2話 【上限解放】スキル
少ない荷物を纏めた俺はそれを背負い、足早に兵舎を出た。
……非戦闘向きスキルを授かって兵団をクビになったなんて、仲間に合わせる顔がないからだ。
兵舎は宮廷のすぐ近くにあったものの、今は昼間で全員任務に出ていたので、誰にも会わずに去ることができた。
そしてすぐにラルフ王国の王都を出て、俺は駅馬車に乗った。
行先は東の大都市タイリーナだ。
ラルフ王国は国土の中央に王都を構え、四方を四大都市と呼ばれる大都市に囲まれている。
何故四方を大都市で囲み王都を守っているかといえば、王国の四方には古代遺跡であり人食いの魔物の根城でもあるダンジョンが存在するためだ。
俺はタイリーナで、魔物を倒しダンジョンを攻略する職、冒険者になろうと決めていた。
宮廷近衛兵団はクビになった、でも俺を助けてくれた兵団長のように強い生き方をしたい。
その夢だけは捨てられなかったから。
「やあ、若いの。あんた魔物狩りに、冒険者になりに行くのかい?」
ふと、駅馬車に乗り合わせていた老人にそう聞かれた。
「はい。冒険者になろうかと。でも、どうして分かったんですか?」
「そりゃタイリーナ行きの馬車だし。あんちゃん結構鍛えた体だし剣まで持ってちゃあ、きっとそうかなって思ったのさ。儂も昔はタイリーナで武器職人をやってたもんさ、見る目に自信はある」
老人は「どれ、ちょっと見せてみなさい」と俺の剣を指した。
俺は腰ベルトから鞘を外し、剣を老人に渡した。
「ふむ……。普通の鉄剣かい。魔力で体を守る魔物には効果が薄いが……これで魔物と戦う気かい?」
「若造の安月給だとダンジョン産の古代遺物の魔道具……アーティファクトは買えませんから。前職でも魔物の掃討任務の時に貸し出されたくらいです」
「うーむ……」
老人が苦い表情を浮かべるのは当然だ。
魔物は肉体が強靭で再生能力も高く、奴らを効率的に倒すには魔力の籠った武装、つまりはアーティファクトで攻撃する他ない。
アーティファクトで魔物の体を裂くことで、アーティファクトに込められた魔力の効果で魔物の再生も阻害できるといった寸法だ。
「……若いの、この武器じゃあ冒険者になったところで犬死しちまうよ。考え直す気はないのかい?」
「でも、俺には他に就ける職はありません」
スキルが非戦闘向きでも鍛冶系なり医療系なりだったら町や神殿で働き口を探せたのだけれど……生憎とそうはならなかった。
スキルはある種の免許証だ、謎のスキルを持った人間を好んで雇ってくれる場所はない。
強いて言うなら冒険者くらいだし、俺には鍛えた体くらいしか取り柄がなかった。
「……そうか。ならば仕方ない、これを持っていきなさい」
老人は自身の荷物から古びた短剣を出し、渡してきた。
引き抜くと刃の中央に古代文字が記されている。
つまりこれはダンジョン産の魔道具、アーティファクトだ。
「いいんですか? アーティファクトなら短剣でも金貨十枚は間違いないのに……」
「構わんさ。先の短い老いぼれが持つより、未来ある若人が握った方がずっといい。それにこんな魔道具、タイリーナに帰ればまだ何本もあるわい」
老人はそう言い、気前よく笑った。
俺は「ありがとうございます」と感謝を伝え、短剣に刻まれた古代文字に触れた。
どんなアーティファクトにも古代文字は刻まれているが、俺はこの凹凸のある不思議な質感がそれなりに好きだったからだ。
……そして、その瞬間。
【上限解放可能な魔道具を検知しました。10Pを消費して上限を開放しますか?
所持ポイント30P
魔道具:風鱗
レベル:1→2】
目の前に不思議な半透明な板のようなものが現れた。
……いいや、透けているから現れたように見えているだけなのか。
この瞬間に悟る、これが俺のスキルの力だったのだと。
「魔道具のレベルを上げる能力……? 聞いたこともないな」
何よりアーティファクトありきの能力だったから、今までスキルが起動しなかったのだ。
スキルの使い方が多少は分かった今、兵団に戻るか?
一瞬そう思ったが、すぐに首を横に振った。
「もうカイル班長が兵団長に報告している頃だ。それにアーティファクトを強化するスキルだったとしても、支援向きの非戦闘系スキルであるのに変わりはない……」
結局、俺はそのまま馬車に揺られてタイリーナに向かった。