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18話 カイルの末路

「クソッ! ノアの奴、どこに消えやがった……!」


 王都内のとある酒場にて、ジョッキを机に叩きつけながらカイルは苛立った声を漏らす。


 カイルは懲罰房より解放された後、兵団長のジェームズから次のように厳命されていた。


「貴様が勝手に放り出したノアを、貴様の責任で必ず連れ戻せ」──と。


 それ故、カイルは宮廷近衛兵団第二班の班長の任を一時的に解かれ、ノア捜索に専念していたのだが……。


 ノアの足取りは一向に掴めず、最後に人の集まる酒場で情報収集を行おうとした結果……カイル自身が飲み始めてしまう始末であった。


 ……カイルは戦闘力こそあるものの、逆に言えば取り柄はその程度。


 宮廷近衛兵団第二班の索敵、情報収集は下っ端としてこき使ってきたノアが担当していたのだ。


 そのノアが消えた今、カイル単独での一人前の情報収集など不可能であった。


「クソッ、クソクソッ‼ どうして俺があんな奴のために無駄な労力を割かなきゃいけないんだ……! 剣技しか取り柄のない男がどうした! 宮廷近衛兵団には腕利きも強力なスキル保持者も山ほどいるじゃないか!」


 酒が回って赤くなった顔で、カイルは周囲の目も気にせず怒鳴り散らす。


 その声に反応して周りの客の視線がカイルへ向かう。


 ……酔いのせいもあるが、カイルは未だにジェームズの下した命令に納得できていなかったのだ。


「何故俺みたいな学と力のある優秀な男が下っ端の捜索なんか……。その上、班長の任も解かれて復帰にはノアを連れ戻す条件付き。……こんな惨めな目に遭うなら、宮廷の中でも別の職に就けばよかったか……」


 正直、カイルはノアに頭を下げて「すまなかった、戻ってきてくれ」などと言うつもりは全くなかった。


 ……カイルのプライドが許さないのである。


 ぽっと出のノアに頭を下げ、自らの非を認めるなどと。


 けれどそうしなくてはカイルは第二班の班長へ戻れず、輝かしい出世街道は閉ざされることになる。


「……チッ。この手だけは使いたくなかったが……仕方ないか」


 実を言えば、カイルは一つだけこの状況を打開する方法を思いついていた。


 ノアに頭を下げる必要もなく、プライドは保たれ、恐らく第二班の班長へ返り咲ける方法。


 それは……即ち。


「ノアがこの世から消えちまえばいい。そうすれば詫びる必要はないし、団長だって死人を連れ戻せなんて命令は下せない」


 この上なく強引な方法であり、計画が露見すれば左遷どころでは済まされない。


 それ故、冷静な判断力を辛うじて保っていた先ほどまでのカイルには、この手は実行に移せずにいた。


 けれど……今の酔いが頭のてっぺんまで巡っているカイルには、冷静な思考など頭の片隅にさえ残ってはいなかった。


 即座に立ち上がって店の外へ向かい、自前の魔法石式通信機を起動する。


 通信先は、計画を実行に移すかはさておき前もって話をつけておいた、某S級冒険者。


「俺だ。少し前に依頼した件、覚えているか」


「……元宮廷近衛兵団のノアの殺害。金さえ積んでもらえればこちらとしても文句はない。しかしまさか、本当に依頼してくるとは……話を持ち掛けられた時以上に衝撃だ」


「こっちだってなりふり構っていられないのさ。俺の輝かしい未来がかかっているからな」


「輝かしい未来……承知した。ノアの捜索もこちらで行う、また後ほど」


 通信先の声の主はどこか呆れを孕んだ声音でそう告げ、通信を切った。


 実際、ノアの殺害を他者に依頼すれば、将来カイルが出世したところで致命的な弱みを握られる羽目になるのは明白なのだが……。


 当のカイルはノアへの怒りと嫉妬、それに酔いでそれどころではなかった。


「ノア……どうしてお前如きが兵団長と姫様からの期待を受ける! その期待は俺こそが相応しい。今に見ていろ、分からせてやる!」


 闇夜へ向かい、感情のままに虚空へ拳を振り下ろしたカイル。


 ……けれど、その後ろから。


「お客さん! 外に出るのはいいですけど、飲んだ分は支払ってくださいね!」


「たまにいるんですよ。酔って外に行ったまま戻ってこない方は」


 酒場の女将と店員が店から出てきて、外のカイルを追いかけてきたのだ。


 カイルは舌打ちしながら通信機を懐に入れ「分かっている、事情があったんだ」と店に戻っていく。


 その背を見送りながら、女将は呟いた。


「あの制服、宮廷近衛兵団の……。怖い人だねぇ。少し前に飼い猫を探してくれたノアちゃんとは大違いだけど……」


「……しっ! 女将さん、聞こえますよ!」


 店員が女将を止めた時にはもう遅い。


 その声を聞いていたカイルは、血走った眼を女将たちへ向けた。


「……あぁ? ノアがなんだって? お前らまで……俺とノアを比べるのかっ!」


 ……その日の晩、一人の男が憲兵隊に捕らえられた。


 酔いと怒りに任せてスキルを乱発し、女将や店員、酒場の客をいたずらに傷つけた男の名は、翌日の「王都新聞」にて広く知られることになる。


 宮廷近衛兵団第二班元班長、カイルと……。


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