。


 「そんなに待つの?」


 「最短とはいえど手続きを踏む必要があるからね。一応法治国家だから」


 「そうかぁ……お役所仕事だからしかたがないか」

 

 キユの説得でサクラの奴が一応納得した。

 だが、何か引っかかっているのか俺の方に歩み寄ってクビを傾げている。


 「ところで、一応確認したいことがあるんだけど」


 何か感づかれたか?

 そう思っているのも束の間、サクラが「これはパートナーになるかもしれない人だから聞くんだけど……」と困った表情で俺に尋ねる。


 「俺の個人情報か?」


 「まぁ、それもあるんだけど……そんなことよりも」


 「そ、そんなことよりも?」


 彼女は肝心なところはスルーして、口にした問いが碌でもないものであった。



 「香奈子ってキミとどういう関係?」



 思わぬ問いで俺は一瞬目が点となった。

 何言っているんだコイツ。


 「いや、ただの幼馴染み……っていうか幼馴染みだった奴なんだけど……」


 呆気にとられ俺が正直に答えると、「エッ、エェ?!」と驚いた表情で真成寺某が立ち去った方向を指差したかと思うと今度は俺の方向を指し指と顔が行ったり来たりしている。

 

 「だってあの様子じゃ、結構深い関係の言い回しをしていた様だけど……」


 「まぁ因縁はあるのだが」


 俺の答えにさらにクビを傾げるサクラ。

 この様子では俺が親切丁寧に説明したところで更にクビを傾げるだけだろう。

 俺はバーナードに肘を小突いて説明させることにした。


 「アレ、真成寺香奈子大魔導士だからな。うちの世界では有名だぞ。コイツをうちらの世界に転移させた悪の大導師って」


 「えっ、香奈子が大導師?! 嘘だぁ! この世界ではエリートぶっているけど、うちらの世界では見習いすらなれないクズだよ。第一転移や召喚なんて出来るわけないじゃん! せいぜい他の人の助力を得て召喚出来たところで、どこぞの世界の使い捨てナプキンが大量に降り注ぐくらいだよ」


 ちなみに補足するが、『転移』とは向こうの世界もしくはこちらの世界に移った・飛ばされた場合を指し、『召喚』とは向こうの世界からこちらの世界に呼び出す場合に使われる。


 なるほど、あの時の中途半端な召喚術は香奈子によるものだったのか。

 ――そう言えばナナバの奴、何かその術式に放りこんでいたっけな。あの時は答えなかったけど……そんなのぶっかけたのか。


 「そうすると、香奈子一人で召喚術は出来ない――というわけか?」


 「そうだよ」


 「他に誰かそう言うのに長けている奴がいるのか?」


 元の世界に術者がいたのか?

 そうなると旧共和国の残党になるのか?

 探し出して事情聴取する必要がある。

 

 「誰だ?」


 「アタシだよ。香奈子に力を貸したのは」


 まぁ、こいつの能力ならそれは出来て当然なのかもしれないが……


 「一応、アタシからも聞くんだけどさぁ。香奈子の奴がさぁその時『大事な人を呼び戻す』って言っていたんだけどぉ……」


 白い目で俺を見るサクラ。

 何か恋仲にあるとでも言いたいのか? 勝手に訝しんでいる。

 すると今度はキユがそれを否定した。


 「言っておくけど、こいつはその大魔導士様を相当恨んでいるぞ」


 「えっ香奈子のことを……何で?」


 キユの答えに戸惑うサクラ、それを追い打つようにバーナードが補足する。


 「こいつがうちらの世界に転移されたからな……まぁうちら的には結果オーライだったんだけど」


 「あたしもコイツから話を聞かされた。当然うちらも彼女のことは嫌いだ」


 バーナードもキユも容赦なく香奈子のことこき下ろした。

 まぁ、そう仕向けたのはかく言うこの俺なのだけどね。

 だってそうだろ?

 逆境に立ち向かうのに必要なのはやる気と気合いだ。

 相手にやり込められメソメソしていては、この先どう生きていけばいいのかわからない。

あの世界では弱音を吐いたら敗者になる。すなわち敗者=死だ。

 だから敢えて送り込んだ奴らに対して憎悪をし、復讐を誓うことで最終的にここまで生き延びることができた。

 最終的に俺は勝者になった。

 

 裏を返せば香奈子の意図しないところで俺の捌け口にされ、それが周りにも周知されることで、悪人に仕立てられたわけだ。

 悪い、香奈子。

 でもおまえのおかげで俺はあの世界でも生き延びることが出来た。

 まぁ、俺を陥れた責任として、その汚名を着せた件についてはしょうがないよな。


 「俺もあの件がなければ酷い目に遭わないですんだからな。今更香奈子と仲良くするつもりはないな」


 「そうかぁ……それならいいんだけど……」


 サクラはイマイチ納得しない表情で渋々諦めた様だった。

 だが、彼女もあることに気付いた。



 「でもさ香奈子の奴、召喚転移術が碌すっぽ使えないのにどうやってキミをあっちの世界に転移させたのだろうか」



 だからこう言って納得させた。


 「おまえみたいにあの当時の彼女には誰かしら背後にいたんだろうね――そういうことで、もうその話は終わりでいいか?」


 「なるほどね……キミのおうちの事情も色々ありそうだ」


 そこまで言うとサクラは皆まで言うまでもなく納得した。


 「じゃあ、今日はこれで解散だ。もし受験に落ちたらおまえの所為な」


 サクラに対して軽くイヤミを言う。

 ここまで大事にしたんだからそれ位なら罰は当たらない。


 「それはないとは思うけど……」


 サクラはそう言いつつ周りの惨状を改めて確認し冷や汗を掻いている。


 「おまえの試験も終わったし、うちらの目的も終了した。そろそろここを向こうの世界に戻すか?」


 「それにしてもこの惨状、辻褄合わせが大変だな。学校を戻す寸前に爆薬と煙幕張って事故に見せかけるか?」


 キユとバーナードが事後処理のことについて話を進めた。

 そうは言っても爆発した事実は残すので、サクラは……うまいこと責任回避は出来そうだが、いずれにしても真成寺某とチャーシューらに責任を取らせることになるだろう。


 そんな中、頭上から2枚の紙切れがゆらゆらとキユの手元に落ちてきた。

 それを手にするキユ。


 「何だコレ」


 キユがそのうちの1枚を広げ内容を確認する。

 彼女はそれを目を通すや否やその場でフリーズした。


 「何があった?」


 俺がキユが持っているもう一つの手紙を取り上げる。

 その瞬間、キユがボソリと呟いた。


 「あははははっ……ナナバの奴とんでもない判断しやがったぞ」


 俺は厭な予感を覚えながら内容を確認した。

 それにはナナバ直筆による『婚姻承認』の文字が記されていたのだ。

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