7話 スキルの機能
街の外れ、ギルドから少し離れた場所で安めの宿を見つけた俺は、ひとまず一週間分の金を払って部屋に入った。
一泊と朝食付きで銅貨二枚、それが一週間で銅貨十四枚。
ゴブリン討伐での報酬が銅貨二十五枚だったので懐に優しくて助かる。
宮廷近衛兵団の時の貯金はそれなりにあるものの、いざという時のためにもあまり手を付けたくはなかった。
「さて……この笛について見てみるか」
笛の古代文字に触れて【上限解放】スキルを起動する。
半透明な板──鑑定系スキルでは恐らくウィンドウと呼ばれているもの──が開いた。
【上限解放可能な魔道具を検知しました。10Pを消費して上限を開放しますか?
所持ポイント32P
魔道具:魔呼びの笛
レベル:1→2】
「レベルを一つ上げるのに10P必要なのは風鱗と共通か。所持ポイントはゴブリンとトロルを倒した影響で減った分が増えている。でも肝心の魔道具の効果が分からないな……」
いっそのこと吹いてみようかと考えたものの、やめた方が無難だろう。
魔道具名が魔呼びの笛となれば、一体何を呼び寄せる笛なのか。
これで魔物を呼んでしまったら宿が大惨事になる可能性がある。
「他に確認できるものってないのか?」
ウィンドウの魔呼びの笛と示された箇所に触れると、途端にもう一つのウィンドウが開いた。
【魔呼びの笛 レベル1
奏者に従う魔物を召喚する笛。
現在のレベルではゴブリン、コボルト、スケルトンのうち計三体の同時召喚が可能。
レベルの上昇で従える魔物の種類と数が増加する】
「おお……魔道具の効果が確認できるのか! 便利な機能だな……ってことは、風鱗についても確認できるのか?」
風鱗を鞘から引き抜き、刃の中央に刻まれた古代文字に触れる。
【上限解放可能な魔道具を検知しました。20Pを消費して上限を開放しますか?
所持ポイント32P
魔道具:風鱗
レベル:2→3】
「レベル3到達に必要なのは20Pとなるとレベルが上がるごとに必要なポイントも増えていくのか。じゃあ次は肝心の風鱗の効果確認だな」
【風鱗 レベル2
風竜の牙と鱗より作られた短剣。
現在のレベルでは風の斬撃を中距離程度まで射出可能。
レベルの上昇で斬撃の威力と距離を増加可能】
「やっぱり特殊能力として風の斬撃が備わっているな。世に言う超級魔道具で間違いない」
超級魔道具は所持して活動するだけで噂になるほどの激レアアイテムだ。
単なるアーティファクトでさえ古代遺跡であるダンジョンから発掘しなければならない都合上、短剣型の物でさえ金貨複数枚を要求されるほどに高価だ。
それが超級魔道具となれば高価すぎて値段をつけられないと聞くし、仮に売却する際には国家が介入し、超級魔道具の発掘場所や元の所持者に新たな所持者などを細かに登録する必要さえある。
超級魔道具はスキルの優位を容易に覆すし、それだけ強力な品々なのだ。
「……発掘場所を問われても答えられないし、冒険者になったばかりの身じゃあ嘘をつくのも限界がある。何よりあのご老人の好意で貰った風鱗を手放すなんてあり得ない」
そうやって諸々について考えたところで、俺は今後の方針を固めた。
「冒険者として食っていくと決めた以上、戦力強化は急務。今後は可能な限りアーティファクトを回収して、最低限レベル2までは上げる。それにアーティファクトを売却する場合は超級魔道具以外だな。超級魔道具は戦闘系スキル並みかそれ以上の力を発揮する。自分から切り札を売るのも間抜けな話だしな」
こうして俺は明日からの冒険者生活の方針を固め、今夜は眠ることにした。
それに【魔呼びの笛】のレベルアップは魔物を引き寄せるという特性上、一応は明日宿の外で実行しようと決めた。