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12話 ダンジョンに潜む者

 

 ダンジョンには宮廷近衛兵団での任務で何度か入ったことがある。


 宮廷近衛兵団は「近衛」と付くものの、君主の護衛以外の任務も多岐に渡って実行する。


 何せ基本的には宮廷近衛兵団は君主を、王族を守れると判断された精鋭の兵士が集っているのだから。


 一般の兵や部隊などが対処しきれない場合、仕事がこちらまで回ってくるケースがあるのは珍しくなかった。


 そして、その中の一つが「一般兵や冒険者では手に余る、強大な魔物の潜むダンジョンの攻略」だった。


「このダンジョンは思っていたより広いですね。でもその割に魔物の気配が全くない。グリフォンが侵入する前は普通の魔法石採掘依頼として張り出されていたダンジョンなだけありますね」


「うん。でも……逆に不気味だよ。岩陰や地面からアンデッドが這い出て来そうな雰囲気……」


 そう話すローリンは顔を少々青ざめさせていた。


 ローリンはどうやらアンデッドの類いが苦手な様子だ。


「大丈夫ですよ。地面は硬いのでアンデッドが掘って潜める状態ではありません。これだけ道幅が広ければ岩陰から奇襲されても十分対応できるはずです」


「ノアがそう言うなら大丈夫かな……。流石は元宮廷近衛兵団、冷静だね」


「こんな若造ですが修羅場はいくらか潜り抜けてきましたから、多少の経験則くらいはあります……止まって」


 荷車を引くローリンを手で制し、俺はゆっくりと前に進んだ。


 そこには倒れ、骨ばかりとなった魔物の死骸が転がっていた。


「何の魔物の骨? まさか人間じゃないよね?」


「太さも形も違います、人間ではないでしょう。恐らくはハイコボルトやトロルあたりの中型の魔物かと。しかも骨に歯型……食い荒らされた形跡があります」


 そこまで確認し、脳裏に閃きが駆け抜けた。


 ……今まで少々不審に感じていたのは、グリフォンが何故こんなダンジョンに入り込んだまま外に出ていかないのか、というところだった。


 マスターからもらった書類ではグリフォンは一週間ほど内部に引き篭もっているとの話であり、餌の魔物を食い尽くすにしては時間がかかりすぎている。


 ならばグリフォンがダンジョンのボスに敗れて食われた可能性も……と心のどこかで感じていたが、それはあり得なさそうだ。


 実際、この場所は歯形の主が消化できない骨を捨てる場所のようだが、グリフォンの骨は一切ない。


 となれば、恐らく……。


「ローリンさん。一旦この場から離れましょう。俺の推測が正しければ多分……」


『グオオオオオオオオオオオ!!!』


 ローリンに提案した途端、ダンジョンの岩壁が真横から吹き飛び、その向こうにあった空間から二体の魔物が転がり出てきた。


 取っ組み合うように暴れるのは、獅子の体に鷲の頭と翼を持った魔物、グリフォン。


 もう一方は恐らく骨に残った歯形の主。


 地面を踏みしめる強靭な脚、空を掴む翼、爬虫類めいた精悍な顔と鋭い角。


 魔物の頂点種の一角、竜だった。


 とはいえ大きさは小屋ほどのグリフォンとほぼ同等で、竜にしては小さい。


 恐らくはまだ子供か、亜成体なのだろう。


『フォォォォォォォォォ!!!』


『オオオオオオオオオオ!!!』


 ダンジョン内で二体がお互いを食い合うようにして暴れ、そのたびに体をダンジョンのどこかに打ち付け天上から岩が崩れ落ちてくる。


「やっぱりそうか……! グリフォンはまだ食事を終えていなかったんですよ。ダンジョンの主である竜を食おうと縄張り争いをずっと続けていたんだ!」


「それってどういうこと……? きゃっ!」


 真上から降ってきた岩に当たりかけたローリンが小さく悲鳴を上げる。


 腰から長剣を抜いてローリンを庇いながら、俺は話を続ける。


「魔物は強大な魔物を食うほど体内に魔力を蓄積し、より強くなる。だから魔物同士で食い合うことはよくあります。……あのグリフォンはどうやら、最初からこのダンジョンで竜を食うつもりだったようですね」


「そんな……! 最低でもB級以上の竜と、それと渡り合うグリフォンなんて! もうC級どころの危険度じゃないじゃないーっ!」


 ローリンはもう半泣きだった。


 気持ちは分かるけれど泣き言だけでは何も好転しない。


 けれど状況はさらに動き、二体の魔物が暴れる衝撃で、進んできた道が岩雪崩で崩落してしまった。


「そんな、退路が……! このままだと生き埋めにされちゃうっ!」


「……仕方ない、あの二体を止めます!」


 俺は風鱗を引き抜き、二体に向けて構えた。


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