第12話 論理的思考、直感的思考
ヒトミンの首を綺麗に切断したかと思うとその切断部分に光の物体が再び現れた。同時に立体化した受傷前の頭部の首付近にも同様な光が出現した。
それらは首の周囲をほぼ同時の速度で回転し始め、切断された先が徐々に再現されていく。
まるで原本を測定しつつ倍速の3Dプリンターで印刷されていく感じで再現されていく……
――ところで、再現された肉片は何を媒体にしているのだろう?
ふと疑問に思うはずだが、それはその場にいれば何となく理解出来る。
その答えとなるものは下に飛び散った肉片。それが霧化して吸い上げられ先ほどの光へと繋がっていた。
つまりはその肉片を再利用していることである。
ただ、飛び散った脳漿が首の再生に使うのか……という疑問が残る。
さらに、その場にある肉片が足らなかった場合はどうするだろうか?
どうせ彼のことだ。そんなことを今尋ねたらへそを曲げるに違いない。ここは諦めて後で聞いてみよう……そう思っていたのだが、なぜか彼の方から語り始めた。
「どうせ、お前の事だ。あとで根掘り葉掘り聞いてくるんだろ? 今なら少し答えてやろう」
彼は視線をボクに移す。
「よそ見して大丈夫なの?」
「今なら大丈夫だ。面倒臭いのは最初だけで後は術式を自動展開して再生させているからな」
――おいおいおい、術式をプログラム化させて自動展開させているというのかよ。そんなの向こうの世界でも使える術者いねーっつうの!
そう理解していたつもりであるが、実際に目の前で展開されているのだから、ボクの知識はもはや過去形なのだろう。
タダでさえ神の領域ともいえる人の生死を覆すほどの実力があるのだから、ボクの考えは改めなければならない。
一言でまとめるなら『不可能を可能にするバケモノ』は実在していたということだ。
一方でこんな疑問も湧いてくる。
こんなチートみたいな神の領域を執行できる高位術者に対して、この様な『低レベルの学校に通わせる必要が本当にあるのか?』というものだ。
教師・講師枠――じゃないんだよね?
仮にそうだとしても彼の実力では幼稚園の遊戯程度のレベルの学校では持て余すだろう
この学校の上層部、特に龍一朗の両親は彼に何を学ばせたいんだ?
上層部の考えに違和感を感じる。
そんな龍一朗であるが、なぜかボクに講義を始めた。
「おまえのことだ、この肉片を材料として再現に使っていることくらい理解しているんだろ? ――で、おまえは今、こう思っているはずだ。『この材料だけで足りるのか』って」
「そ、そうなんだけど――」
ボクが相槌を打ちすると、彼はさらに話を続ける。
「この肉片を利用しているのは遺伝子を取り出すと同時に、破損前の部位を測定しつつそれ基に欠損しているパーツを再生させている。そうなると答えは自ずとわかるだろう?」
「あの~、ボクそこまで頭良くないんですけどぉ……」
ボクは彼の問いに若干戸惑いながら答えると、この生意気な中坊学者は「そんなの知っている」と小馬鹿にしながら話を進めた。
「でも勘の良いお前のことだ。直感でなら答えられるとは思うぞ」
龍一朗はボクのことを買っているのか馬鹿にしているのかどちらでも取れる言い回しで尋ねてきた。
それじゃあ……それじゃあ……
不意に思いついたのはこれだった。
「その物自体を変換させて……って感じかな?」
彼はしばらく沈黙する。
外したか? ――って思ったのだが……
「まぁ、そんなところだ。ぶっちゃけた話、不足したものはそこらに落ちている石ころだろうが、そこにいるチャーシューらの糞尿だろうが、何でも物質変換させれば用が足りる――って答えている間に再現が終わったな」
再現が終わるとデータ採取元の破損前の頭部は電源が落とされるように消失した。
ヒトミンの方に顔を移すと頭部は髪の毛も含め見た目は問題なく再現出来ている。
「これで全部の工程終わったの?」
「いやまだだ。調整する必要がある」
彼は切断されていたであろう部位に人差し指を触れると緑色に光り出す。
感じ的には神経とか血管などの接続を促す回復系法術を念のため展開させたのではないか。
「これで複製は終了した。後は……その先を言わんでもわかるだろ。でもその前にどうしても気になることがあってな」
同時に再現されたヒトミンの頭部にまたあの光の物体が現れた。それが頭部を中心に回り始める。
「――この部位は弄っておくか」
彼がそう呟くと、その部位に手をかざし数秒で作業を終わった。
何をしたのか気になるところもあるが、どうせボクが聞いたところで理解出来る領域ではなさそうだ。後日、機嫌が良い時にでも尋ねることとしよう。
「あとは蘇生させるだけだけど、こんどはおまえがやってみるか?」
龍一朗は何を思ったのか、急に後の処置をボクに振ってきた。
あまりの急展開に目が点になった。
なぜ急にボクに仕事を投げるのか。
ボクに責任押しつけるため?
