16話 S級冒険者
ヘンリーを縛ってギルドまで連行して「ヘンリー、この愚か者めが……」と呆れるマスターに引き渡した後。
俺は受付嬢のもとへ向かい、採掘した魔法石を納品した。
「これは……! とても質のいい魔法石ですね。元々F級依頼で解放されていたダンジョンの品とは思えないほどです」
「俺も初めて見た時は驚きました。こんなに強く輝く魔法石も珍しいですよね」
そう言いつつも、竜であるヴァーミリオンの巣から採掘された魔法石だから、と心の中で付け足した。
「それではお二人とも、本日はお疲れ様でした。こちらが報酬金と……ギルドマスターからお預かりしていましたD級の認識票です」
「マスター、私たちがちゃんと戻ってくるって信じて最初から準備してくれていたんだね。嬉しいなぁ。そうだよね、ノア?」
「ええ。俺も嬉しいです。信用されていたってことですから」
俺とローリンはF級の認識票を受付嬢に渡し、D級の認識票を身に着ける。
F級の認識票より、D級の認識票の方が装飾は少し豪華になっている。
昇級すればするほどに認識票が豪華になっていく仕様なのだろう。
それから俺はローリンと報酬金の銅貨六十枚を三十枚ずつ山分けした。
本来、F級の魔法石採掘の報酬は銅貨二十枚ほどだが、六十枚まで増えた理由はダンジョンにグリフォンが入り込んでいたからだろう。
「……そういえばさ。あの竜ってどうするの? グリフォンが倒れた今、あのダンジョンには魔法石を採掘しに他の冒険者も入り込むと思うんだけど……」
ギルドから出た際、ローリンに小声でそう聞かれた。
「大丈夫です。住処を移すようにと話しておきました。俺の話を理解してくれているなら、山向こうの洞窟に移ったはずです。あのダンジョンには魔物もほとんど生息していなくてヴァーミリオンも食糧不足で困ると思ったので」
「そういうことなら大丈夫だねー。いつかヴァーミリオンに乗って遠出するのも悪くないね」
「ヴァーミリオンが俺たち二人を乗せてくれれば、ですけどね」
竜は従えられても気性難と聞くので、そこはヴァーミリオンとの信頼関係次第だろうか。
次会いに行く時には肉でも持って行ってやろう。
「それじゃあノア、今日はここで解散ね! また明日!」
「はい、また明日」
手を振ってローリンは駆けていき、そのまま人込みに消えていった。
夕暮れ時のこの街は朝よりも賑やかだ。
仕事から帰る者、酒場に繰り出す者、店を閉める前に少しでも品を売ろうとする者……。
「王都も好きだったけど、ここもいい街じゃないか」
ここは東の大都市タイリーナ。
他の四大都市にも依頼があれば行ってみようと思いつつ、俺も宿屋へ戻ろうと足を進めた。
……そんな折、ふと「あの」と声をかけられた。
実は先ほどからなんとなく視線を感じてはいたものの、殺気もないので「そろそろ撒くか」と考えていた次第だった。
けれど話しかけられてしまえば是非もない。
振り向いてみれば、そこには……。
「やっぱりノア。久しぶり」
「ティリさん、どうしてこんなところに」
俺に声をかけてきたのは知り合いの冒険者、ティリだった。
銀髪碧眼の落ち着いた雰囲気を纏った若い女性で、今日も白金色の鎧を纏っている。
ティリは西の四大都市にあるギルド所属のS級冒険者で、王国最高峰の六大冒険者の一角でもある。
その実力から宮廷近衛兵団からティリに救援依頼を出し、共に動いて魔物や事件の対処に当たったこともある。
「ちょっと用事があってきた。ノアこそ、どうしてここに?」
「その……実は冒険者に転職したんです。前の宮廷近衛兵団をクビになったので」
「……クビになった? ノアがクビになるほどの失態を犯すとは思えない」
「それが犯したというか授かったというか……」
「授かった? ……まさかスキルが原因? 前にあった時、成人の儀はまだだったと思うし」
ティリは鋭い洞察力の持ち主で、その力に俺たちは何度も助けられた。
……その一方、クビの原因を見抜かれた俺は苦笑する他なかった。
「……宮廷近衛兵団、馬鹿な連中。ノアを手放すなんて……ううん、寧ろ好都合」
ティリは俺の手を掴み、ぐいぐいと引いていく。
「あの、どこへ?」
「行きつけの酒場へ。話を聞きたいから」