4話 超級魔道具
ゴブリン。
子供くらいの背丈で暗緑色や青色の肌を持った低級の人型魔物。
一対一なら大人の男ならまず負けない。
でも奴らの強みは数と闇夜でもよく見える目だ。
故に奴らの巣である洞窟内ではこちらの居場所がバレるとしても、光を絶やさないのが鉄則となる。
「ここが依頼書にあるゴブリンの巣か。タイリーナから歩いて半日、案外近いもんだな」
タイリーナには古代遺跡であるダンジョンが多く存在し、その中から魔物が溢れ出てくる。
ゴブリンも遺跡から現れる魔物の一種だが、奴らはダンジョンの外へ逃げると手ごろな洞窟を見つけて巣を作る。
ゴブリンの巣がタイリーナの近くにある理由も、そういうことなのだろう。
「気分は本当に新米時代だな。松明持って、臭い巣の中に忍び込む……懐かしい」
俺は左手で松明を握り、右手でアーティファクト、風鱗を構える。
足元は木の枝やゴブリンの餌になった生物の骨で散らかっている。
極力音を立てないように進めば、奴らはすぐに現れた。
『ゴブゴー!』
『ゴブゴゴゴゴゴゴ!』
暗緑色の小さな魔物、ゴブリンだ。
奴らは錆びた斧や剣を振り回すが、狭い洞窟内ではそれは悪手だ。
ゴブリンの振った斧や剣は洞窟の壁に当たって弾かれ、振り方が雑になっていた。
「甘い、閉所ではこうやるんだ!」
隙だらけのゴブリンに風鱗で刺突を食らわせる。
倒したゴブリンを投げて次のゴブリンにぶち当て、そいつの脳天にも風鱗を一発。
細やかな動きでゴブリンを倒し、風鱗の刃を見る。
「古代文字は光ってる、内蔵魔力も十分に機能しているな。でもこの短剣、特に能力はないのか……ないよな」
アーティファクトには振るえば魔力が飛ぶもの、使用者を強化するもの、索敵能力付きのものなど……ごく稀に特殊能力を帯びたものが存在する。
それらはスキルにも劣らぬ力を持つ魔道具として、超級魔道具と呼称される。
けれどこの風鱗には大した能力はなさそうだった。
……貰いものにそこまで求めるのは酷か。
「ただの鉄剣じゃあゴブリンの皮膚を貫くのだって難しい。一撃で倒せる武器ってだけでも十分助かっているな」
ゴブリンを五体倒して奥へ進むと、すぐに行き止まりに辿り着く。
けれど最奥は広く部屋にようになっており、巣の規模は小さいながらそこには十匹ほどのゴブリンがいた。
加えて……。
『ゲゲゲ、ゲゲゲゲゲゲ……』
ゴブリンたちを囲んで座り込んでいるのは、青い肌をした巨人、トロルだった。
魔物も人間も食う凶悪な魔物。
兵団でも相手をした経験はあるが、等級にしてD級……宮廷に仕える熟練兵士数人ほどの強さを持った魔物だ。
ゴブリンは自分たちが弱いと理解しているのか、大抵はトロルやオーガを巣に住まわせ身を守るのだ。
ゴブリン討伐で面倒なのはここである。
また、その足元には蜂蜜色の髪を泥で汚し、荒縄で縛られて転がされている少女の姿があった。
よく見れば猿轡を噛まされ、首からは認識票が下がっている。
俺の姿を見ると、少女は虚ろな瞳で「んー! んー!」と叫んだ。
「あの子が受付嬢の言っていた冒険者か。食料として捕まって、飼われているってところか? ……胸糞悪いな!」
『ゴブゴブー!』
斧を持って飛び掛かってきたゴブリンをひらりと躱し、その背に風鱗の刃を突き入れた。
それを皮切りに他のゴブリンたちが飛び掛かってくる。
この場所は洞窟内でもそれなりに広い、機動力が殺されなければ躱すのは容易い。
だが……。
『ゲゲゲ、ゲゲゲゲゲゲ』
「きゃっ……⁉」
トロルが少女を持ち上げ、頭に棍棒を押し当てた。
お前が動きを止めなきゃコイツの頭を潰す、下卑た笑みでそう言っているような気がした。
──人質の解放が先か。
そう考えた時、これまで静かだったスキルが反応する。
【アーティファクトのレベル上限解放による強化を推奨します。
10Pを消費して上限を開放しますか?
所持ポイント36P
魔道具:風鱗
レベル:1→2】
「ポイントを渋っている場合じゃない。人質を助ける一手になるなら……!」
それに所持ポイントが6Pも増えている。
心当たりはただ一つ、倒したゴブリンの数と同じだ。
ポイントが魔物討伐で回復可能と分かった今、出し惜しみの必要はない。
「上限解放、レベルアップだ!」
【スキル保持者の要請を確認。
10Pを消費してアーティファクトのレベル上限を開放、強化します】
途端、風鱗が淡く緑の光を発する。
風鱗から感じる力、恐らくは魔力が柄を通じて感じるほどに高まっていく。
『ゴブ!』
「ハァッ!」
迫りくるゴブリンへと風鱗を振るう。
その瞬間、刃から緑色の風の斬撃が放たれ、周囲のゴブリンたちを両断してしまった。
「レベルアップで風鱗が能力を獲得したのか?」
特殊能力を獲得したアーティファクト、それは即ち、魔道具の頂点群。
「超級魔道具……!」