それだったらここまで丁寧にヒトミンの頭部を再現しないだろう。
では何だろう?
ボクが首を傾げていると、龍一朗は背を向けチラリと振り返る。
「これだけ派手に立ち居振る舞したのに、彼女の救護はずっとそのまま見ていました……ってなると、学校やおまえの本国に言い訳もできないだろ? だからあとはおまえに託そうと思うが、いけるか?」
確かにそうだ。
ボクとしてもリカバリーに携わったという実績は欲しいところだ。
……何となくこれには『思惑』めいたものを感じる。
「恩を売りつつ、何かあったらボクの所為……って言う感じなのかな」
ボクはそう憎まれ口を叩きつつ、とりあえずその提案に乗っておくことにする。
――さて、ここからボクのターンである。この先輩をどうやって蘇生するか。
正直ここで引き継がれるのは辛い。
ボクは龍一朗みたいに澄ました顔して何でも処理できるわけではない。
その状況を知ってか知らずか、彼は煽るようにボクに告げる。
「彼女の身体の時間凍結はおまえがアクションをすると同時に解除となる。俺はここまで手の内を見せたのだから、おまえも少しは実力見せろ」
……ったく、頭の良い人ほど腹立つことを言ってくる。
ボクは君みたいにそんなことできないって!
そんな中、彼が「はぁ……」と深いため息を付きながらボソリと呟く。
「あとは心臓を動かすんだろ……」
心臓を動かす? ――あぁそうか、蘇生するのには心臓を動かしてやる必要があったな。
それならまずは試しに、ヒトミンの心臓部を指差しそこに電撃を喰らわる。
するとヒトミンの身体がビクンと反応した。
これは効果はありそうだ。
さらに電撃を繰り返し与える。
ヒトミンの身体が大きく反り返る。
彼女から「うぅ……」といううめき声みたいなのが聞こえた。
そしていくらか身体が動いた。
――こ、これは……いや、たぶん違うな。
それは強い電気による筋肉と声帯の収縮によって肺に残っていた空気が押し上げられたからだろう。
――結果、ちょっとだけ電撃が強かったようだ。でももう少し電気を当てた方だいいのかな?
それを数回繰り返してみた。
本人から「あ……」とか「う……」とか声みたいなものが聞こえているが、これも電気による収縮運動なのだろう。
だが、先ほどから龍一朗が先ほどから目が点になり口を開けて何かボクに言いかけている。
ボクが何か間違えている、ということなのだろうか?
まぁ、人間どこかは間違えるものだ。
「……もっと衝撃が必要なのかな」
ボクはヒトミンの胸ぐらを掴み挙げどうしようか悩んでいると、遠巻きに見ていたキユがボクの肩をポンポンと叩いてきた。
「要は殴ればいいんだな。どれ貸してみろ」
と言って乱暴にヒトミンの髪の毛を掴んでボクから強引に引き離した。
その時ヒトミンから声と言うより、ハッキリとしたうなり声が聞こえてきた。
あっ……さすがにこれは帯電による筋肉の収縮運動ではないな。
「キユさん、彼女は――」
ボクがキユにそう言いかけたが、時既に遅し。
キユは「なんだ?」と反応しつつ、そのままシュパパパパ……とヒトミンに往復ビンタを食らてしまった。
「……いたっ、痛ぁい、何するのよぉ!」
ヒトミンだ。彼女は自立し手で顔を守ろうと構えている。
まぁ、しゃべれるし、手足は動ける様子だ。
――うん、間違いない無事……とはいかないがとりあえず蘇生したようだ。
「うわ……ひでえ……」
「そこまでしなくともいいんじゃないの………」
龍一朗とバーナードがボクとキユに批難の目を向ける。
「えぇ?! ボク関係ないでしょ。これはキユさんがしたことなんだもん」
そう、これはボクには関係ない。
悪いのはキユだ。
そのキユは皆に責められ「あたしの所為なのかよ!」と逆ギレだ。その際、掴んだ髪の毛ごとヒトミンをぶん投げたものだから『ブチブチ』……と髪の毛が抜けた様な音が聞こえた……気がする。
「はぁ?! おまえだってこいつの胸ぐら掴んで殴ろうとしていたじゃねえか」
キユはボクに言いがかり、ぶん投げられたヒトミンはしくしくと泣き出し、その様子を見てバーナードはオロオロして、龍一朗は頭を抱えて「こいつらはっ……」とその場にしゃがみ込んだ。
