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5話 救出と報酬

『ゲゲゲゲゲゲー!』


 配下のゴブリンを全て失ったトロルが怒り、少女を放り捨てて俺へと迫る。


 振り上げられる棍棒、俺はそれを横に跳躍して避けた。


 迫力は凄まじいが、大振りな攻撃なら軌道を読めば当たらない。


 そして棍棒を振り切って隙だらけになったトロルへ、風鱗を三度振るう。


「直接斬る必要はない、飛距離のある斬撃……!」


 レベルが一個上がるだけでこうも変わるのか、これが超級魔道具。


『ゲゲゲゲゲゲァァァァァ⁉』


 切れ味のいい極長の剣戟を食らったような傷が三度トロルの胴に入る。


 体を切り崩されたトロルはそのまま棍棒を取り落として倒れていった。


「大丈夫ですか?」


 トロルに放り投げられた少女に駆け寄り、体を縛っていた荒縄と猿轡を切った。


 少女はこくりと頷いた。


「どうにか……。助けてくれて、ありがとうございました。私、あのまま……もうじき食べられちゃうって、ずっと思ってて……!」


 泣き出してしまった少女。


 けれどこんな場所に長居できないと、俺は少女を立たせて外へ連れ出した。


「俺、ノアって言います。あなたは?」


「……ローリンです。ローリン・マキュル」


「マキュル……?」


 一瞬、その名に聞き覚えのある気がした。


 でもそれを思い出そうとするより前、今はローリンをギルドへ連れ帰る方が先だと、俺は気を引き締めた。


 ……それから来た時と同様、半日ほどでギルドに到着した際。


 真夜中だというのに受付嬢がギルドで待っており、ローリンの姿を見ると目を潤ませて駆けてきた。


「ローリン……! よかった、本当によかったです……!」


「受付さん……! ごめんなさい、私、ゴブリン相手だからって油断して……」


 互いに抱き合うローリンと受付嬢。


 ……思えば、俺はこうやって兵団長のように人を助けたくて宮廷近衛兵団に入ったのだった。


 冒険者となった今でも同じようにできていると思えば、悪い気はしなかった。


「ノアさん、本当にありがとうございました! 報酬金以外に私からもお礼をしますから……!」


「わ、私からも!」


「いやいや、受付さんからそんなの貰ったら賄賂みたいになっちゃいますよ。ローリンさんもです。俺は依頼を受けて、ついでに助けただけですから。二人とも気持ちは嬉しいですが……そうですね。どうしても渡すと言うなら現金以外でお願いします」


 こう伝えると、受付嬢とローリンは静かに唸った。


 そして「あっ!」と受付嬢が表情を明るくする。


「でしたら、アーティファクトはいかがですか? 冒険者のノアさんには十分役立つかと!」


「アーティファクト……? えっ、受付さんが持ってるんですか? 冒険者じゃないのに」


 思わず聞き返すと、受付嬢は胸を張った。


「はいっ! 実は去年の暮れにギルド職員で宴会をやったんですよ。その時にやったくじ引きで引いたんです! 使えないけど売るには勿体ない……そうやって思っていましたが、ノアさんへのお礼になるなら是非!」


 そう言い、受付嬢は足早にギルドの奥へ去っていく。


 戻ってきた彼女は手に小ぶりな笛を持ち、それを「どうぞ!」と差し出してきた。


 武器ではなさそうだが、古代文字が刻まれている以上はアーティファクトで間違いない。


「怖くて吹いたことがないので、どんな効果かは不明ですが……何かの役には立つはずです!」


「ありがとうございます。それではいただきます」


 スキル効果の検証も含め、実はアーティファクトを幾つか欲しいと思っていたのだ。


 【上限解放】でどこまでスキルのレベルが上がるのか、レベルが上がるごとにどんな変化が魔道具に起こるのか。


 そしてどんなアーティファクトでもレベルが上がれば特殊能力を獲得、つまりは超級魔道具に至るのか。


 知りたいことは他にも諸々だ。


「ごめんなさいノアさん。私からのお礼はその、何をしたらいいかなって……」


「ローリンさん、いいんですよ。そんなの気にしなくても。でも……そうだ。強いて言うなら、これからパーティーを組んでくれませんか?」


「パーティー、ですか? ……私なんかでいいんですか?」


 ローリンは目を白黒させているが、全く構わない。


 こっちは知り合いもいないのでパーティーが組めず困っていたし、依頼の中にはパーティーでの参加が必須条件のものもあったからだ。


「俺もこの街に来たばかりなので、色々と教えてもらえると嬉しいです」


「……! 分かりました。そんなことでよければ、これからもお願いしますね」


 俺とローリンは互いにぎゅっと握手をする。


 ……後にして思えば、これがこのギルドや街で、ひと騒動起こしていくことになるパーティーの始まりとなったのだ。


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