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17話 ティリの誘い

 

 ティリの行きつけの酒場はタイリーナの外れにあり、意外なことに俺の泊まる宿とそれなりに近かった。


 物静かな性格のティリらしく、行きつけの酒場、月夜亭も閑静な場所だった。


 街外れでなおかつ地下という立地のせいかもしれない。


「いらっしゃいティリさん。……おや、今日は連れの方がいるんですね。一人で飲むのが好きなティリさんには珍しい」


 そう言ったのはカウンターでグラスを磨く初老の男性だ。


 この人が店主だろうか、朗らかに笑う背の高い人だった。


「近くで会ったから連れてきた」


「はは、承知です。ではごゆっくり」


 ティリは「ここが定位置」と言わんばかりにカウンターの隅に座った。


 その横に俺が座ると、ティリはこちらを向く。


「お酒、もう飲める?」


「成人の儀を終えたので一応は」


「なら店主。いつもの二つで。つまめる品も適当に」


「かしこまりました」


 店主が用意してくれたのは香りからして果実酒だった。


 酒は初めて飲むけれど美味しく感じる。


「……ノア。改めて聞くけど本当にスキルだけで宮廷近衛兵団をクビになったの?」


「はい。カイル班長が直々に、俺へ戦力外通告をしてきた形になりますね」


「カイル……はぁ。あの高飛車男。きっと今頃は上司に怒られて肩身が狭くなっている頃」


「いいや、そんなこときっとないですよ。……俺が非戦闘向きスキルを授かったのは事実ですから」


 するとティリは首を傾げた。


「なら、その認識票は何? こんな短期間でD級冒険者になるなんて……それなりの戦闘系スキルがなきゃ無理だと思ってた」


「ああ、それでティリさん、さっきから腑に落ちない表情だったんですね」


 ティリの認識としては「短期間でD級冒険者になれる戦闘系スキルがあるのにどうしてクビになったのだろう」といった認識なのだろう。


「実はですね……」


 酔いも手伝ってか、俺はこれまでの経緯をティリに話した。


 あまり身の上話は語るものでもないのだけれど、きっと誰かに聞いてほしいという気持ちもあったのだと思う。


 スキル、超級魔道具、D級への昇格。


 短い間ではあるけれど濃い日々。


 それらを聞いたティリは、おつまみを齧ってから一言。


「ノア、私と来て」


「……はい?」


「私の仲間になって。私のS級冒険者パーティーで面倒を見る。そのローリンって子も一緒でいい。将来有望そうだから」


 ティリは珍しく饒舌に、続けざまにそう告げた。


 S級冒険者パーティーで得られる報酬金は、もしかすれば宮廷近衛兵団で働いた際の給金より多いかもしれない。


 富と名声に力、全てを兼ね備えたのがS級冒険者だからだ。


 けれど……。


「すみませんティリさん。お誘いは嬉しいんですが……すぐには決められません。俺はローリンさんとパーティーを組んでいますから。まずは彼女の意見も聞かないと」


「ふふっ……そう言うと思った。普通、私が仲間になれと言えば、きっと誰もが飛びつく。でも……やっぱりノアは違う」


 ティリはグラスの酒を飲み切ってから言った。


「真面目で筋を通す性格。D級冒険者の仲間の話もちゃんと聞く。冒険者稼業では得難い人柄だし、やっぱりノアは欲しい」


「ティリさん……」


「明日、私もブラックスミスギルドへ行く。そこでノアの仲間に会いたい。構わない?」


 そう聞いてくるティリは、珍しく微笑を浮かべていた。


 ティリは表情が動かないことで有名なので、笑顔を見られて少しラッキーな気分だ。


「構いません。それでは明日、ブラックスミスギルドで待ち合わせにしましょう」


「ん、分かった」


 ティリはそれから次の酒を店主に注文し、今度は彼女の近況について語ってくれた。


 その表情は不思議と上機嫌そうだったのが印象的だった。


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