――うん、これでヒトミンの件は何とか解決した。問題はあの焼き豚共と……
「あの……よ……」
例の焼き豚共の統括である、真成寺……何だっけ? あぁ、確か真成寺剛だったっけ。
そいつがもごもごしながら龍一朗に声を掛けてきた。
「詫びを入れたいんだが……」
どうやら今までの無礼な態度を改めようとしている様子だ。
だが、龍一朗は冷めた目で彼を見る……いや見下している。それを察したのかキユが龍一朗の前に割って入った。
そしてあるものを手にしてそれを真成寺に突き出した。
それは短刀だった。
「腹を切るんだったら介錯するぞ」
これでケジメを付けろということなのだろう。
そうじゃないだろうねぇ……だってそいつは『えっ?!』という困惑した目で足を震わせているんだもの。
「キユさん、そいつは死ぬつもりはないとおもうよ」
「はぁあっ? だったらどうこの後始末をつけろというんだよ!」
キユはさらにどこから取り出した長剣を抜き今にも斬り捨てんばかりに構えている。
「俺も同じ意見だ」
バーナードも胸元から拳銃と思われる小型武器を取り出し冷めた目で銃口を彼らに向けている。
彼らの態度で感情的になるのも分かる気がするが、何となく不自然な対応である。
だって本来ならば真っ先にボクが睨まれるべき存在なのに、それなのにあんな小者相手に今頃無礼打ちというのも違和感がある。
その上で、龍一朗までが「まあ待て」と如何にも芝居がかった台詞で彼らの前に立っている。
……はぁ? 彼、いや彼たちは何考えているんだ?
「謝罪は受けない。だが責任は果たせ。だからこの場から失せろ」
龍一朗はそう言うと手であしらった。
そしてわんわんと泣き喚くヒトミンの頭をポンと軽く叩き回復法術をかけると「こいつも一緒に連れて行ってやれ」と彼女を真成寺らに突き飛ばし、この場から外野が退場した。
一見すると真成寺らは『許された』感じである。
だがキユの「本当に許すつもりなのか?」の問いに龍一朗は首を振って否定した。
「責任をとってからな」
バーナードは何となく察していた様で「まぁ、そうなるだろうな」とそれ以上は龍一朗に確認しなかった。
きっと彼らがこの後始末をすることになるのだろう。
まぁ、学生だからどこまで責任が取れるかどうかはしれないけど……ボクの分までその責任をとってくれるとありがたい。
ただ、ここは異世界に転移されているから彼らはそのまま元の世界に戻れないはずだ。この先は青い連中の兵が配置されているだろうから彼らがなんとかするだろうね。
「あとは問題は――」
龍一朗達はジロッとボクの方を睨み付けた。
「やっぱりそうなるよね…………」
◇◇◇◇
「――で、おまえは俺が勝ったら何て言ったんだっけか?」
龍一朗はジト目でボクを睨む。
「『お嫁さんになってやる』って言った」
ボクは胸を張って答えた。
ボクとしてはこれはこれで有りだと思った。
彼をうちの国に勧誘出来れば、うちの国としては安泰である。
まぁ好きか嫌いか……ってところはまた別の話であるが、少なくともボクは彼に対して悪い印象は持っていない。興味ある子には間違いない。
だからといって気持ちがハートマークになっている訳ではない。
付き合うんだったらいいかも……くらいである。
そんな態度だから当然、キユやバーナードは口を出してきた。
「あのさぁ、それが負けた奴の態度かよ。上から目線も良いところだぞ!」
「そういうのって良くないと思うぞ。そんなことされたら俺はあいつに殺されるんだけど……」
バーナードが言っている『あいつ』とは誰を指すのかわからないけど、確かにキユが言うとおり今のボクは敗者である。
だからといって下手に出てもかえって自分を不利にするだけ。
「キユさんやバーナード……あぁ言いにくいバナドさんでいいや」
「バナドさん?!」
「それは勝負前の話だよ。確かに負けた今ならこう言い直すよ『龍一朗、ボクは君をパートナーとして隣に立ちたいと思うのだがどうだろうか?』ってね」
ボクは敢えて胸を張り交渉に臨むことにした。




