14話 急襲
ヴァーミリオンが住処にしているダンジョンには他の魔物は一切いなかった。
既にヴァーミリオンが食べてしまったのか、グリフォンとの縄張り争いに巻き込まれたのか。
最奥部の魔法石が生えている箇所まではスムーズに進めた。
「ここがこのダンジョンの魔法石採掘ポイント……凄い量の魔法石!」
ローリンが歓声を上げた。
ダンジョンの壁や天井から巨大なクリスタル状の魔法石が伸び、青や赤、緑色に輝いている。
「納品条件は五十キロスでしたが、総量は数千、もしくは数万キロスはありそうですね……」
ダンジョンに生える魔法石は内部の魔物が強力であるほど量を増やす。
竜に加えてグリフォンが入り込んだことで一気に魔法石の成長が進んだのだろう。
「……それに魔法石の生えている場所、石板や壊れたアーティファクトが転がっていますね。古代文明の遺跡なだけあります」
「まだ使えるアーティファクトがあったら万々歳だったのになぁ。今使っている私の弓、実は予備なんだよね。メインで使っていたやつはゴブリンに壊されちゃったんだ」
ローリンが周囲を見回しながらそう言う。
アーティファクトは古代文明の遺産、故に状態のいいものは貴重だ。
特殊能力なしの非超級魔道具な短剣でさえ、価値にして金貨十枚以上は間違いないのだから。
「これはヴァーミリオンとグリフォンの縄張り争いでほぼ壊されたようですね。魔法石もへし折れて転がっているものもありますし。……ヴァーミリオン?」
『グウ、ウウウ』
ヴァーミリオンは自分の寝床と思しき場所から何かを咥え、こちらに持ってきた。
それは三十セルチほどの杖のようだった。
「くれるんですか?」
『ルルルル……』
ヴァーミリオンから渡された杖を握ると、ウィンドウが反応する。
【上限解放可能な魔道具を検知しました。10Pを消費して上限を開放しますか?
所持ポイント22P
魔道具:雷鳴
レベル:1→2】
【雷鳴 レベル1
内蔵魔力の消費により雷撃を放つ杖。
レベル1では一日に三回まで使用可能。
レベルの上昇により一日あたりの使用可能回数と威力を強化できる】
「最初から雷撃を放つ特殊能力を持つ杖……超級魔道具か!」
これで手持ちの超級魔道具が三つ。
幻とさえ言われる超級魔道具が短期間で三つも手に入るとは、スキルの力も合わせて運がいいと言えるだろうか。
「それとグリフォンを倒したのに、魔呼びの笛の強化で10P使った分から増えていない。……グリフォンにトドメを刺したのがヴァーミリオンだったからか?」
そこから考えると俺自身が魔物にトドメを刺さなければ強化用ポイントは増加しないのか。
少し残念には感じるけれど、強化用ポイントについてはさておき。
今は依頼を達成しよう。
「ローリンさん、魔法石の採掘に入りましょう」
「分かったわ! はいこれ、ノアの分のツルハシね」
俺とローリンの二人はツルハシを握り、壁から生える魔法石に向かって振り下ろす。
魔法石は硬いので何度もツルハシを振り下ろさないと砕けない。
それなりに力を使う作業ではあるものの、冒険者二人がかりなら難しくない。
加えて縄張り争いの影響で地面に落ちていた魔法石も拾い集めれば……。
「五十二キロス、これだけあれば十分だね」
ローリンは荷車に積み込んでいた秤に魔法石を乗せ、満足気な笑みを浮かべる。
「これもノアのお陰だね。超級魔道具を使って竜まで手懐けて……本当に凄い力。宮廷近衛兵団をクビになったのが不思議なくらい」
「いいえ、それは仕方のないことです。宮廷近衛兵団に求められるのは単身での一騎当千の力。最終的には戦闘向きスキルがモノを言う世界ですから。……さあ、そろそろ帰りましょうか」
「魔法石も回収できたしね。でも……どうしよう。よく考えたら帰り道は落石で塞がっちゃってるし……!」
するとヴァーミリオンが『グルゥ!』と喉を鳴らした。
「大丈夫、ヴァーミリオンがどかしてくれるはずです。契約したからか、ヴァーミリオンからそういう意思が伝わってくるんです」
「よかった。それなら無事に帰れそうだね……」
ローリンはほっと胸を撫でおろしていた。
それから来た道を戻り、ヴァーミリオンの爆炎のブレスで落石を穿ち、人が通れる程度のトンネルを作ってもらった。
そこを潜ってローリンと一緒に落石を抜けた……その時。
「……っ! ノア、上よ!」
凄まじい速度で弓を構えたローリンが俺の頭上に矢を放った。
直後、上を向くと俺へと落下してきた男……ヘンリーが剣で矢を弾いた。
「チッ! 奇襲失敗かよ!」
「ヘンリーさん……!」
後退して降ってきたヘンリーを躱す。
ヘンリーは着地した途端、双剣を構えて怒声を張り上げた。
「まさかあの落石の中で生きているとは思わなかったが、待ち構えていて正解だったぜ。……新入り、俺と勝負しやがれ! ギルドでの借り、ここで返してやらぁ!」