9. エーティア街
ヴェルファイアの厚意により、俺たちは隣国のフェイド国まで送り届けてもらった。
あと数日ほどかかる予定だったものを、一気に短縮できたことは嬉しかった。
流石にこのまま街に入る訳にはいかなかったので、近くで降ろしてもらう。
感謝を述べると、ヴェルファイアが飛び去った。
フェイド国、エーティア街に到着する。
俺たちはエーティア街を歩きながら、【蒼月】のメンバーと話す。
シャシャが呟いた。
「ほ、本当にドラゴンの背中に乗っちゃった……」
「俺……この冒険で凄い経験したかもしんねえわ……」
パーティーリーダーであるアッシュは、目頭を押さえ、ため息を漏らす。
「これは現実なのか……? あの昨夜の出来事ですら信じられんというのに……本当に【炎龍王】の四天王を倒すとはな……」
どうやら、これは普通のことではないらしい。
アグニが言う。
「あの程度のドラゴン如きで、何を驚いている。貴様らは倒せないのか?」
「あ、当たり前だ! 【煉獄山】だけでも人間が踏み入れたことのない伝説の地だ。常に灼熱に覆われ、息をするだけで喉が焼ける。かの宮廷魔法使いですら、入口までが限界だったという話もある。そこからやってきた【炎龍王】の四天王を倒したなんて……」
【煉獄山】って、そんな凄い場所だったんだ。
そう思い、アグニに視線を向ける。
「アルム様、あんなの火山が噴火してるだけの場所ですよ」
「へぇ~」
アッシュが言う。
「へ、へぇ~って……それが異常だって話をしてるんだが……」
どっちが正しいんだろう。
まぁ、アグニは直接見てきたし、そこで生活もしてただろうからそっちが正しいか。
「まぁ正直、俺たちはアルム、君に助けられたようなものだ」
「いえ、そんなことはありませんよ」
実際、俺とアグニだけだったら少し寂しかったかもしれない。
久々に暖炉を囲んで人とご飯を食べた。
居心地が良かった。
「この馬鹿が、あんなところで【発妖酒】を開けたからドラゴンにバレたんだからな!」
「えっ? 俺のせいか!?」
「当然だ! ちゃんと謝れ!」
カインは気まずい様子で、俺に頭を下げた。
「すまねえ……調子に乗った」
「気にしないでください。カインさんに励ましてもらえて嬉しかったですし」
「あ、アルムぅ……」
俺も良い感じに魔法が試せてよかった。
【擬人化】させたアグニの一個体の魔力は膨大であることも分かったし。
他の【擬人化】させた奴らが帰ってくれば、俺もそれ相応の強さになっているだろう。
「じゃあ、俺らはここで」
「え、アルムくんもう行っちゃうんですか?」
「はい、冒険者ギルドに行って登録するので。またどこかで会ったらよろしくお願いしますね」
報酬はエーティア街に到着した時、渡した。
だから、実質的にそこで別れても良かったのだが、居心地が良くて離れ辛かったのだ。
「あぁ、またな。アルム」
「また会おうぜ!」
微笑んでからその場を歩いて離れる。
いつまでも側に居たら、【蒼月】に入りたくなってしまう。
「あっ……」
遠ざかっていくアルムの背中に、シャシャが手を伸ばす。
「……なんだ、シャシャ。やけに落ち込んでいるな」
「へっ!? い、いや別に? 違うけど? アッシュの気のせいじゃない?」
カインが横から顔を出した。
「もしかしてシャシャ、お前アルムに惚れたのか?」
「なっ! 違うってば! ちょっと良いなぁって思ったくらいで……でも、魔法使ってた時のアルムくん、恰好良かったなぁ……」
「やっぱ惚れてるじゃん」とニヤニヤするカインの頭を、シャシャは軽く殴った。




