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13話 炎竜ヴァーミリオン

 竜とグリフォンの間に割って入る、これは容易なことじゃない。


 小屋ほどの大きさの魔物二体の間に無策で挟まれればあっという間にぺしゃんこだ。


 ……宮廷近衛兵団にいた頃、兵団長からこう言われたのを思い出す。


 ──ノア、お前にはまだスキルがない。お前にあるのは鍛えた体と技、あくまで人間の範疇の力しかない。正面からぶつかれば魔物にはどうやっても劣る。……だからこそ考えろ。お前の持つ力を総動員して状況を打開する方法を、まずは必死に考えてみるんだ。


「決して諦めるなよ坊主。生きてりゃ何とかなるもんだ……か。……そうですね。超級魔道具があるからと言って、いきなり斬りかかるのは下策ですよね」


 ここで前衛の俺が倒れれば、次は間違いなく後衛のローリンの番だ。


 だから俺が先に倒れる訳にはいかない。


 ……ならば的を分散させる必要があり、それを可能にする魔道具を俺は受付嬢からもらっていた。


 腰のポーチから笛を取り出し、古代文字に触れる。


【上限解放可能な魔道具を検知しました。10Pを消費して上限を開放しますか?

 所持ポイント32P

 魔道具:魔呼びの笛

 レベル:1→2】


「この場所なら魔力が多少暴発しても構わない、上限解放だ!」


【スキル保持者の要請を確認。

 10Pを消費してアーティファクトのレベル上限を開放、強化します】


 上限解放を宣言した途端、魔呼びの笛が輝き、一回り大きくなった。


 古代文字の並びが増え、草木のような装飾が刻まれ、より立派な代物になっていく。


【魔呼びの笛 レベル2

 奏者に従う魔物を召喚する笛。

 現在のレベルではゴブリン、コボルト、スケルトンのうち計五体の同時召喚が可能。

 レベルの上昇で従える魔物の種類と数が増加する。

 また、魔物五体の召喚権を代償にしてテイム契約に応じる魔物を使役可能】


 ウィンドウを見れば、魔呼びの笛の魔物の召喚能力が強化されている。


 さらに魔物を従える能力まで付与されており、これが魔呼びの笛の特殊能力だとすれば超級魔道具化した訳だが……今は五体にまで拡張された魔物の召喚能力の方がありがたかった。


「魔呼びの笛、コボルト五体を召喚だ!」


 そう言って笛を吹くと、笛からピィー! と鳥のような音が響く。


 一瞬、竜とグリフォンの動きが止まり、俺の前には魔法陣が展開された。


 笛の効果で現れた召喚系スキルと同様の魔法陣の中から、漆黒の体毛を持った人狼、コボルト五体が現れた。


 コボルトたちは俺の前に跪き、指示を待っているようだった。


「五体とも、竜とグリフォンの戦闘を止めてください。そのために……竜をグリフォンから引き剥がします!」


『グオッ!』


 コボルトが吠えて応じ、グリフォンへ向かって行く。


 グリフォンを狙わせた理由は、このダンジョンの主が竜だからだ。


 竜も邪魔者であるグリフォンさえ倒せば恐らく落ち着くだろう、俺はそう考えた。


『クエエエエエエ‼』


 嘶くグリフォンは体に張り付くコボルトを排除しようともがく。


 けれどコボルトは身軽で強靭な爪と牙が売りの魔物だ。


 俊敏な動きでグリフォンをかく乱し、的を絞らせない。


 そして今なら……。


「風鱗!」


 風鱗を振るい風の斬撃を飛ばせば、グリフォンの胴に深々と傷が入った。


 羽毛で覆われているグリフォンはさほど硬くない魔物だ。


 ダメージの入りは悪くない。


『キュオオオオオオオッ!』


 グリフォンの注意がこちらへ向く。


 コボルトに妨害されていても俺へと突進してくる構え。


 でも、そう簡単にはいかないだろう。


「ローリンさん!」


「任せてノア、もう構えているわよ!」


 【破魔印】スキルで印を刻んだ矢と弓を構えたローリンは一息で放った。


 風を切って走る矢、それは狙い過たず俺が風鱗で付けた傷跡へと刺さった。


 良い腕前だ。


『キュオゥ!?』


 途端、グリフォンの動きが鈍る。


 【破魔印】スキル入りの矢で生命力である魔力の活性を抑えられたのだ。


 この【破魔印】スキルは魔物にとっては毒に等しい効力を持つ。


 次いでローリンが二本の矢を叩き込むと、グリフォンは肩で息をして動きを止める。


 その隙に風鱗でさらに斬撃を入れ、追撃を仕掛けた時。


『オオオオオオオッ!』


 グリフォンに襲われ防戦一方だった竜が逆襲と言わんばかりにグリフォンにのしかかり、その首に噛みついて倒し切った。


 完全に倒されたグリフォンに勝利の雄たけびを上げる竜。


 ……さて、後はあの竜がこちらに襲い掛かってこないかだが……。


 竜はドスン、ドスンとこちらへ歩んできて、俺へと鼻先を近づけてきた。


 コボルトたちが慌てた様子で竜を押し留めようとする。


「待って、大丈夫です。竜は警戒や威嚇している時には体を大きく見せようと翼を広げますが、今は閉じて呼吸も落ち着いています。争う気はないでしょう」


 そう伝えるとコボルト五体は頷き、俺の後ろに控えて跪いた。


 また、竜はそのまま鼻先を俺の左手へ近づけた。


 そこには握ったままの魔呼びの笛があり、スキルウィンドウが反応する。


【竜がテイム契約を求めています。契約しますか?】


「テイム契約って……グリフォンを倒したお礼ですか? 律儀なドラゴンですね……」


『ウウゥ……』


 竜はこちらを見たままじっとしている。


 竜は知性が高く人間の言葉もある程度は理解できるそうなので、こういう律儀な態度に出るのも分からなくもない。


 このテイム契約に応じればコボルト五体の召喚権を失い、多分、また魔呼びの笛のレベルを上げて召喚可能数を増やさないといけない訳だけれど……。


「……分かりました。竜の力があればこの先、できることもきっと増える。契約に応じましょう!」


『オオォッ!』


【竜・種族名炎竜との契約に成功しました】


 その表示が出た途端、コボルトたちが光となって消滅する。


 恐らくは元居た場所に戻ったのだろう。


【炎竜の個体名を指定しますか?】


「個体名……つまり名前か」


 せっかく契約したのだからかっこいい竜に相応しい名前を送りたい。


「赤い鱗の炎竜……よし。お前は今日からヴァーミリオンです。安直ですが、響きもかっこいいかと!」


『オオオオオオッ!』


 ヴァーミリオンは喜んだのか、天上へと小さくブレスを吐いた。


 こうして俺は炎竜のヴァーミリオンとの契約を果たしたのだった。



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